第066話「立川ダンジョンを攻略せよ!」

「結局ついてくるのかよ……」


「そりゃ、ソフィアちゃんが1人で危険なところに行くのを見過ごせるわけないじゃん。私達もスカイドラゴンと戦うの手伝うよ」


 週末――俺が1人で立川ダンジョンに向かおうとしたら、雫達JC3人組が当然のようについてきていた。


「あのなぁ、お前らがいたら逆に足手まといなんだよ。琴音だけなら、ギリギリ俺について来れるかもしれないが……」


「では、私とソフィアさんの2人で行きましょう。2人っきりで。未玖と雫は、お留守番しててくださいね」


 琴音がにっこりと微笑みながら、腕を絡めてくる。俺ほどではないが、年齢にしては大きな胸がむにゅりと押し付けられた。


 ううむ……。やっぱ見かけによらず、ぐいぐい来るなこの娘。でも、嫌いじゃないけどね。


 性的な欲求とかは別に湧かないけど、可愛い娘にこうして甘えられると、俺の心の底に眠っている男の子の魂が、勝手に喜んじゃうのだからしょうがない。


「それでも何が起こるかわからないのが、ダンジョンボス攻略の怖さだ。だから、やはりお前らは留守番してろ」


 俺は琴音の腕を外しながら諭すように言う。


 実際、あの時の俺達は、戦力的には足りていたはずなのだ。だが、スカイドラゴンは形態変化という予想外の特殊能力を持っており、結果、俺は命を落としてしまった。


「ええーー! せっかくの連休なのに、そんなのつまんないですよー! じゃあ途中まででいいから一緒に行かせてよー! ソフィアせんぱ~い!」


 未玖がぷくっと頬を膨らませながら、不満げに言ってくる。


 うーん……。50階は危険だが、途中までなら大丈夫か? 琴音はBランクだし、雫も今はCランク相当の能力は持っている。未玖は"忍び足"という気配遮断系スキルを持ってるし……。


「……よし、いいだろう。40階まで一緒に連れて行ってやる。お前らは40階のボスを倒したら、転移陣で地上に戻ること。いいな?」


 俺が妥協案を示すと、3人はぱぁっと表情を明るくした。





 というわけで、俺達は立川ダンジョンにやってきた。


 相変わらず混雑している。殺人鬼の天道は逮捕されたし、今日から連休だから、減っていた探索者の数も元に戻っているのだろう。


「それじゃあ、更衣室に行こうぜ」


「「「はーーい!」」」

 

 ダンジョンには、スマホなどの持ち込みができないため、どこのギルドにも大きな更衣室が併設されている。ここで、ゲートではじかれるような衣服を着替えたり、電子機器類などをロッカーに預けてから、ダンジョンに挑むのが普通だ。


 俺はスマホを次元収納の中にしまうと、着替えている3人を尻目に、更衣室のベンチに腰掛けた。


「あれ? ソフィア先輩、着替えないんです?」


「ああ、俺は元々スマホくらいしか、ダンジョンの中に持っていけない物を身に着けてないからな」


 俺の私服には、金属製の材質が使われていないので、ダンジョンに持ち込んでも問題ない。強敵と当たれば天衣五宝に着替えればいいし、俺は魔法と徒手空拳で戦うスタイルなので、武器も必要ない。だから、着替える物など何一つないのだ。


 服を脱いで下着姿になった3人を観察する。


 ううむ、未玖のやつは小学生の頃から殆ど成長してないな……。胸はぺったんこだし、背も低いままだ。本当に中学生か、こいつ?


 雫は年相応だな。2年前よりは大分成長しているが、それでもまだまだ子供っぽい印象を受ける。まぁ、成長期はこれからだからな。


 そして、琴音はやはりスタイルがいい。すらりと伸びた手足は長くて細いのに、出るとこはきっちり出ているという理想的な体型だ。とても雫と同い年とは思えない。こいつは男子にモテるだろうな。


「あ~、おに……ソフィアちゃんが、私達の着替えをじーっと見てる! エッチなんだ~」


「アホ抜かせ。俺には男の性欲みたいのは一切ないんだよ。ただ、普通にお前らが可愛いから、鑑賞してただけだ。美術品を愛でる感覚だな」


 俺がそう言うと、3人は揃って顔を赤くした。小娘が俺を揶揄おうなどと、10年早いわ。


 実際俺の性欲はかなり薄い。女の裸に対しては特に何も感じないし、男に対しても、そこまでムラついたりすることは殆どない。


 ただ、相手がレアな能力を持っていた場合、絶対にコピーしたいとスイッチが入ってしまい、後で思い返した時、自分でもドン引きするくらいの行動を取ってしまうことは多々あるが……。


 未玖は体操服のような恰好に着替えると、床に置いてある、暗黒のナイフと光輝のナイフの2本を手にとった。雫はいつものフード付きローブを羽織り、琴音は剣道の袴のような服を身に着けている。


