第040話「保管する左手と解放の右手」
――
これは俺のスキルコピーと似た、相手の能力を利用する類の特殊能力系ギフトだが、その発動条件は大きく異なる。
まず、この能力を使うためには、相手の攻撃を一度、左手でまともに受けなければならない。そうすることによって、その能力を左手に「
ストック出来る能力は指の数と同じ5つ、いや……俺の場合は3つまでだ。ストックした能力は右手から「
そして、一度使ってしまったら、ストックしていた能力はなくなり、使うためにはもう一度同じ手順を踏まなければならない。
今回俺が使用した能力は――――
『――――"宵闇の黒煙"!』
そう、魔王軍四天王――"
「な、なんだそれは!? やめろ! 俺に近寄るな!?」
天道の奴も本能でヤバいと感じたのか、必死に逃げ出そうとするが――無駄な抵抗だ。
俺は一瞬にして距離を詰めると、黒煙を纏った右手で天道のふさふさの髪の毛が生えた頭を鷲掴みする。
そして――
「ぎゃあぁぁあッ!?」
奴の茶髪を撫で回すように、黒煙を頭に染み渡らせていく。茶色かった髪の毛が見る間に白く染まり、艶を失っていく。やがては、ぱらぱらっと抜け落ちて、残ったのは禿げ上がった染みだらけの頭皮と、所々に残る白髪のみ。
「うわ……えっぐ……」
雫が顔を引きつらせながら、天道の頭を見つめている。琴音ちゃんも口元に手を当てて絶句していた。
頭皮の年齢を100歳ほど老化させてやった。顔と体が若いままな分、余計不気味さが際立つ。
俺は満足そうに頷くと、ゆっくりと手を離した。天道は自分の頭に手を当てると、ワナワナと震えながらこちらを睨みつけてきた。
「な、な、な、何をしやがったこの糞ガキぃぃッ! 俺に何をしたぁああッ!?」
「どうぞご覧あれ」
次元収納から鏡を取り出して、天道に向けて掲げてやった。すると彼は恐る恐る鏡を覗き込み――
「う、うわぁぁああッーーーー!?」
絶叫を上げて尻餅をついた。そしてそのまま後退りしながら、ずりずりと壁に背中を擦りつけている。
「自分の価値は計り知れない、数えきれないほどのファンがいる……だったっけ? いやー、その頭じゃそのファンとやらも、全部いなくなるだろうな。事務所も価値なしとしてお前の事を捨てるんじゃない?」
俺は嘲笑を浮かべながらそう言ってやった。天道は震える手で禿げ上がった頭頂部をさすりながら、顔を真っ赤にして喚き散らしてきた。
「殺す! 絶対に殺す!! お前だけは、いや……お前の家族も全員殺してやるッ! お前の目の前であの妹をめちゃくちゃに犯した後、バラバラにして魚の餌にしてやるからなッ!!」
「……やれやれ、どうやら頭皮だけじゃ足りなかったようだな」
まだ、黒煙の効果は続いている。俺は再び右手を前に構えると――
「や、やめ――」
天道が言い終わる前に、今度は股間部分をがしり、と鷲掴みにする。そして、再び魔力を解き放った。
「うぎゃぁぁああああッ!! 俺の、俺の大事なモンがぁあぁぁあぁあッ!?」
「ふう、自慢の暴れん棒も100歳ほど老化させてやったからな。まあ、最近は盛んな老人もいるというし、頑張れば使用できないこともないんじゃ……あ、いや……何でもないです」
いつの間にか俺の後ろに立っていた雫にジト目で睨まれて、途中で言葉を止めた。
「全く……近寄るなって言っただろ。ちょうど黒煙の効果が切れるところだったから良かったものの……」
「それよりお兄ちゃん、何だかそいつの様子おかしくない?」
雫に言われて、ハゲの方を見てみると――奴は何故かズボンの部分から湯気のようなものを吹き出していた。表情もどこか虚ろで、目の焦点が合っていないように見える。
「……あれ? もしかして俺やっちゃった感じ?」
頭皮だけを老化させたつもりだったが、初めて使う能力の加減が分からず、頭皮を貫通して脳味噌の老化も促進してしまったのかもしれない。
「まあ、いっか!」
どうしようもないクズ野郎だったしな。うん、同情の余地無し!
