第065話「追放」★

北村きたむら琢夢たくむ! お前を俺達のパーティ"ウエストグローリー"から追放する!」


 突如、リーダーの西方が僕を指さして叫んだ。他のメンバー達も、冷たい視線をこちらに向けてくる。


「な……!? ぼ、僕が一体何をしたっていうんだよぉ!? いきなり酷いじゃないかぁ!」


 あまりにも理不尽すぎる仕打ちに、僕は思わず抗議の声を上げる。


 高校1年の時から、今までずっと共に戦ってきた仲間だというのに、どうして突然追放なんて言い出すのか、全く理解できなかった。


 僕の能力――"憑依"は、数々の強敵を討伐するのに役立ってきたじゃないか。一体、僕の何が不満だっていうんだよぉ!


「このデブ! 自分が一体何をしたんだ……って顔してやがるなぁ!」


「と、当然だよ……!」


 ドキュンの東条が威圧するような口調で言ってくる。僕は怒りで震える拳をぎゅっと握りしめながら、彼を睨んだ。


 すると、彼は僕の胸倉を摑み、ぐいっと持ち上げてくる。


「――お前! また女子に"憑依"を使ったよなぁ!」


「…………そ、そんなことするわけ、ない……だろう?」


 目を泳がせながら、何とか否定の言葉を口にする。しかし、東条は僕の胸倉を離すと、そのまま地面に叩き付けた。


「ぶげぇ!?」


 受け身も取れず、思い切り地面に尻餅をつく。


 痛みで呻く僕の頭上に、東条が足を振り下ろしてきた。鈍い音が響き渡る。頭が割れたんじゃないかと思うほどの激痛が走り、僕はその場でのたうち回った。


 東条はぐりぐりと僕の頭を踏みつけながら、怒声を上げる。


「森下に乗り移ろうとしたことはもうバレてんだよ! この変態野郎が! てめえの能力は貴重だから今まで大目に見てきたが、もう我慢ならねえ!」


「やってない! やってないよ! 僕は無実だ!」


 必死に弁明するが、東条は聞く耳を持ってくれない。他のメンバー達も、まるでゴミを見るような目を僕に向けてくる。


 何で誰も信じてくれないんだ! 仲間だっていうのに……! 僕はいつも皆のために頑張ってきたじゃないか! 僕の"憑依"スキルで、皆のピンチを何度も救ってきたはずだろ!? それなのに――どうして? 何で僕がこんな目に遭わないといけないんだ!?



 ……まあ。



 確かに女子に憑依して、多少のいたずらはしたけどさぁ……。


 それくらい別にいいじゃないか。しかも、一軍女子の南雲さんや舞園さんじゃなくて、わざわざ地味な森下を選んでやったんだぞ? ほんのちょっと胸を揉んだくらいで、ここまで責められるなんて酷くないか?


「北村、とにかくお前は追放だ。女子達へのセクハラ行為を、これ以上許すわけにはいかないし、来月には立川ダンジョンの再攻略も控えてるって時に、お前のような不穏分子を抱えておくのはリスクでしかないからな」


「二度と俺達のパーティに近寄るんじゃねえぞ!」


 西方と東条はそう吐き捨てると、踵を返して歩き去っていった。他のメンバー達も彼らの後に続くように、僕に侮蔑の視線を向けながら、背を向けて歩き出す。


 僕は悔しさで涙を流しながら、去っていく西方達を見送ることしかできなかった。




「ちくしょう! モブ共がふざけやがって!」


 家に帰った僕――北村琢夢は、自分の部屋で悪態を吐いた。


 この世界の主人公である僕を追放するなんて、西方達は頭がおかしいんじゃないだろうか。僕は何も悪いことはしていない。ただ、自分の能力を使ってクラスの女子にエッチな事をしようとしただけだ。それの何が悪いっていうんだ!


