第010話「家族」★
その後、俺は家族と一緒に夕食を取った。
母ちゃんの作った飯を食いながら、あまりの美味さと懐かしさに、ボロボロと涙をこぼす俺を見て、家族全員が優しい笑顔を浮かべていたのは照れ臭かったけれど、とても嬉しかった。
ワイワイと楽しい食事を終えて、食後のお茶を飲みながら雑談に興じる。
「それにしてもさ、お兄ちゃん可愛すぎじゃない? 芸能人でもこんな可愛い子見たことないんだけど。異世界の人って皆こんなに顔がいいの?」
雫がスマホのカメラ機能で俺を撮影しながら言う。
「いや、異世界もこっちと同じような感じだな。俺はあっちでもかなりの美少女って評判だったけど、別に異世界人の全員が美形なわけじゃ無いと思うぜ?」
「ふん! 昔のあたしに比べたらまだまだだねっ! ねえ、お父さん?」
「あ、ああ……。そ、そうだね」
母ちゃんが自慢げに胸を張るが、父ちゃんは苦笑しながら相槌を打つだけだった。
昔は美人だったってよく聞くけど、嘘くさいんだよな……。いや、でも雫や空が美形だから、母ちゃんも若い頃は本当に美人だったのか?
う~む、わからん。
「兄ちゃん。いや、おにねえちゃん?」
「鬼の姉ちゃんみたいになってんぞ。兄ちゃんや高雄でいいよ。ただし皆も外ではソフィアと呼んでくれ」
空はコクリと無言で首肯する。
それから俺は、異世界での暮らしについて家族へ語った。ただ、男に媚びまくっていたことだけは黙っていたが。流石にアレは知られたくない。
復讐計画についても話していない。家族に会いたいし、美味いものが食いたいから地球に帰ってきたとだけ伝えた。
まあ、実際そっちの比重の方が大きいから間違ってはいないだろう。
クラスの奴らはムカつくが、俺からすればもう24年も前の出来事で、今は結構幸せな生活を送れているから、そこまで憎しみの感情に支配されていないのだ。
もちろん、あのクソ共への恨みが完全に消えたわけではないので、機会があれば必ず報復するつもりだが。
特に西方! あいつには絶対なっ!
「ふあ~、そろそろ眠くなってきちゃったよ」
空が欠伸をしながら呟いた。
色々話していたせいで時刻は既に夜の10時を回っている。小学生の子供にとっては少し遅い時間だ。
「空、ちゃんとお風呂入ってから寝なさいよ?」
「ふあ~い」
母ちゃんの言葉に生返事を返すと、空はフラフラと立ち上がる。
う~ん、そういえば俺もめちゃくちゃ汗をかいてたんだった。久々に現代風呂を堪能しようかな。
「よ~し、空! 久々に兄ちゃんとお風呂に入ろうぜ!」
俺はウキウキ気分で空と手を繋ぐと、浴室へと向かって歩き出したのだが――。
「待てやっ!」
雫にガシッと肩を掴まれた。
「何すんだよ?」
「何すんだよ? じゃないでしょ!? あんた自分が女だって自覚あるの!?」
雫が顔を真っ赤にして叫ぶ。
あんたって……。お兄ちゃん悲しいよ。そのうち「おい」とか「お前」なんて呼び方になったりしないよね……?
「女だけど家族なんだから別にいいだろ。空も気にしないよな?」
「……え? あ、うん……」
「ダメに決まってるでしょ!? 空は来年で中学生になんのよ!? 異性を意識し始める年頃なの! そんな弟と一緒にお風呂に入るなんて――」
「HAHAHAHAHA! 空がエッチな事考えるって? まさか~~」
俺は笑いながら雫の手を振りほどいて、空と一緒に浴室へと向かう。が、雫は必死の形相で追いかけてきた。
「このアホ兄! その乳で弟と一緒にお風呂入るとか、あり得ないから!?」
――ギュムッ!!
