第063話「転校生」★
「じゃあ行ってくるね~」
隣で朝食を食べていた雫が、スクールバッグを持って立ち上がる。そのまま玄関に向かおうとする妹に、俺は後ろから声をかけた。
「雫、お前今日楽しみにしとけよ?」
「……? 楽しみって、何が?」
「にひひ、それは秘密だ。まあ、時が来れば分かるさ」
首を傾げながら、靴を履いて玄関から出ていく雫。その背中を見送った後、俺は自分の部屋に戻って、着替えを始める。
「お~、女に生まれ変わって24年。色々な服を着てきたが、これを着るのは流石に初めてだな」
部屋着を脱いで下着姿になると、床に置いてあるダンボール箱から、中身を取り出して身につけていく。
「……これ、なんかちょっとエロくないか? 俺が着ると、色々と際どく感じるんだが……。てかこの服って薄着よりもエロく感じるのは何故なんだろうな?」
着替えた後、姿見の前に立ちながら、自分の格好を見てそんなことを思う。
胸の部分は強調されてるし、おへそがチラリしているし、スカートから伸びる真っ白な太ももが眩しく輝いており、非常に扇情的だ。
「ま、まあいいか。皆普通に着てるわけだし、問題ないだろ」
俺はくるくると回りながら、変なところがないか確認した後、バッグを持って玄関に向かった。
◆◆◆
(雫視点)
「おっはよ~、未玖」
ちょうど隣の家から出てきた未玖に、後ろから声をかける。
「おはよー、雫姉ぇ。それより、これ見てよ。マイケル国王の娘さんの病気、治ったんだって!」
未玖が興奮した様子で、スマホの画面を見せてきた。
そこには、マイケル国王と、彼の娘と思われる幼女の写真が掲載されており、見出しには『マイケル国王の娘、日本で不治の病を治す。奇跡の回復の真相とは?』と書かれていた。
未玖は、イケメンが大好きなので、マイケル国王が来日した時から大興奮していたが、彼が帰国しても、未だにその熱は冷めていないようだ。
「へ~、それは良かったじゃん。巫女姫様が治療したのかな? 絶対に無理だって言われてたのに、凄いね」
「うーん、それが巫女姫様じゃないらしいよー。本人が否定したらしいし。でもマイケル国王に聞いても教えてくれないらしくて、真実は謎のままなんだって」
マイケル国王と娘さんのツーショット写真を眺めながら、未玖が首を捻る。
巫女姫様じゃない? じゃあ誰が治したんだろ?
この世界にはアメリカの聖女様と日本の巫女姫様しか、回復魔法の使い手はいないはずなのに……。それに娘さんは普通の回復魔法じゃ、治せないって話じゃなかったっけ?
そんなことを考えながら歩いていると、あっという間に学校に到着した。
「雫、未玖。おはようございます」
校門前で、後ろから声をかけられる。振り返ると、サラサラの黒髪を靡かせながら、琴音がこちらに歩いてきていた。
「琴音おはよー」
「おはよーございまーす、琴音先輩。いやぁ、今日も美人ですなぁ~」
未玖がセクハラ親父のように、琴音の髪を手に取り、優しく撫でる。琴音は苦笑しながらも、いつものことなので、特に気にすることなく、私と一緒に歩き出した。
校舎に入り、下駄箱で上履きに履き替えたあと、階段を上っていく。未玖は2年なので、途中で別れて、私と琴音は3年の教室に向かった。
教室の中に入ると、既にクラスの何人かが登校していて、思い思いに雑談していた。私達も自分の席に座り、お喋りを始める。
「ところでもう聞きましたか? 今日、このクラスに転校生が来るみたいですよ?」
「ええ!? 初耳なんだけど! どこからの情報!?」
突如、琴音から告げられたビッグニュースに、私は思わず大きな声を出してしまう。クラスの皆も知らなかったらしく、教室がざわめきに包まれた。
「昨日の帰りに、職員室の前を通りかかった時、たまたまそんな話を小耳に挟んだんです。なんでもエルドラドからの留学生らしいですよ?」
琴音の話を聞いたクラスメイト達が、机の周りに集まってきて、口々に騒ぎ出す。
「留学生ってことは外国人!? エルドラドといえばマイケル国王! 彼みたいなイケメンだったらいいな~」
「いやいや、そこは女の子でしょ! 金髪碧眼の美少女とか、最高じゃない?」
「お、俺の席の隣、空けておこうかな」
「おい! 卑怯だぞ! 俺が転校生の隣になるんだ! そして、ここから俺のラブコメ学校生活が始まるんだ!」
クラス中が転校生の話題で持ちきりになり、男子共は鼻息荒く興奮して、女子達はイケメン王子様を想像して盛り上がっていた。
「いやー、そんなラノベみたいな展開ないでしょ……。普通に考えて、イケメンでも美少女でもない、平凡な人が来る確率の方が高いんじゃない?」
私は苦笑しながら、クラスメイト達の反応を傍観していた。すると、そこに幼馴染の徳山吉宗――よし君が近寄ってくる。
「雫って結構、現実主義だよね」
「あ、よし君おはよー。まあね、お兄ちゃんの影響かな。そんなことより、よし君は美少女転校生を期待してないの?」
「ぼ、僕は転校生なんかより……し、いや……何でもないよ」
よし君は何か言いかけて、途中で言葉を詰まらせる。私が首を傾げると、彼は少し頬を赤く染めて顔を逸らしてしまった。
――ガラガラッ!
その時、教室の扉が開いて、担任の
「えー、もう知ってる人も何人かいるみたいだが、今日からこのクラスに転校生が来ることになった。えー、エルドラドからの留学生で日本語は大丈夫らしいが、色々サポートしてやってくれ。えー、じゃあ入ってきていいぞ」
口癖が「えー」の平凡な中年おじさんである、江口先生がそう言うと、一人の生徒が教室に入ってきた。
その瞬間、クラスの全員が息を止めて、その人物に注目する。
長い髪を靡かせながら、黒板の前に立つ少女。非常に整った顔立ちに、透き通るような白い肌。私と同年代とは思えないくらい、起伏に富んだ肢体。そして、宝石のように輝く金眼。
その美しい少女は、教室を見軽く見渡すと、黒板に自分の名前を書き始める。
「ソフィア・ソレルです。エルドラドから来ました。皆さん、よろしくお願いします」
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/mezukusugaki/news/16817330668760417058
彼女はぺこりとお辞儀をすると、ニコリと微笑んだ。その笑顔を見たクラスの男子達が、興奮した様子で騒ぎ始める。
そんな中、私は――――
「――転校生ってお前かよ!」
思わず立ち上がって、大げさな動作で突っ込みを入れるのだった。
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スキルコピーについて、人体にはあらゆる部位に大量の細胞があるのに、おたまじゃくしだけが特別扱いされるのはおかしくないか? という類の突っ込みコメントを多数いただきましたので、神様視点での詳細な解説を「第二章までの登場人物・用語・イラスト集」の最後に追記しました。興味がある方はご一読ください。
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