「女子は全員僕の奴隷(ただし可愛い子に限る)。男子はひたすらに僕を崇め、称賛の言葉を口にするだけの人形! それが世界の正しい在り方だろうが!」


 美少女は僕をご主人様と崇め、全肯定し、無条件で奉仕する存在。そして男共は、主人公たる僕の圧倒的な強さに心酔し、畏怖し、尊敬し、崇拝するだけのモブ。それが世界のあるべき姿なのだ。


「くそ……、SNSであいつらの悪口を拡散してやろうか……」


 パソコンを起動し、インターネットに接続する。そして、SNSアプリのY『ワイッター』で、西方達の悪口を書こうとした……その時――


「――あ! ソフィエルちゃんからDMが来てるぞ!」


 都内に住む美少女JCのソフィエルちゃん。僕がAランク探索者の西方のパーティ"ウエストグローリー"の一員だと知ると、興味を持ってくれたらしく、時々メッセージのやり取りをするようになったのだ。


 最初はどこかの業者かと思って警戒してたけど、お金を騙し取ろうとするような気配もないし、僕がリクエストした写真を送ってくれるなど、どうやら本物だろうと判断できた。


 手で顔を隠しているので素顔は見えないけど、腕や足や身体のシルエットだけでも相当な美少女だとわかる。ちょっと、これでブスはあり得ないってくらい、綺麗な体をしているのだ。JCなのに胸もお尻もムチムチだし、ウエストのくびれもすごい。


「い、いや……待てよ! マズいぞ! 彼女は"ウエストグローリー"の動向をいつも聞きたがる。僕がパーティを追放されたと知ったら、見限られてしまうかも……」


 まず間違いなく、もう少しでオフ〇コ出来るところまで仲が深まっているのだ。それなのに、ここで関係を切られたら堪ったもんじゃない。


 僕は慌ててY『ワイッター』のDM画面を開くと、彼女にメッセージを送った。



《ソフィエルちゃん! 今日はどうしたの?》


《ノースヴィレッジさん、こんにちは。今、大丈夫ですか?》


《うん! もちろん大丈夫だよ!》


《良かったです。あの……実は、一つ聞きたいことがありまして……》



 きたあああああっ!! これはソフィエルちゃんからオフ〇コのお誘いに違いない!! ついに僕も童貞を卒業する日が来たんだ!!



《うん、何でも聞いてよ! 彼女なら今はいないよ・・・・・・今は・・フリーさ。でも、最近は年下の女の子と付き合うのもいいかなって思ってるところだけどね。ほら、僕って包容力あるでしょ?》


《いえ、今日はそうじゃなくて……。ノースヴィレッジさん、この間"ウエストグローリー"が立川ダンジョンの攻略を考えてるって言ってましたよね? その日程ってわかりますか?》


《え? う、うん。来月の初めに50階まで登って、スカイドラゴンを討伐する予定だよ》



 ……あれぇ? オフ〇コのお誘いじゃないのかよ。期待して損したじゃないか、まったく。



《あ、今週の連休ではないんですね》


《うん、まだちょっと準備が出来てないから、もう少し先かな。それに、今週の連休は、西方がテレビの生放送に出演するらしくてさ、立川ダンジョンの攻略について、トークショーをやるらしいから……》


《ふーん……。生放送にトークショーですか》


《うん。それで、何でそんなこと聞いてきたの?》


《いえ、ちょっと気になっただけなので……。教えていただきありがとうございます。ノースヴィレッジさんはいつも親切にしてくれて、本当に感謝しています。そうだ! 今日も良い写真が撮れたので、添付しておきますね♥ それじゃあ、また》


《うん! 写真、ありがとう。いつも楽しみにしてるよ! またね~!》



 ソフィエルちゃんのメッセージと共に、一枚の写真が送られてきた。


 それはセーラー服を着たソフィエルちゃんが、ベッドの上でスカートをたくし上げている写真だった。


「うお! これは! 見え、見え…………見えない……っ!?」


 ギリギリで見えない。顔を傾けて下から覗いてみるが、当然のごとく無駄な努力だった。くそ……このアングルは卑怯だろ……!