背後から伸びて来た手に、俺のおっぱいが鷲づかみにされた。
「ひゃいんっ!?」
俺は思わず変な声を出してしまう。
「うわっ! でかっ! 私より身長低いのに、おっぱいでかっ!?」
雫は驚愕の声を上げながら、俺の胸を揉み続ける。
「ちょ、ん……、やめっ……!」
「お、おお……。つい夢中になって揉んでしまったけど、凄い弾力……。だがしかし! やっぱりこんなおっぱいで弟と一緒にお風呂に入ることは認めません!」
雫はビシっと俺を指差すと高らかに宣言した。
「なんだよぉ……。空は全然気にしてないじゃん……。なあ、空?」
「ぼ、僕お風呂入ってくるっ!?」
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/mezukusugaki/news/16817330667260338487
空は顔を赤くしながら、慌てて脱衣所に駆け込んで行った。
どうしたのだろう? なんか様子がおかしかった気がするが……。
うーむ、しょうがない。今日のところは諦めるか。雫が目を光らせてるし、後で1人寂しく入浴するとしよう……。
俺はガックリと項垂れながら、雫に手を引かれ居間へと戻ると、ソファに腰掛けながらテレビを見始めた。
そして、空がリビングに戻って来たところで、交代するようにお風呂へ向かう。
久しぶりの現代風呂。俺は鼻歌を歌いながら、全裸になると浴室の扉を開き、足を踏み入れた。
「おお、懐かしの我が家のお風呂!」
早速シャワーを頭から浴びて、汗を流す。
――シャーーーー。
う~ん、気持ちええ……。魔法を使わずとも、蛇口をひねるだけてお湯が出て来るとは、なんと素晴らしいことか……。
ボディソープを手に取ると、染み一つ無いどころか、一切のムダ毛すら存在しないパーフェクトな美少女ボディを、泡だらけにしながら、全身をくまなく洗う。
「ぷにぷにぷに~っと」
自分で触ってもどこもかしこもめちゃくちゃ柔らかい。これこそまさに神が与えし究極の美。
続いてシャンプーを使って、サラサラの髪の毛を念入りに洗い、ついでにコンディショナーを髪に馴染ませる。そして最後にまた頭からシャワーを被って、全身に残っていた泡を洗い流した。
「ふー! スッキリしたぜ! さあ、次はお楽しみの入浴タイムだ」
俺は意気揚々とお湯の張られた浴槽へと足を伸ばすと、勢いよく飛び込んだ。
「かぁ〜! 気持ちいい〜!」
手足を伸ばしながら、浴槽の中でリラックスする。
ああ、これだよこれ。これが現代の風呂だ! 異世界では自分で魔法を使いながらなんとか水を温めていたが、やはり文明の利器には敵わないな。
飯は美味いし、温かい風呂に入れるし、現代日本最高だぜ!
「よく日本は幸福度が低いとか言われるけど、あれは本当に辛い生活をした事がない奴らの戯言だな。美味い飯を食って、温かい風呂に毎日入れるだけで幸せすぎるだろ」
俺はしばらくのんびりした後、浴槽から出て、脱衣所へと向かった。
「あ゛~~~~。お風呂最高だったぁ~~~~」
タオルで髪を拭きながら、リビングへと戻る。
ちなみに、今度は全裸じゃなくて、ちゃんと服を着てるぞ。薄いキャミソールにショーツのみという格好だが。
「高雄! あんたねぇ、お父さんや空もいるんだから、もっと恥じらいを持ちなさい!」
母ちゃんに怒られてしまった。
え~、これくらい別にいいじゃん。家族しかいないし……。
「わかった、わかったって……。それより俺、どこで寝ればいい? 俺の部屋ってまだある?」
すると、雫が首を横に振った。
「お兄ちゃんの部屋? そんなもの、ウチにはないよ……」
「ないんかいっ!」
「だってお兄ちゃん、死んだんだからしょうがないじゃん。前はお兄ちゃんが1人部屋、私と空が2人で1つの部屋を使ってたけどさ、来年私は高校生だし、空も中学生になるからね。部屋が空いたら2人で一部屋ずつ使うのが普通でしょ?」
「酷いっ! 普通家族が死んだら忘れられずに、いつまでも部屋を残しておくもんじゃないの!?」
「現実は非情なのよ。あんたの私物は全部物置に放り込んであるからね。あ、ベッドの下にあったあんたのコレクションは――」
「あ~~~~~~~~~~!!!!!」
俺は大声で叫びながら、慌てて母ちゃんの口を塞いだ。
この人俺が死んだあと、俺のお宝や秘蔵ファイル全部に目を通してやがる!? もう泣きたいんだけど!?
「はあ……もういいよ。じゃあ俺は空の部屋で一緒に――」
「待てやっ!」
雫にガシッと肩を掴まれた。
「何すんだよ?」
「何すんだよ? じゃないでしょ!? その乳で年頃の弟と一緒の布団で寝るとか、あり得ないから!?」
雫が顔を真っ赤にして叫ぶ。
なんかさっきも同じやり取りをした気がするが……。
「じゃあどうするんだよ? 俺の部屋はないんだろ?」
「わ、私の部屋でいいでしょ!? 女同士なんだし! 昔はよく一緒に寝てたんだから!」
ええ~、中学生の妹と一緒に寝るのはお兄ちゃんとしてはちょっとなぁ……。
んー……でも、雫の言うように、今は俺も女なんだし、別にいいのか?
「まあ、いいか。よし! 雫! 久しぶりに一緒に寝るか!」
「う、うんっ!」
雫は嬉しそうに返事をする。
こうして、俺は雫と一緒に寝ることになったのだが――。
「あ、あのっ! 僕も兄ちゃんと姉ちゃんと一緒に寝たい……な……」
空がモジモジしながらお願いしてきた。
「空……。しょうがないなぁ! 今日は特別だよ? 久々に3人で寝ようか?」
雫が仕方なさそうな顔をして言うと、空はパアッと表情を明るくさせる。
まったく、俺の妹と弟は可愛いなぁ。
俺達は仲良く手を繋いで雫の部屋へと向かうと、思い出話に花を咲かせながら、3人並んで川の字になって眠りについたのだった――。
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後半に行くほど面白くなっていくと思うので、引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
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