第018話「鑑定してよお兄ちゃん」★
「はぁ~……ようやく私達の番だね。なんか色々疲れたよ」
雫はぐったりとした様子で呟く。
まぁ、確かに色々あったもんな。俺達がダンジョンに入ってから、既に6時間近くは経ってるはずだし、疲労も溜まるってもんだ。
「それではさっさとボスを倒して帰りましょうか」
「そうする~。お腹空いたし早く帰ろ~」
ボス部屋の扉を開いて中に入ると、そこには闘技場のような広い空間が広がっていた。天井は高く、壁には等間隔に松明が設置されているため、室内はかなり明るい。
奥には扉があり、そして、部屋の真ん中には、行く手を阻むように、全長3メートルを超える巨躯を誇る、岩の巨人が佇んでいた。
「あれがストーンゴーレムです。……雫さん、やっておしまいなさい!」
「なんで急に悪役みたいなセリフ吐いてんの!? まあやるけどさ!!」
雫は水神の涙を構えて魔力を込める。だが、その瞬間、水刃はばしゃりと音を立てて弾けてしまった。
「あ、あれ? おかしいな」
再び魔力を込めて水神の涙を振るう雫だったが、やはり水刃は発生しない。
「何か上手くいかない……。それに、なんだか凄く体が重いような……」
「ふうむ、どうやら魔力切れのようですね。そのうえ、魔核を埋め込んでから一度も休憩を取っていないので、体力も限界なのでしょう」
流石に無理をさせすぎてしまったかもしれない。つい俺基準で考えてたけど、雫にとってはハードすぎる一日だっただろう。
「もう一度ゴッドブレスを使えば戦える状態にはなると思いますが……。まあ、今日は止めておきましょうか」
「うーん、せっかくだしボスを倒してみたかったけど、仕方ないかぁ。お兄ちゃん代わりにお願い~」
雫は甘えた声で言いながら、俺の背中にしがみついた。
「わかりました。ふむ、どうせならド派手に行きたいところですね。……そうだ、アレやりますか」
俺はストーンゴーレムの正面に立つと、両手を広げる。そして、体全体から魔力を練り上げ、それを手のひらに集中させた。
「天に住まう神々よ、我が祈りを聞き届けたまえ。我は願う、悪しき存在を打ち滅ぼさんことを。この手に宿りしは、万物を塵芥に帰す神の御業なり。聖なる裁きの雷光よ、今ここに顕現せよ――」
詠唱と共に、俺の手のひらにバチバチと激しい電撃が迸っていく。そして、その光が限界まで高まった瞬間――――
『神聖魔法、最大最強奥義――神の鉄槌"トールハンマー"!!』
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/mezukusugaki/news/16817330666414625101
轟く雷鳴。
空気を震わせるような爆音と共に、両の手のひらから放たれたその一撃は――瞬く間にストーンゴーレムの身体を飲み込み、跡形もなく消し飛ばした。
激しい閃光と衝撃が辺り一面を覆い尽くし、地面は大きく揺れ動き、闘技場の壁や天井が崩れ落ちる。やがて光が収まり、視界が鮮明になると、ボス部屋は何もない更地になっていた。
入口の扉と奥の扉は、何か不思議な力で守られているのか無傷であったが、それ以外には何一つ残っていない。
浄化や回復が主な神聖魔法で、唯一の攻撃魔法、神の鉄槌"トールハンマー"。慈愛の聖衣を装備している状態でしか発動出来ない、最強の一撃である。
「ふう、こんなものでしょうか」
「こんなものでしょうか。じゃないでしょ! オーバーキル過ぎるわ!! これ絶対ドラゴンとかに使う魔法でしょ!?」
ちぇっ、なんだよ~。せっかく妹様の為にカッコいい魔法使ってあげたのに。
「まあまあ、ダンジョンの地形なんてすぐ元通りになるんですし、別に良いじゃないですか。それにカッコよかったでしょう?」
「それは……まあね。ちょっぴり見惚れちゃったかもだけど……」
雫は恥ずかしそうに俯いて言った。可愛い奴め。
「そうでしょう。そうでしょう」
「それにあの呪文詠唱! ちょっと厨二っぽい感じで良かったよね。大魔法を唱える時って、やっぱりああいうのやるんだ! あれって古の魔導書とかに書いてあったりするの?」
「いえ、詠唱は別に必要ないですね。それに呪文は自作です」
「必要ないのかよっ!? じゃあなんで呪文なんか唱えてるの!? てかあの呪文自作だったの!?」
ツッコミ動作がいちいちキレッキレッだなこいつ。
