第004話「牛丼」
「そ、ソフィアちゃん! ぼ、僕と! け、け、け、結婚してください!!」
翌日の朝、俺はオッサンから熱烈なプロポーズを受けていた。
昨日はなんだかんだあって、無事オッサンから転移のギフトをコピーできたのだが、朝になって、さあ帰ろうかと宿を出ようとした矢先、突然オッサンに呼び止めれて、こうした状況になったのだ。
「あー、ごめんなさい。それはちょっと無理です」
俺は申し訳なさそうな顔を作りながら、即座にお断りの返事をする。
「しょ、しょんなぁ……」
オッサンは涙目になりながら、膝から崩れ落ちた。
どうしていけると思ったし……。
はぁ、毎回こうなっちゃうんだよなぁ……。特に童貞からギフトをコピーさせて貰った時は、ほぼ確実に俺にガチ恋してくるからマジ面倒臭い。
まあ俺も悪いっちゃあ悪いんだけどね?
相手がレアなギフトを持ってるとわかると、テンション上がって、ついハッスルしちゃうからさ。
でも最近はこれでも自重してるほうなのだ。昔は奥さんや恋人がいる相手でも、レアなギフトを持っているとわかると、誰彼構わず誘惑していたからな。
男の家族にバレて修羅場になったり、涙目の女の子に包丁を持って追いかけられたりとか、色々あったなぁ……。
俺は14歳の時、不老不死の超絶レアギフトを持っていた男から、その能力をコピーしたことで、肉体の年齢が止まった。劣化して不死の方は無くなったけど、永遠の若さを手に入れたのである。
実は今、俺の年齢は24歳なのだが、外見は10代前半のJCくらいにしか見えない。
つまり合法ロリである。
いや、昔から発育だけはやたら良かったからロリとは少し違うか……。
なんというか、背は高くないし、顔立ちも幼いけど、胸と腰とお尻はボン、キュッ、ボンという感じで、エロ漫画に出てくるようなロリ巨乳体型をしているのだ。
だが、これがまた男達には堪らないらしく、俺が本気を出して誘惑すれば、妻帯者だろうが、ラブラブの恋人がいる男であろうが、簡単に籠絡することができた。
当時は精神的に余裕がなかったんだ……。あの時の俺はどうかしていたんだよ……。
今は過去の俺を完全にやべー女だと客観的に認識できるようになり、反省しているのだ。
「そ、ソフィアちゃん……。じゃあ、恋人からってことじゃ……ダメ?」
「……ごめんなさい。昨日のことは一夜限りの夢だったってことで、忘れてもらえませんか……?」
俺は申し訳無さそうに、上目遣いで懇願する。
「う、うん……。そうだよね……。僕みたいなオッサンが、ソフィアちゃんみたいな子と一晩だけでも一緒に過ごせただけで奇跡みたいなものなんだから……。わかっているんだけど……。うぅ……」
オッサンは再び泣き出してしまった。
くう~~~~! めんどくせーっ!
俺はオッサンを抱きしめ、少し禿げ始めている頭を優しく撫でる。そして耳元に口を寄せて囁いた。
「これを、私だと思って大切にとっておいてください」
俺は身に着けていた下着をその場で脱ぐと、オッサンの手の中に握らせる。
オッサンは涙を流しながらそれを掴んだ。
「うん! うん! 大切にするよ! 絶対一生の家宝にするから!」
家宝にまでせんでええわ……。使用したら捨ててくれ。
涙を流しながら、下着を天に掲げるオッサンを背に、俺は部屋を出る。
さあ! 日本に帰って美味い飯を食うぜぇーーーー!!
◇
「よし! 準備万端ですね!」
数日後、全ての準備を終えた俺は、部屋の中で全裸になって仁王立ちしていた。
ここは、この世界にある俺の拠点の一つで、ミステール王国の王都ミルテから少し離れたところにある森の中に建てた、そこそこ大きなログハウスである。
オッサンからコピーした転移能力は、すでに何回か試していて、問題なく発動できることは確認済みだ。やや劣化した影響で、精神集中の時間が30分から1時間になってしまったが、まあ許容範囲だろう。
ギルドにも、しばらく留守にするが心配しないでくれと伝えてきたし、いつでも出発できるぞ。
全裸だが、俺には次元収納があるので服や荷物は必要ない。
「あとは、前世の地球を上手くイメージできれば良いんですけど……」
なんせ俺にとっちゃ24年も前の出来事だからな。細かい記憶が曖昧になっている。
「まあ、なんとかなるでしょう。……精神集中!!」
豊満な胸の前で手を合わせ、目を閉じて、意識を集中させる。
…………。
すき野屋だ……。すき野屋の牛丼が食べたい……。
すき野屋、すき野屋、すき野屋、すき野屋…………。
前世でよく利用していた牛丼チェーン店の名前を思い浮かべながら、俺はひたすら念じた。
……………………。
…………。
……。
来たっ!