「よし、それじゃあ行きましょうか」


 琴音は着替え終わり、神聖樹の木刀を片手に持つと、ロッカーの鍵を閉めた。


「ロッカー入れなくてよくないか? 雫の"小さな家"があるだろう。荷物はそれに全部入れとけよ」


 小さな家は、俺が異世界製の特殊樹脂を括り付けて、ネックレスのようにしてやった。雫はいつもそれを首から提げている。


「あ、そうですね。雫、お願いできますか?」


「おっけー。ほら、未玖も荷物貸して」


「いいなーそれ、私もアイテムボックス欲しいなー」


 未玖は荷物を雫に渡すと、俺をチラッと流し見ながら、そんなことを呟いた。


「それは激レアなんだよ。残念だが、この手のアイテムはそうそう簡単には手に入らないぞ。特殊個体ユニークモンスターや、エルドラドのダンジョンのボスモンスターの金ドロップ、ダンジョン初回クリア報酬レベルじゃないと無理だろうな」


特殊個体ユニークモンスターですか……。私も特殊個体はまだ倒したことがないので、いつか挑戦してみたいです」


「絶対1人で戦うなよ? あれは特殊な能力を秘めてる場合が多いから、いくらお前が強くても、1人で戦うのはリスクが高すぎる」


 俺が注意を促すと、琴音はコクリと真面目な表情で頷いた。


 まぁ、偉そうなことを言っておいてなんだが、実は俺も戦ったことすらないんだけどな。だってあいつら出現自体が激レアだし、発見が報告されると、上位探索者が各地から飛んできて、我先にと倒しに行ってしまうから、なかなか近寄れないし。


「ねえ、そろそろ行こうよー。ほら、40階目指して、レッツゴーだよ!」


 未玖が待ちくたびれたのか、急かしてくる。俺達は更衣室を出ると、受付へ向かって歩きだした。




 日本ダンジョン党の代表である、毒島正臣氏が総理大臣をやってるだけあって、ギルドは綺麗で、とてもお金がかかってそうな施設だ。探索者専用の大きな食事処や、ダンジョン産のレアアイテムを売ってるショップなども完備されている。


 怪我人を治療する為に、医者も常駐しているし、彼らでも治せない大怪我の場合は、中級ポーションや解毒薬などの、ダンジョン産の回復アイテムを、ライセンスにツケて購入することも可能だ。


 ダンジョンの転移陣は、どの階から帰還しても同じ場所に出るようになっていて、どこのギルドでも通常はそこに大部屋が設置されている。


 ここで持ち帰ったアイテムの査定や換金が行われ、探索者の口座にお金が入る仕組みだ。同時に探索者ランクの査定も行われ、WEAが定める独自の評価基準によって、ポイントが加算され、ランクアップの可否が決まる。


 ちなみに、換金したくないレアアイテムなどは、自分で持ち帰ることも可能だが、一度はギルドに提出する必要がある。アイテム大全への登録や、ダンジョン産アイテムを使った犯罪の抑止効果などが主な目的らしい。


「ライセンスを拝見します」

 

 受付カウンターに行くと、職員のお姉さんに声をかけられた。俺は意気揚々とライセンスを取り出すと、自信満々に提示する。


「どうぞ!」


「……はい、確認しました。ソフィア・ソレル様。Cランク探索者ですね。ご武運をお祈りいたします」


 くくくく! マイケル国王に発行して貰った本物のライセンスだ!


 これでもう、職員に見つからないように、小さな家の中に隠れてこっそりダンジョンの中に入る、などという面倒でまどろっこしいやり方をしなくて済むぞ!


 やったぜ!


「何そのドヤ顔、ウケるんですけど!」


 ライセンスを大事そうに次元収納にしまう俺に向かって、未玖が揶揄うようにそう言った。


 ちっ、戸籍やライセンスの貴重性を知らないメスガキが……。こいつは将来、異世界に転生して日本に戻って来た時に、絶対に痛い目を見るだろう。その時になって初めて、自分がどれだけ恵まれていたのか理解するのだ。


 俺達は受付を通り抜けると、ダンジョンゲートのある部屋へと向かった。


 ダンジョンゲートがある部屋は、壁も床も天井も白一色で統一された小部屋だった。部屋の中央には、空間がひび割れたかのような黒い穴が空いており、そこに探索者と思われる人達が飛び込んで行く。


「相変わらず奇妙な光景だな」


 まるでゲームのバグ画像みたいだ。未だ全く解明されていない、ダンジョンとダンジョンゲートの謎。この秘密を俺が解き明かす日は、いつかやってくるのだろうか?


「どったの? ソフィアちゃん。早く入ろうよ」


「……ん、そうだな。よし、行くか!」


「「「おーー!!」」」


 3人の元気の良い掛け声と共に、俺達は一斉に黒い穴の中に飛び込んだ。

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