第069話「焼肉パーティー」★
き、き、き、金の魔石だぁーーーー!!
え、ちょ、待って!? マジで? 俺も初めて見たんですけど!? ヤバいでしょ! 雫の奴、運がいいとは思ってたけど、まさか金を引き当てるなんて……。
「ちょ、ソフィアちゃん! これって金の魔石じゃないの!? うそー!?」
「凄いです……。私、初めて見ました……」
「ソフィア先輩! 早く鑑定してください! もしかして億単位の価値があるやつじゃないですか!? そしたら山分けですよ!」
「お、落ち着けお前ら! ……よし、今鑑定するからな。少し待ってろ」
俺は興奮している3人を宥めてから、床に転がっている金色の魔石を手に取る。大きさはソフトボールくらいだろうか。かなり小さめなので、武器とかではなさそうだ。
早速魔石を割って中身を確認してみると、中には真っ白な卵のような物体が入っていた。
「なんだ……。ただの卵じゃないですか。これじゃあ、億単位の値段はつかないですねー」
未玖ががっかりしたような声で呟くが、そんなことはない。この手のアイテムは、見た目からは想像出来ないほど貴重な物だったりするものだ。
俺は卵を手のひらに乗せると、アイテム鑑定のスキルを発動させた。
【名称】:霊獣の卵
【詳細】:特殊な能力を持つ精霊や聖獣が生まれると言われている卵。魔力を注ぎ込むことで成長を促し、孵化させることができる。魔力を流し込んだ人物によって、生まれる霊獣の種類が変わる。
「おお、これはめちゃくちゃレアなアイテムだぞ! エルドラドのオークションに出せば、億を超える値段がつくかもしれねーぞ!」
「ぎゃー! やったー! 4人で山分けしても2500万! 中学生にして大金持ちだー!」
未玖は両手を挙げて大喜びしているが、雫はなんだか複雑そうな表情をしている。まあ、妹が何を考えてるか、お兄ちゃんには何となくわかるけどね。
「ねえ、おに……ソフィアちゃん。私、これ育ててみたいんだけど……。駄目かな?」
「ちょ、ちょっと雫姉ぇ! 億だよ億! 売れば大金持ちになれるんだよ!?」
「いや、だって霊獣の卵だよ!? もしかしたらフェニックスとか妖精とかが生まれてくるかもしれないじゃん!? それこそ卵なんかよりよっぽど価値ある子が誕生するかもしれないでしょ!?」
「……む。それは、確かに一理あるかも」
雫の熱弁に、未玖が考え込むように呟く。
「私も雫に賛成です。金の魔石を引き当てたのも雫ですし、あと……正直私も霊獣ってどんな感じなのか見てみたいです」
「俺もそっちの方がいいと思うぜ。金なんて探索者をやってりゃいくらでも稼げるが、激レアアイテムを手に入れるのはなかなか難しいからな」
琴音と俺の言葉を聞いた未玖は、大きく溜め息を吐くと、諦めたように首を振った。
「わかった、わかりましたー。お金は確かに魅力的だけど、ぶっちゃけ私も霊獣ってちょっと興味ありますしー。雫姉ぇが育てたいなら、それでいいよ」
「やったー! ありがとう未玖! 流石親友!」
「ちょ、抱きつくな! 暑苦しい!」
雫が未玖に抱きつき、2人はそのままじゃれ合い始めた。うむ、仲良きことは美しきかな、だな。
「ほら、決まったらさっさとセーフティーエリアに行くぞ。この後は焼肉パーティーが待ってるんだから、早く準備しないとな」
俺の言葉に未玖と雫はピタッと動きを止めると、顔をほころばせながら俺の背中を押して歩き出した。
「あれ、何か20階までと随分雰囲気が違うね」
セーフティーエリアに入るなり、雫が不思議そうに周囲を見回しながら呟く。
そこはまるで、キャンプ場のように、そこかしこにテントやタープなどが設営されていた。ギルドの職員らしき人達もちらほらと見える。出張販売所のようなものも設置されていて、ドリンクや軽食なども売られているようだ。
