第005話「裸ワイシャツ」★
――チュン、チュン。チチチチッ。
小鳥のさえずりが聞こえる。カーテン越しに朝日が差し込んできて、部屋を明るく照らしていた。
俺は目を擦りながら、ゆっくりとベッドから身を起こす。
「う~ん……。うん?」
ん……? ここはどこだ? 昨日は確か……。あ……そっか。
段々と頭がはっきりしてくる。
転移は見事成功して、俺は地球に戻ることが出来たのだ。それで、すき野屋にいた大学生の兄ちゃんに牛丼を奢ってもらって、ついでに家に泊めてもらえることになったんだよな。
「あ、ソフィアさん起きたんですね」
「あー、誠一郎おはよー。ふぁ~」
キッチンの方からこの部屋の主である誠一郎の声がしたので、俺は欠伸をしながら挨拶を返した。
「そ、ソフィアさん! 前、前隠して!!」
誠一郎は俺を見て慌てた様子で叫ぶと、顔を真っ赤にして視線を逸らした。
そういや全裸で寝たんだったな。しかし、昨日あんなことまでしたのに、今更裸を見ただけで動揺するとは、愛い奴よのぉ~。
「こ、これ着てください……」
誠一郎は顔を背けたまま、ワイシャツらしきものを俺に手渡した。
「これって彼シャツってやつ~? 誠一郎ってばこういうのが趣味なのか~?」
「ち、違いますよ! 洗ってあるやつはそれしかないんで! まあ、嫌いでは……ないですけど……」
だよな! 裸ワイシャツが嫌いな男なんていないもんな! それも普段自分が着てるワイシャツを美少女着せるとか、もうそれだけで興奮するよな!
俺は男心を誰よりも理解できる女だから、わかってるぞ~。
渡されたワイシャツを羽織ると、サイズが大きいせいか、肩口が少しズレて胸元が大きく開いていた。
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/mezukusugaki/news/16817330665714057996
誠一郎は一瞬だけこちらを見ると、すぐにまた恥ずかしそうに目を逸らす。
「そ、それじゃあ朝食にしましょうか」
「おー、俺も食っていいの?」
「はい、目玉焼きとベーコン焼いたやつと、トーストの簡単メニューですけど」
そう言って、誠一郎はテーブルの上に料理を並べていく。おいしそうな匂いが鼻腔をくすぐり、思わずお腹が鳴った。
こ、これが簡単メニューだと!? 異世界で貴族が食ってる料理より全然美味そうに見えるんだが!!
「た、食べていい?」
「どうぞどうぞ」
俺は椅子に座って手を合わせると、目の前に置かれた食事を食べ始めた。パンを一齧りした瞬間に、あまりの美味さに感動してしまう。
な、なんだこれは!? こんな美味しいものがこの世にあったのか……!?
サクッとしていてモッチリとした食感がたまらないし、香ばしくてほんのりと甘い風味も素晴らしい!
「こ、これはルディア金貨何枚で買えるんだ!?」
「金貨って……。6枚入りで200円ちょっとくらいだったと記憶していますが……」
な……! 200円!?
そんな安い値段でこのクオリティのパンが手に入るなんて……!
次に俺はベーコンを食べた。肉厚でジューシーな味わいと、適度な塩味が絶妙なバランスでマッチしている。
「ん、ん、ん、んまぁ~い!」
そして最後に、目玉焼きの黄身の部分をスプーンですくって食べると、とろーっとした濃厚な卵の旨みが口に広がった。
うますぎるっ! 幸せすぎて涙が出そうだ!
「天才シェフ……。天才シェフはここにおったんや……」
「いや、ただ焼いたり塩コショウ振ったりしただけですけど……。ソフィアさんって本当においしそうにご飯を食べるんですね」
謙遜しているが、俺は知っている。こいつは間違いなく天才シェフだ。異世界で王宮に招待された時に食べた、国一番の料理人が作ったフルコースなんかとは比べ物にならないほど、誠一郎が作ったものは美味しかった。
俺が感動の涙をボロボロ流しながら夢中で食事をしていると、いつの間にか誠一郎は、鞄を持って出かける準備をしていた。
「あれ? どこ行くん?」
「どこって大学ですよ。言いましたよね? 俺、大学生だって」
ああ、そういえばそんなこと言っていたような気がする。俺でも知ってるような、結構有名な大学らしい。
「それじゃあ俺はもう行きますけど、ソフィアさんはゆっくりしていてくださいね。部屋の物は自由に使っていいですけど……。あ、あまりパソコンの中身は見ないようにしてくれると助かります……」
「あー、エッチなやつね。うん、わかった。フォルダを隈なく調べたり、検索履歴をチェックして誠一郎の性癖を探ろうとかしないから安心してくれよな!」
「不安すぎる!?」
誠一郎は心配そうな表情を浮かべていたものの、それ以上は何も言わずに部屋を出て行った。
1人になった俺は、改めて部屋を見回す。
いかにも、俺の知ってるザ・オタク部屋という感じで、本棚には漫画やラノベが大量に並べられていた。美少女フィギュアがいくつもあるし、部屋の隅っこにはエロゲーが積まれている。
ベッドの下に手を突っ込んでみると、たくさんのエロ同人誌が出てきた。その全てが巨乳物である。
「うむ、リョナ系とかグロ系はないみたいで安心したぜ」
いくら最強無敵のソフィアちゃんとて、女の子なのだ。相手がどぎつい性癖を持っていようものなら、精神的に動揺してしまうこともある。
特に俺はサディストの男はダメなのだ。殴ってくるやつとかマジ無理。リョナ系とか趣味のやつは、例えレアギフトを持っていても絶対に近づきたくない。
「さて、そろそろパソコンでも立ち上げて、情報収集しますかねー」
なんせ24年ぶりの地球である。知らないことが多すぎて、まずは情報を集めないことには始まらない。
俺を死に至らしめた、クラスメイトの奴らにも復讐してやりたいところだが、24年も経っているわけだし、奴らもどうなってるかわからないんだよな。
とりあえず、俺を囮にして殺した奴らの居場所は全員突き止めて、俺を殺したことを後悔させてやるつもりだけどさ。
誠一郎のパソコンを立ち上げると、俺はインターネットにアクセスした。
「ん……? んんん? なんかおかしいぞ?」
24年も経ってるはずなのに、表示されているサイトのデザインが昔と変わっていないのだ。
思えば最初から違和感だらけだった。街の風景もそうだし、誠一郎の持っていたスマホも俺の知ってる機種だった。
だから、もしかしたらと思ったんだけど――。
「2年!? 俺が死んでからまだ2年しか経ってないのかよ!!」
ネットで日付を確認すると、俺がダンジョンで殺された日からちょうど2年後の世界だった。
「時間の流れが違うのか? あっちの世界と地球では、12:1くらいで流れる時間が違ってるってことなのか……?」
ということは、こっちで1ヶ月過ごした場合、あちらでは1年の月日が流れることになる。
「これは少し考えて行動した方がいいかもな……」
なんだかんだで、あちらの世界は今の俺の故郷だ。家族はいないが、友人はいるし、それなりに愛着はある。
俺が戻った時に、魔王軍に滅ぼされて人類は滅亡していましたなんてことになっていたら、流石に寝覚めが悪い。
「まあ、それは追々考えるとして……。今は色々と情報集めないとな」
俺はブラウザを開き、検索エンジンを使ってキーワードを打ち込んだ。
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