 だが、もう少しで見えるのに、ギリギリ見えないもどかしさが逆にエロさを醸し出している気がする……。成年誌の直接的なエロより、少年漫画でちょっとエッチなシーンがあった方が、何故かドキドキするのと同じ原理だ。


「やはりソフィエルちゃんは只者じゃないな……。まさに大天使と呼ぶに相応しい存在だ。……おっと、忘れないうちに保存しておこう」


 早速写真を保存すると、いくつもあるモニターの一つに、壁紙として設定する。


 【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/mezukusugaki/news/16817330668854110020


「これでヨシ……っと」


 しかし、これは完全に脈ありだな。あとはどうやってオフ〇コまで持ち込むかだが……。僕が"ウエストグローリー"を追放されたことも、何とかバレなかったようだし、これは運が向いてきたかもしれないぞ。


「そうだ、"作家になっちゃおう"に投稿した、僕の神小説の更新もしないと!」


 僕はY『ワイッター』のアプリを閉じ、小説投稿サイト"作家になっちゃおう"を開くと、マイページに飛んだ。


 この小説は僕の最高傑作だ。きっと、書籍化やコミカライズ……いや、アニメ化も夢じゃないはず。


 ストーリーは、クラスでいじめられている主人公が、異世界に転移したことをきっかけに、その才能を開花させていくというもの。異世界の美少女達は主人公の才能を見抜き、こぞって自ら彼の奴隷になることを望む。主人公はそんな奴隷美少女達に囲まれてハーレムを築きながら、異世界を無双していくのだ。


 一方、主人公をいじめていたクラスメイト達は、主人公の才能に嫉妬し、様々な嫌がらせをするが、最終的には主人公に返り討ちにされ、悲惨な最期を迎えるというオリジナリティ溢れる作品である。


 主人公のモデルは、当然ながら僕だ。小説じゃ僕のカッコよさを、半分も表現できていないが、それでも読者には十分魅力的な主人公として映っているに違いない。


 愚民共には、僕の神作が理解できないのか、あまりPVが伸びていないようだが、いずれ評価される時が来るはずだ。


「――!? 応援コメントが来てるじゃないか!」


 赤文字で、"応援コメントが届いています"という表示が出ている。今までまったくコメントがなかったから、これは嬉しい誤算だ。


「でゅふふふ、ようやく僕の作品の良さを理解できる人間が表れたか。まったく、愚民共はどれだけ待たせるんだか……」


 僕はワクワクしながら、応援コメントを開いた――。



【投稿者:愛宕】

 妄想乙www何この気持ち悪い小説www草生え過ぎて腹筋崩壊www

 まず作者がモデル? と思われる主人公がキモすぎて無理wwこんなクズがモテる理由が欠片も見当たらず意味不明すぎるwww

 唐突にこのクズ主人公の奴隷になりたがる女の子も頭おかしいwww催眠術で洗脳でもされてんのかよwww

 それと、この西条ってキャラ、絶対作者の知り合いがモデルだろwwwこいつを痛めつける描写だけ異様に細かいしww

 R18の鬼畜系キモデブ主人公としてなら需要があるかもしれないwwwそっちに移籍することをお勧めしますwww

 ここまでつまらない話を書けるのもある意味才能www評価がゼロではあまりにも哀れなので、星一つ入れてやるwwありがたく思えwww



 …………………………。


 ………………。


「……ふ、ふざけるなぁああああ!!」


 何だこのコメントは!? 何でこの神作家である僕に対してここまで無礼なコメントを書けるんだ!


「何が"応援コメントが届いています"だよ! "アンチコメントが届いています"の間違いだろうがっ!! 運営はちゃんと赤く点滅させて注意喚起しておけよっ! 将来のベストセラー作家の心が折れて、筆を折る事態にでもなったらどうしてくれるんだ!! くそっ! くそぉおおっ!!」


 R18の鬼畜系キモデブ主人公だと? 僕はどう見ても正統派のイケメンチーレム主人公だろうが!