「ああ、20階までは日帰りで行けるけど、それ以降はダンジョン内で宿泊しなきゃいけないからな。この30階のセーフティーエリアはちょうどキャンプ地みたいになってるんだよ。31階から40階は色々な魔物が出現して、いい魔石も取れるから、ここを拠点に何日も潜る奴らも多いんだぜ」
俺がそう説明すると、未玖が「ほえ~」と感心したように声を上げた。琴音は来たことがあるみたいなので、特に驚いた様子もない。
「それじゃあ、ちょっくら貸しテントを借りてくるわ」
「え? 小さな家があるからテントとか要らなんいんじゃないの?」
「あのなぁ、小さな家は激レアアイテムだぜ? こんな大勢がいるところで、全員で中に入ったら誰かに盗られる可能性もあるだろ? だから、カムフラージュ用にテントを使うんだよ」
俺は雫の疑問に答えながら、近くにいるギルド職員に声をかける。
「すみません、テントを一つ借りたいんですけど、空きはありますか?」
「ええ、大丈夫ですよ。こちらにどうぞ」
職員は笑顔で頷くと、俺を空いているテントまで案内してくれた。
案内されたテントは、4人用でかなり広い。中には寝袋やランタンも置いてあり、快適に過ごせそうだ。まあ、俺達はどのみち小さな家の中で過ごすから、あまり関係ないんだけどね。
「うん、いいんじゃないかな。それじゃあ、このテントを一晩お願いします」
「はい、ではギルドカードを提示してください」
職員にそう言われたので、俺はギルドカードを取り出して渡す。
ダンジョンの中には、お札は持ち込めても、硬貨が持ち込めないので、買い物をする場合、基本的にギルドカードにツケ払いの形になる。ギルドカードは魔物の素材を使って作られているので、ダンジョン内にも持ち込むことが出来るのだ。
職員の女性は、何やらマジックアイテムのようなものを操作した後、カードを返却してくれた。たぶんあれで支払いの記録をしているのだろう。
「飲食の方はいかがなさいますか?」
「いえ、自分達で準備してきたので大丈夫です」
30階まで食料を運ぶのは、当然労力がかかるので、ここで売ってる物は、富士山の途中にある自動販売機よりも高い。まあ、それでもここまで登ってこれる探索者からしたら、大した金額じゃないんだけどね。
俺達は借りたテントの中に入って鍵をかけると、小さな家の中に移動した。
「ふえー、相変わらず便利ですねー。ダンジョンの中でこんな快適に過ごせるなんて」
「そうですね、テントで泊まるのとは大違いです」
ソファーに腰掛けながら、未玖と琴音が感心したように呟く。雫もうんうんと頷いていた。
「にしし! いいでしょー! それより着替えたら早速焼肉パーティー始めようよ!」
雫達が私服に着替えている間に、俺はテーブルの上にバーベキューコンロを設置して、皿の上に次元収納から取り出した肉や野菜を並べていく。
「ソフィアせんぱ~い! トイレどこー?」
「ああ、部屋の隅の扉から行けるぞ」
俺がそう答えると、未玖はトイレの中に入っていった。が、すぐに扉がバンッと音を立てて開き、血相を変えて飛び出してきた。
「どうやって水流すの!? 洗面所もトイレも蛇口ないんですけど!」
「手を当てる場所があるだろう? あそこに魔力を流せばだな――」
……あ、こいつ魔力ねーじゃん。雫は魔核があるし、琴音は魔装という魔法系のスキル持ちだから魔力を持ってるけど、こいつだけ魔力なしだったわ。
「私、魔力ないんですけど! トイレ流せないじゃないですか!」
「やれやれ、しょうがない。こいつを持っていけ」
俺は右手をかざすと、そこからシャボン玉のようなものを出現させた。それはフワフワと空中を漂いながら未玖の前まで移動する。
「魔力の塊をコーティングして、シャボン玉みたいにしてみた。これを所定の場所に押し当てれば水が流れるから、やってみな。あまり乱暴に扱うなよ、弾けて消えるからな」
「……おおう、ありがとうございます……」
未玖は恐る恐る手を伸ばすと、そのシャボン玉を持って、トイレの中に入っていった。