俺は気持ちを切り替えると、虚ろな表情でぶつぶつと何かを呟いている天道を拘束して、小さな家の中に放り込んだ。
◇
のんきに寝ている未玖を背中に背負いながら、俺達は10階のボス部屋に向かって通路を歩いていた。
「未玖のこと背負わせてごめんねー、お兄ちゃん。天道と一緒に小さな家に入れておくわけにもいかないしさー」
「……ったく。さっさと目を覚さないかな、こいつは。まあ軽いからいいけどさ」
背中で眠りこけているクソガキに向かって悪態を吐く。琴音ちゃんはそんな俺を見てクスクスと笑っていたが……ふと、何かを思い出したかのように、俺の顔を覗き込んできた。
「そういえば……。雫は先程からソフィアさんのことをお兄ちゃんと呼んでいますけど、これはどういうことですか? 雫のお兄様は亡くなられたはずですよね?」
「「あっ」」
琴音ちゃんの指摘に、俺も雫も硬直してしまう。
この間抜けな妹はさぁ〜……。俺は溜め息を吐きながら、ジト目になって雫を睨みつけた。
「いやいや! お兄ちゃんも普通に反応してたじゃん! 私だけを悪者にするのはおかしいよ、お兄ちゃん!」
「だからお兄ちゃんを連呼するなっての!」
俺は妹とギャーギャー騒ぎながら、何とか誤魔化す方法はないかと考えていた。
「琴音になら言ってもいいんじゃない? 未玖は口が軽いから心配だけど、琴音なら信用できるでしょ」
「そうだな。未玖は口が軽いから言わない方がよさそうだが、琴音ちゃんなら話しても大丈夫か」
俺と雫はそんなやり取りをして頷き合うと、琴音ちゃんに事情を説明をし始めた。
……
…………
………………
俺が死んで異世界に転生した経緯や、転移を使ってこっちの世界に戻って来た事を一通り話すと、琴音ちゃんは感心したように息を吐いていた。
「ははあ……そんな事があったんですね。道理でソフィアさんからは、年上の男の人のような雰囲気を感じたわけです。……あの、お兄様とお呼びしてもよろしいですか?」
「ああ、だけど俺の家族以外の前ではソフィアで頼むぜ。雫もな! 今度は間違えるなよ?」
「今回は色々イレギュラーだったし、仕方ないじゃん。次からは気を付けるから大丈夫だって」
「本当かぁ? なあ、琴音ちゃん。こいつどう思う?」
「あの……琴音、と。呼び捨てで構いませんよ、お兄様」
「え、でも……琴音ちゃん」
「琴音です」
み、見かけによらず、結構ぐいぐい来る子だな……。
俺は若干気圧されながらも、頷いてみせた。
「わ、分かったよ……琴音」
俺がそう言うと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。その笑顔に不覚にもドキッとしてしまう。雫と比べると、この子は中学生とは思えぬほどの色気があるな……。
そんなことを考えていると、隣を歩いていた雫が肘で俺の体を小突いてきた。どうやら顔に出ていたらしい。いや、だってしょうがないじゃん。お兄ちゃん美少女だけど魂は男の子だしさぁ。可愛い女の子に慕われると嬉しくなっちゃうわけよ。
「全くお兄ちゃんは……。……あ、ボス部屋見えて来たよ。今日は並んでないみたいだね、ラッキー」
最近は混雑していたボス部屋も、今日は空いていた。俺達は人が少ないうちにボスを倒すべく、部屋の中に入る。
「ソフィアぱーーんちッ!」
――ドゴォォオオンッ!!
ボス部屋に足を踏み入れた瞬間、面倒なので俺はワンパンでストーンゴーレムを解体した。俺の小さな拳で粉々にされたゴーレムの残骸が、床に転がり落ちる。
その光景を隣で見ていた琴音が、目を見開いて驚いていた。
「あー、この人チートだから。気にしたら負けだよ、琴音」
「え、ええ……。凄い、ですね……」
彼女はもはや驚きを通り越したのか、少し引き気味に苦笑いしている。
その後、ドロップアイテムを回収したが、外れの銅の魔石で、中身はただの低級ポーションだった。ボスを倒した俺達は、そのままセーフティーエリアに入り、転移陣の前まで移動する。
「それでどうするのお兄ちゃん、私ギルドの人に上手く説明できる自信ないよぉ」
「そうですね、私達のような子供が、実は殺人鬼だった天道を倒したなどと、信じてもらえるかどうか……」
雫と琴音が不安そうに言ってきた。
確かに、中学生の少女2人が、実は有名人の天道皇児は殺人鬼で襲われたから返り討ちにした、なんて言っても、ギルド職員が信じるかは微妙なところだ。俺は無断でダンジョンに入ってる身だから、ギルド職員と対応することは出来ないし……。
うーん、どうしたもんかな……。
「しょうがない。謎の美少女ヒーラー・シスターソフィアとして、俺がこいつを倒したことにしておくよ」
俺はそう言って、ドレスチェンジで慈愛の聖衣に着替える。正体を隠すことのできるこの衣装は、こんな時に役に立つな。
琴音がまた目を丸くさせていたが、俺は気にせず、雫に小さな家から天道を出すように指示した。
「では私がこの男をギルドまで運びますので、あなた達は未玖さんを連れて先に戻っていてください」
2人は俺の指示に頷くと、未玖を背負って転移陣に入っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます