第008話「山田家」★
「ふう、緊張してきたな……」
俺は"山田家"と書かれた表札の前で深呼吸をする。
どこにでも有りそうな普通の一軒家で、庭付きの2階建て。築30年は経ってると思しき家屋だが、よく手入れされていて、古さは感じられない。
そう、何を隠そう、ここは前世の俺の実家だ。
俺が転移してきた場所は、高校への通学途中にあったすき野屋なので、当然実家は近くにあって、誠一郎の家からも歩いても行ける距離にある。
「あー、あー。ちゃんと高雄の声でてるかな?」
俺は今、ソフィアの姿ではなく前世の山田高雄の姿になっている。
変身能力ではない。俺は優に100を超えるギフトを持っているのだが、残念ながら、変身系のギフトは持っていないのだ。
なので、これは土魔法でソフィアの上に、山田高雄の姿を被せているだけの状態である。ソフィアは小柄なので、この"高雄スーツ"を着ても、それほど違和感はないと思う。
ただ、胸が大きいので、さっきからずっとスーツの中で胸が押し潰されているのが少し辛い……。早く脱いでしまいたいところだ。
「よし、"ミラクルボイス"は発動しているな」
あとは"ミラクルボイス"という、声色を変えることが出来るギフトを使えば、完全に前世の俺を再現できるというわけだ。
「…………お、押すぞ」
緊張に震える手を伸ばし、インターホンを押した。
――ピンポーン♪
《雫~! お母さんちょっと手が離せないから出てくれるー?》
玄関の奥から母親の声が聞こえてきた。
懐かしい……。涙が出そうになってきた……。
《はーい、わかったー!》
ガチャリという音と共に扉が開かれ、中から出てきたのは――
「や、やあ。ただいまーー! お兄ちゃんだよーー!」
「……………………」
黒髪にやや短めのツインテール。ぱっちりした大きな瞳に、整った目鼻立ちをした、可愛らしい女の子。
俺の妹、
24年ぶりに会う妹は、昔と変わらず愛くるしい顔立ちをしていた。モブ顔の俺と血が繋がっているとは思えないほどの美少女っぷりである。
少し背が伸びて体つきも女らしくなっているが、まだまだ子供っぽい印象を受ける。こっちの世界はまだ2年しか経っていないので、確か今は15歳で中学3年生のはずだ。
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/mezukusugaki/news/16817330665892205557
雫は俺の顔を見て、口をぽかんと開けて固まっている。
「逢~いた~~いと~思~う気持~ち~が~♪ 山田高雄! 地獄から舞い戻ってきました! ……ってなんで地獄やねん! 普通天国ちゃうんかい!」
「……………………」
お、おかしいな。渾身のギャグだったんだけど……。反応がない……。
「……お」
「お?」
「お母さあぁぁーーーーん!!」
バタバタッと家の奥へ走っていく雫。
あれれー? 感動の再会のはずなのに、おかしいぞ~?
しばらくすると、どたばたとした足音がこちらに近づいてきて、玄関が勢い良く開かれた。
「誰だい! 息子の名を騙る不届き者は!?」
鬼のような形相をして現れたのは、パーマをかけた小太りの女性だった。典型的な肝っ玉母ちゃんと言わんばかりの風貌をしている。
俺の母、
「や、やあ、母ちゃん。オレオレ、オレだよ。高雄だよ。久しぶり」
「オレオレ詐欺かい!? 高雄はね! 死んだんだよ!! この、息子の名を騙る詐欺師がああぁぁーーーーっ!!!」
母は包丁を振り回し、襲いかかってきた。
「ちょ、ちょっと待った! 落ち着けよ! 俺だってば! ほら、よく見ろ! このモブ顔はどう見ても息子だろう!」
「だまらっしゃい! ええいっ! ちょこまかと逃げ回るんじゃないよ! この偽物めがぁーーーーッ!!」
「ぎょええーー! し、雫! 母ちゃんを止めてくれ! マジで俺だって!」
母ちゃんの包丁攻撃をかわしつつ、必死に雫に助けを求める。
「お、お母さん? な、何か本物のお兄ちゃんのような気がするんだけど……」
「騙されるんじゃないよ! こいつらはこうやって遺族の心につけ込んで金を騙し取ろうとするんだ! あたしゃ騙されないからねぇーーーーっ!」
ど、どんだけ疑り深いんだよ! 母ちゃんらしいけどさ!
「どうしたんだい? お母さん、雫。誰か来ているのかな?」
騒ぎを聞きつけてやってきたのは、眼鏡をかけた温厚そうな男性だ。日曜日に放送されている、某国民的アニメの娘婿を彷彿させる顔立ちをしている。
俺の父、
「と、父ちゃん! 助けてくれ! せっかくあの世から舞い戻って来たのに、このままだと母ちゃんに殺されてしまう!」
「ええ゛え゛え゛ぇーー!? 高雄くんかい!? 一体何がどうなってるんだい!?」
「お父さんも騙されるんじゃないよ!! こいつはあたしの息子を騙る詐欺師なんだよ!!」
ぎゃーぎゃーと辺り一帯に響き渡るほどの大声で言い争う山田家の人々。近所迷惑極まりない。
母ちゃんの包丁攻撃を華麗なステップでかわしつつ、何か手はないのかと考える。
「その動き! やっぱり高雄じゃないね! うちの息子はねぇーー! モブ顔の上に、勉強も運動も平均以下の凡人なんだよ! まさにモブの鑑と言えるような男なんだ! そんな主人公みたいなステップを踏んどいて息子を名を騙ろうなどと……100年早いわああぁぁーーーーっ!!」
ナチュラルに息子をディスるのやめてもらえます!? 確かに事実だけどさ!
くそ! こうなったら仕方がない! 奥の手を使うしか――――
「皆何やってるの~? ご飯まだ~?」
その時、家の奥からのんびりした口調の声が聞こえてきた。
現れたのは、さらさらの黒髪に、透き通るようなきれいな瞳をした、女の子にも見える中性的な容姿の少年だ。
俺の弟、
「おお、空! 兄ちゃんだぞ! あの世から帰って来たんだ!」
俺は包丁を振り回す母を避けながら、弟に向かって手を振った。
「空! 騙されるんじゃ――――」
「兄ちゃあぁぁーーーーーーん!!」
空は俺と目が合うなり、満面の笑みを浮かべ、両手を広げて駆け寄ってきた。そして、そのままの勢いで俺に抱きついてくる。
――ガシッ!
おお! 相変わらず愛い奴じゃのう! 俺も抱きしめかえしてやるぜ!
……くっ! 高雄スーツのせいで、愛しの弟の感触が味わえない……。残念無念だ。
母ちゃんの包丁攻撃をかわしつつ、弟にハグをするという器用なことをしながら、母の説得を試みる。
「ほら! 母ちゃん! 空が俺だって認めてるんだから、もう疑いようがないだろ?」
「……ぐぬぬ。空は勘が鋭いからね……。やはり高雄……? いや、しかし……」
まだ疑ってんのかよ……。どんだけ息子を信じてねえんだよ……。
母ちゃんはぶつぶつと言いながらも、ようやく包丁を収めてくれた。
「とりあえず中に入ってもらったら? 色々聞いてさ、本当にお兄ちゃんかどうか確認しようよ?」
雫が母ちゃんを説得し、ようやく俺は家に上げてもらうことに成功したのだった。
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