 愛宕とかいうやつをNGリストにぶち込み、運営に長文のクレームを送信した後、僕は怒りに任せてパソコンの電源を落とした。


「くそ、世の中は愚民ばかりだ……。僕の素晴らしさを理解できない人間が多過ぎる……!」


 吐き捨てるように呟くと、ベッドの上にドスンと寝転がる。


 その時、窓からひゅー、と風が吹き込み、カーテンがめくれて月明かりが差し込んできた。


「おかしいな? 窓は閉めたはずなんだけど……」


 不思議に思いながら、ベッドから起き上がる。その時、背後に何者かの気配を感じ、慌てて振り向くと――


「やあ、こんばんは。北村琢夢くん」



 ――そこには、変態が立っていた。



 ほぼ全裸で、白いワイシャツを羽織っただけの男が、いつの間にか部屋の隅の暗がりに佇んでいたのだ。


「な、な、な、何だお前はぁ!?」


 突然の事態に、頭が真っ白になる。変態は僕の問いかけに答えることなく、静かに微笑んでいる。


 月明かりに照らされた変態は、顔に男物のブリーフを被り、下半身には女性用のブルマーらしきものを穿いていた。シルエットや声からは、イケメンのような印象を受ける。……受ける、が。紛うことなき変態である。


「ふふふ、君は素晴らしいダークエナジーを秘めているね……。自己中心的な思考、他者への共感性の欠如、反社会的な思想と行動力……。どれも一級品だ。今まで色んな人間を見てきたけど、ここまで歪んだ欲望を滾らせている人間は、なかなかいないよ」


 変態がゆっくりと近付いてくる。僕は咄嗟に身構えながら、後退りした。


「なに、そう怖がることはないよ。私の名はブリーフ仮面、決して怪しい者ではない」


「怪しすぎるだろっ! 何だよその格好は!? 何で僕の部屋にいるんだよ!?」


 唾を飛ばしながら声を張り上げる。だが、ブリーフ仮面と名乗る変態は怯む様子もなく、僕ににじり寄ってきた。


「君は、この世界が間違っていると感じたことはないかい? 自分はもっと評価されるべきだ。もっと報われるべきだ、とね」


 穏やかな口調で語りかけてくる変態。その語り口は不思議と心に染み込んでくるようだった。


「そ、それは……確かに、何度も思ったことはあるけど……」


 僕の返答を聞いた瞬間、変態は嬉しそうに笑った。


「はははは! そうだろう? 君ならそう言うと思ったさ。どうだい? もっと強くなれる方法を知りたくないかな? ダンジョンで簡単にレベルを上げる方法……。そして、ダンジョンの外でもスキルを使えるようになる方法……とかね」


「だ、ダンジョンの外でスキルを!?」


 もしそんなことが出来るとしたら、まさに夢のような話だ。僕の"憑依"が外の世界でも使えるとしたら!


「ぐふ! ぐへへへへ!」


 思わず涎を垂らしながら、変態を凝視する。そんな僕の様子を、彼は満足そうに眺めていた。


「ふふふ、それでこそ私が見込んだ男だ。さあ、これを受けとりたまえ」


 変態はブルマーの中に手を突っ込むと、中から赤く光る石のようなものを取り出して、僕の手の上に載せた。


 その石は、まるで血液のように赤黒く脈動していた。見ているだけで背筋がゾクゾクする。


「この石には大量の魔力が込められている。これを持って念じれば、いつでも外の世界でスキルが使えるよ。魔力が切れたら、ダンジョンの中へ持っていけば、自動で魔力が補充される」


 にわかには信じがたい話だが、試してみる価値はあるだろう。僕はゴクリと唾を飲み込むと、その石を強く握りしめた。


「それじゃあ、次はダンジョンで簡単にレベルを上げる方法を教えてあげよう」


 変態はニヤリと笑うと、その方法を僕に語り始めた――――。

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