第049話「武天舞神楽」★
「──ふっ!」
折れた2本の剣を、向かってくるベイルに投擲する。あっさりと弾かれるが、その隙に部屋の隅に転がっている新たな武器を拾い上げた。
それは、俺の身長の倍はありそうな長槍。それを右手で掴み、左手で数本のナイフを拾い、指の間に挟む。
「せいやぁっ!」
ナイフをベイルに向かって投げつけると同時に、長槍を構えて突進する。ベイルはそのナイフをバトルアックスの衝撃波で吹き飛ばすが、その瞬間には、俺は天井近くまで跳躍していた。
天井を蹴って急降下し、無防備となったベイルの背中に向けて長槍を振り下ろす。
──ズバァッ!
肉を斬り裂く感触と共に、鮮血が飛び散る。しかし手応えは浅い。分厚い筋肉の層に阻まれ、殆ど刃が通らなかった。
「ぬぐぁ! こ、今度は槍かよ! てめぇ……、一体幾つの武器を使いこなせやがるんだ!?」
振り向きざまに、バトルアックスを振るうベイル。すると、再び強烈な衝撃波が放たれ、俺の全身に向かって襲い掛かる。
──プチンッ!
ボロボロの衣服が千切れ飛び、上半身と下半身の両方から、何かが切れるような音が聞こえた。
「あっ、あっ! やっ、あっ!」
や、ヤバい! ブラとパンツの紐が切れた! このままだと俺のわがままボディが、完全公開されてしまう!
両手で胸と股間を隠しながら、俺は慌てて後方にジャンプして距離を取った。ベイルはバトルアックスを肩に担ぐと、ニヤリと笑みを浮かべる。
「おー、おー、それじゃあ武器は持てねぇなあ? それとも大事な部分を晒しながら戦うか? まあ俺はどっちでも構わねぇがよ」
クソッ、こんな時に何で紐パン穿いてんだよ俺は! もっと耐久力のあるやつにしとけよ!
「く、うぅう……っ!」
これはマジでヤバい。次元収納が封印されているので、予備の服は取り出せない。このままでは全裸にチョーカーのみという格好で戦うことになってしまう。
……ん? いやいや、何を動転しているんだ俺は。俺チョーカー装備してんじゃん! これはアイテムなので封印の影響は受けない。
つまり────
「ドレスチェンジ! "
チョーカーが発光して、俺の全身が謎の白い光に包まれる。これで全裸ともおさらばだ。
「――――"
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/mezukusugaki/news/16817330668012069331
真っ白な光が収まった後、俺の全身はチャイナドレスのような武道着に包まれていた。
黒を基調として、所々に金の模様が入った美しいデザイン。ふとももが露わになるほど深いスリットが入っており、胸元も大きく開いている。全体的に露出度が高いが、不思議と下品な雰囲気は感じさせない、むしろ洗練された美しさを感じさせる衣装だ
頭には2つのお団子が結われており、それを金細工の装飾が彩っている。そして、俺の全身からは闘気が溢れ、長い髪がゆらゆらと揺れていた。
これこそが、俺の持つ"天衣五宝"の2つ目、武天舞神楽だ。
名前の通り、神楽を舞うような動きで戦うことをコンセプトにしたこの衣装は、通常では使用できない"闘気"という力を、肉体に纏わせることができる。
闘気とは、魔力とは別の生命エネルギーのようなものであり、身体能力や攻撃力、防御力の向上、さらには肉体の超回復など、様々な恩恵を齎すものだ。
魔力との併用も可能であり、"魔力"と"闘気"この2つを同時発動した時の俺の戦闘力は――――
「はああぁぁっ!!」
ベイルに向かって走り出すと、魔力と闘気を纏わせた拳を連続で繰り出す。拳が当たる度に空気が震え、凄まじい衝撃波が巻き起こった。
──ドゴォッ! ドゴォンッ!
洞窟内に鳴り響く轟音。俺の小さな拳から繰り出されるとは、到底思えないような破壊力を秘めた連撃が、ベイルの巨大な肉体を打ち抜いていく。
「ぐ、おぉぉ……っ!?」
俺の連打を喰らったベイルは、苦しそうに呻きながら、斧を振り回して反撃してくる。衝撃波が俺の体を切り刻むが、服はすぐに再生し、肉体も超回復によって傷は塞がり、俺の動きは止まらない。
──連打! 連打!! 連打!!!