この小さな家は異世界製なので、地球人が使いやすいようには出来ていない。魔力を持っていることが前提として作られているし、風呂場もないから、広い洗面所を改良して、簡易シャワールームを設置してある。
しばらくして、トイレを流す音が聞こえてくると、未玖がリビングに戻ってきた。
「手は洗ったか? もう準備は出来てるから、早く座れよ」
「おお! 凄いですね! こんなご馳走、ダンジョンの中で食べられるなんて贅沢すぎですよ!」
未玖は琴音の隣に腰掛けると、楽しそうに声を上げる。俺の隣には雫が座っており、2人とは向かい合う形だ。
そして、全員が席に着いたのを確認すると、俺は早速バーベキューコンロの火を付ける。
「おに……ソフィアちゃん! ミノ舌は? 私早くミノ舌食べたい!」
「落ち着け雫、まずは野菜、そして肉はカルビからだ」
俺は雫を宥めるように言うと、トングで肉や野菜を焼き始めた。ジュウ~、という音とともに、香ばしい匂いが部屋中に充満していく。
「うわ~、いい匂いですね」
「もう食べてもいい!? 良いよね!?」
「まだだ! まだ焼き具合が甘い! もう少し我慢しろ」
「でたよ……。ソフィアちゃんの焼肉奉行が……。この人、焼肉になると昔からこうなんだよね……」
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/mezukusugaki/news/16817330669048121007
雫が呆れた様子で溜め息を吐くが、俺は気にせず肉や野菜を焼き続ける。そして、ちょうどいい感じに焼けたところで、ようやく食べる許可を出すことにした。
未玖は待ってましたと言わんばかりに箸を持つと、肉を口に放り込んだ。途端に表情がとろけるような笑顔に変わる。
「うんまーい!!」
「私もいただきますね……。ん! 美味しいです!」
琴音も幸せそうに微笑みながら、次々と肉を口に入れていく。
それからしばらくは、野菜やカルビを食べながら、雑談に花を咲かせて、楽しい食事の時間を過ごした。
そして――
「ソフィアちゃん! ミノ舌! そろそろミノ舌も食べたーい!」
「よし……。そろそろいいだろう。今日のメインディッシュのミノ舌を焼き始めるぞ!」
雫が催促してくるので、俺はミノ舌を焼き始める。ジュウウ……と、小気味の良い音を立てて肉が焼けていく。カルビとはまた違った脂の乗った香りが漂ってきた。
未玖と琴音も待ちきれないといった様子で、身を乗り出している。
「ソフィアちゃん……、もう焼けたんじゃない?」
腕を組んで焼き具合を見守る俺に向かって、雫が我慢できないといった様子で、涎を垂らしながら、俺の袖を引っ張ってくる。
俺は箸でミノ舌の裏表を入念にチェックすると、ヨシ! と頷いた。
「……ふむ、いいだろう。食べていいぞ」
俺が許可を出すと、3人は一斉にミノ舌にかぶりついた。その瞬間、彼女達は恍惚とした表情を浮かべる。
「うんみゃーいっ! ミノ舌うまっ!」
「ただ美味しいだけじゃなく、この食感! 普通の牛タンとは全然違いますね!」
「この肉汁が堪らないよ……。それに、レモン汁をかけると更に美味しいよ!」
「おい馬鹿やめろ! 全員のミノ舌にレモン汁をぶっかけようとするんじゃない!! 俺はたれとレモン汁の両方を楽しみたい派なんだよ!!」
「いだぁ! 殴ったな!? ソフィアちゃんがぶったぁーー!」
雫が全てのミノ舌にレモン汁をぶっかけようとするので、俺は頭をはたいて止めた。こいつは家族のから揚げにも、許可なくレモン汁をかける悪癖持ちなのだ。
未玖と琴音はそんな俺達の様子を見て、楽しそうに笑っている。
こうして楽しい焼肉パーティーは、大盛況のまま幕を閉じたのだった。
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