「大魔法ほど魔力を溜めるのに時間がかかるので、時間稼ぎの為ですよ。……あとは雰囲気作りですかね」
正直、あんなもんただの言葉遊びだ。適当に格好良さそうな単語を並べてるだけである。
「まあ、雰囲気は大事だよね。私も多分大魔法使えるようになったらやるわ」
うん、お前なら絶対やるよね。
「それよりほら、部屋の中央を見てください。床に魔法陣が浮かんでいますよ?」
「おお! あれがドロップアイテムが出るっていう例の魔法陣だね!」
ボスモンスターを倒すと、毎回必ずこの魔法陣が出現する。これに触れると、金、銀、銅の三種類のうち、いずれかの色の魔石がランダムで出現し、その中にドロップアイテムが入っている。
何故宝箱じゃなくて、魔石なのかはわからないが、とにかく地球のダンジョンはこういう仕様になっているのだ。
「レア度低が銅の魔石で確率90%。レア度中が銀の魔石で確率9%。レア度高が金の魔石で確率1%。さあ、雫さん。ドロップアイテムは初めてでしょう? 運を試してみなさい。金の魔石の中には億単位の値段が付くアイテムすら存在するそうですよ」
「ま、マジでか!? やばい、緊張してきた……」
雫はごくりと喉を鳴らす。
まあ、金の魔石なんて滅多に出ないけどな。俺も前世でクラスメイト達と結構こいつを討伐したけど、一度も出たことないもん。
ちなみに、金の魔石の中身もピンキリだ。モンスターによってドロップするアイテムの質が異なるらしく、ストーンゴーレムは10階のボスなだけあって、そこまで凄い物は落ちない。それでも一番レアなやつは数千万の価値があるらしいが。
「ええいっ、儘よ! いい物当たれ――!!」
雫は勢いよく魔法陣の上に足を踏み入れる。すると、魔法陣が光り輝き――
――コロンッ。
彼女の足元に、ハンドボールくらいの大きさをした、銀色の美しい球体が現れた。
「おや? 当たりですね。これは銀の魔石ですよ」
「おおー! 9%の確率を突破できたのか! できれば金が良かったけどやったー!」
雫は嬉しそうにガッツポーズを決める。
うーん、こいつ運もいいのかなぁ……。これからは雫にアイテムガチャ引かせた方がいいかも。
「お兄ちゃん開けて開けてー」
「はいはい、今開けますよっ――"ウォーターカッター"」
俺は水の刃で銀の魔石を真っ二つに切断する。すると、その中から現れたのは――
「なにこれー? ストーンゴーレムのミニチュア?」
ボスのストーンゴーレムをそのまま小さくしたような、小さな人形だった。
「お兄ちゃん鑑定してよ鑑定。鑑定! ぴぴぴってやって!」
「…………」
「……? どうしたのさ、お兄ちゃん。早く鑑定してよ」
「……えません」
俺は俯きながら、ぼそりと呟く。
「え? なに? よく聞こえなかったんだけど。早く鑑定してよー。鑑定鑑定鑑定ー」
雫は俺の頭をぺしぺし叩き、催促してくる。
「……使えません! 鑑定の能力持ってないんです!」
「ええーーーー!? うそーーーーっ! 鑑定持ってないのーー!? お兄ちゃん異世界転生者なのに鑑定使えないのぉ~~~~~~!?」
こ、こ、こ、このメスガキ!
アストラルディアでは鑑定のギフトはレアなんだよ! しかも持ってるのが何故か殆ど女だからコピーできないんだ! そもそも相手の情報を丸裸にするようなチート能力をそこら辺の奴がガンガン使えるって設定の方がおかしいんだよ!
「おほんっ! とにかくこれは知ってるアイテムなので鑑定は必要ないですよ。このアイテムは"身代わりゴーレム"ですね」
「身代わりゴーレム?」
「持ち主が致命的なダメージを負った時、代わりにその攻撃を受けてくれる人形です。ただし、1回発動したら壊れてしまいます。売れば百万はくだらないでしょうね」
「ひゃ、ひゃくまん!? すご~い、大当たりじゃん! でも、そんな高価な物を貰っちゃっていいの?」
「ええ、あなたが持っておくといいですよ。ダンジョン探索者には危険がいっぱいですからね。さあ、そろそろ帰りましょうか」
「はーい!」
俺達は奥の扉に向かって歩き出す。
ボス部屋の奥には、魔物の入れないセーフティーエリアが広がっていて、そこには地上に戻る転移陣と上に登る階段が設置されている。
俺は人目に付かないように、再び小さな家の中に入ると、雫は転移陣の上に乗って、地上へと帰還した。
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