ベイルの反撃が俺に届く前に、その肉体に無数の拳を叩き込んでいく。ベイルの巨体が吹っ飛び、洞窟の壁にめり込んだ。だが、その表情にはまだ余裕が見える。
これが1級冒険者の肉体に、魔族の力、そして王印を持つ者の強さか。ここまでやっても、まだ倒せないのか。
「くく、ははっ! 楽しいなぁ、ソフィアちゃんよぉ! やっぱり戦いってのはこうでなくっちゃなぁ!」
ベイルは笑いながら立ち上がると、口からペッと血を吐き捨て、再びバトルアックスを構えた。俺も魔力と闘気を全身に纏い、拳を構える。
「……私は、全然楽しく! ないですけどねっ!!」
「そうかい、そりゃあ残念だ! だが俺はめちゃくちゃ楽しいぜぇっ!!」
俺達は同時に駆け出し、正面から激突した。斧を振り下ろしてくるベイルの腕を、ガシッと掴む。だが、奴も俺の逆腕を掴み返してきた。力と力のせめぎ合い。お互いの腕が、ギリギリと音を立てる。
「おいおいおい! その細腕のどこにそんな馬鹿力があんだよ! メスゴリラかてめぇは!」
「こんな美少女に向かって、失礼なこと言わないでくれますかねっ!」
魔力と闘気の渦が、洞窟内に吹き荒れる。地面は陥没し、周囲の壁や天井がひび割れ、砕けた岩石が宙を舞う。それでも俺達は一歩も引かず、互いを睨みつけていた。
しばらく膠着状態が続くと、俺達は同時に腕を引き、後方に飛んで距離を取る。すると、ベイルはバトルアックスを地面に突き立てて、大声で笑いだした。
「ハハハハハッ! 俺は、戦えているぞ! 特級冒険者とも互角に戦えるほど、強い力を手に入れたのだ! ここでお前を倒し、そして次はあの女も殺す! そうすれば、俺の絶望と屈辱は消え去り、再び前へ進むことが出来るんだ!」
「…………」
ベイルは興奮しているのか、息を荒くして叫びながら再びこちらに突っ込んでくる。俺もそれに応えるように、走り出した。
「幼少期から天賦の才に恵まれ! 誰もが俺を褒め称えた!」
──前世からずっと才能なんてなかった。
「戦うことが楽しくて仕方がなかった!」
──戦うことが嫌いだった。ただ、平和に生きていたかった。
「強く、誰よりも強く! そう願って毎日戦いに挑んだ!」
──強くなんてなれなくてもよかった。でも、強くならざるをえなかった。強くならなきゃ、全てを奪われるから。
「そして、たった一度の敗北で全てを失った! だが、ようやく前へ進める時が来たのだ!」
──数え切れないほどの敗北を味わった。俺の人生は、屈辱と恥辱にまみれた日々だった。
拳と斧を衝突させ、魔力と闘気を互いにぶつけ合う。俺達は、再び至近距離で睨み合った。ベイルの瞳が爛々と輝く。俺はその瞳をじっと見つめた。
……段々と腹が立ってきた。ああ、本当に腹立たしい。
幼少期から強かっただと?
誰しもがお前を褒め称えただと?
戦うのが楽しくて仕方がなかっただと?
たった一度の敗北で全てを諦めただと?
──ふざけんなよ、クソが!!
本当は嫌だったんだ! 俺にだって男のプライドがあったんだ!
こんな風になんてなりたくなかった!
俺だって本当は! 物語に登場する主人公みたいに、楽しく異世界を満喫して、可愛い女の子達に囲まれて、前世よりも幸せで充実した人生を送りたかったんだよ!
男に媚びて媚びて媚びまくって、ただ死にたくなかっただけなんだよ! 俺にはそれしか生きる道がなかったんだから!
初めて男に■された時は一晩中吐いた。 悔しくて悲しくて、でもどうすることも出来なくて、ただ自分の弱さを呪い続けた。それでも俺は耐え続けたんだ! 全ては幸せになる為に、平穏な生活を送る為に!
初めて人を■した時は何日も眠れなかった。日本に帰りたいと1人でわんわん泣いた。そして■に■をして、必死に! 必死に耐え続けて! ようやくここまで辿り着いたんだ!
それが、優しい両親の元に生まれて、幼少期から良い師匠に恵まれて、周りから天才だと持ち上げられて、順風満帆な人生を送って、それでたった一度真の天才に敗北したからって、全部諦めて絶望しただって……っ!
俺なんか、前世で悲惨な死に方して、転生しても、全然幸せになれなかったってのによぉ! 俺が今までどんな思いをして生きてきたと思ってんだよ!?
「──ふざけるのも大概にしろよ!!」
「ぬうっ!?」
拳を振りかぶり、渾身の力で振り抜く。その一撃はバトルアックスで受け止められるが、俺は構わず連続で拳を繰り出した。魔力と闘気を纏った拳が、ベイルの巨体にダメージを与えていく。
──だが、まだだ! まだ足りない! もっとだ! このクソ野郎をぶっ飛ばす為に! 俺の怒りを! 俺の哀しみを! 拳に込めろ!!
ベイルから距離を取った俺は、両腕をクロスして腰元に構えた。俺の周りに魔力と闘気が渦巻くように集まり、バチバチと音を立てて発光する。
そして、更には必要なギフトのスイッチを全てオンにする────
──身体強化系"肉体強化"
──身体強化系"魔力強化"
──身体強化系"肉体限界突破"
──身体強化系"超再生"
──身体強化系"魔力限界突破"
──身体強化系"魔力自動回復"
──身体強化系"視力強化"
──身体強化系"聴覚強化"
──身体強化系"嗅覚強化"
──身体強化系"反射神経強化"
──身体強化系"骨強度強化"
──身体強化系"皮膚強度強化"
──身体強化系"筋繊維強度強化"
──身体強化系"内臓強度強化"
──身体強化系"動体視力強化"
──身体強化系"思考速度上昇"
──身体強化系"無尽蔵のスタミナ"
──才能系"拳才"
──才能系"足技の才能"
──才能系"格闘技の才能"
──才能系"武術の才能"
──才能系"関節技の才能"
──才能系"投げ技の才能"
──才能系"受け技の才能"
──才能系"呼吸法の才能"
──才能系"魔力操作の才能"
──才能系"闘気操作の才能"
──才能系"魔力感知の才能"
──才能系"暗殺者の才能"
──才能系"精神集中の才能"
──才能系"先見の明"
──才能系"天才肌"
──才能系"技能習得速度上昇"
──才能系"斧の才能"
全身から溢れんばかりの魔力と闘気が吹き荒れる。金色の瞳が光り輝き、俺の体から放たれる凄まじいオーラに、ベイルが驚愕の表情を浮かべた。
「な、なんだと……っ? まさか! お前、今まで本気を出していなかったというのか!?」
「……これで終わりにさせてもらいます」
両腕のクロスを解き、ゆっくりと構えを取る。俺の闘気が、魔力が、全て拳に集まっていく。
そして────胸元には光り輝く"刻印"が浮かび上がった。
『────王印解放』
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