全身を淡い光が包み込む。そして、次の瞬間――――
◆◆◆
俺の名前は
どこかの剣士みたいな名前をしているが、どこにでもいる普通のオタク大学生だ。
「すみませーん、四色チーズ牛丼の特盛りに温玉付きをお願いしまーす」
「はーい、少々お待ちくださーい」
俺はカウンター席に座って注文をする。
ここ、すき野屋は全国展開している有名なチェーンの牛丼店である。そこそこ美味くて値段も安いし、ボリュームも結構あるので、俺のような貧乏大学生にはありがたかったりする。
いつもは混んでいる店内も、今は深夜なので、俺と男性店員の2人しかいない。
深夜に1人で牛丼を食べる俺……。なんて寂しい奴なんだ……。
大学生になったら毎日友達と楽しく遊んで、彼女を作って、それで……え、エッチな事とかもしちゃったりして……みたいな妄想をしていたが、現実はそんなに甘くなかった。
彼女どころか、大学では未だに友達の1人もおらず、授業を受けてボロアパートに帰って、アニメを見てゲームをして寝るだけの日々。
サークル活動もしていないし、バイト先はパワハラ店長がいてブラックだし、せっかく受験勉強を頑張ってそこそこいい大学入ったのに、人生ってクソゲーすぎるだろ……。
はあ……。わかってたよ。どうせ俺みたいなヒョロガリ陰キャ眼鏡オタクが女の子にモテるわけないし、このまま彼女もできずに一生童貞なんだろうな……。
「おまたせしましたー。四色チーズ牛丼の特盛りに温玉付きです」
俺の目の前に、ドンッと音を立てて、巨大などんぶりが置かれた。湯気が立っており、とてもいい匂いが漂ってくる。
おお! きたこれ! 待ってました! これで明日も頑張れる!
俺は割り箸を割って、早速、肉の上に乗っかっている温玉を崩そうとした、その瞬間――――
――――突然、店内が眩い光に包まれた。
「うわ! な、なんだ!?」
「な、な、なにが起きたんだ!?」
俺と店員の男は驚いて周囲を見回す。すると――――
いつの間にか、そこには見たこともないような美しい少女が立っていた。
腰の下あたりまで伸びた黒灰色の髪。吸い込まれそうなほど綺麗で、まるで宝石のように輝く金色の瞳。肌の色は透き通るように白く、手足は細く長い。
中学生かせいぜい高校生くらいに見えるのに、体つきは女性らしい丸みを帯びており、出るところは出て、引っ込んでいる所は引っ込んでおり、グラビアアイドル顔負けのスタイルをしている。
そして――――全裸だった。
「「…………」」
俺と店員の男は馬鹿みたいに口を開いたまま固まってしまう。
少女はキョロキョロと辺りを見回すと、嬉しそうに顔を輝かせて、ぴょんぴょんと飛び跳ね始めた。
う、うわ……! ゆ、揺れてる! 何がとは言わないが、ゆっさゆっさと激しく揺れている!
店員の男も俺と同じように呆然としながらも、チラチラと少女の方に視線を送っていた。
やがて、少女はこちらを振り返り、俺――――いや、正確には俺のテーブルに置かれた、四色チーズ牛丼の特盛り温玉付きに目を向けた。
そして、よだれを垂らしながら、舌なめずりをして、俺に近づいてくる。
「☆$#○■※?」
「へ!? あ、あの……な、何を言っているのかわからないんだけど……」
や、やっぱり外国人? いや、突然現れたし、もしかして宇宙人だったりするのか? とにかく聞いたことのない言語だ。ど、どうすれば良いんだよ……。
困惑した様子の俺に、少女は首を傾げた。そして、ハッと何かに気付いたように手を打つ。
「んー、んー、あー、あー。こんな感じだっけ? 日本語、これであってたよな? 俺の言葉通じてる?」
少女は流暢な日本語で喋った。
しかも俺っ子!? こんな清楚系美少女が俺っ子だとぉ!! ギャップ萌え過ぎるだろ!! くそ可愛すぎるぜぇーーーー!!
俺は思わずガッツポーズをしていた。
そんな俺の様子に、少女は不思議そうにしていたが、すぐに笑顔を浮かべる。
「ねえ、お願いがあるんだけどさ。それ、その牛丼食ってもいい? マジお願いします! お礼は何でもするから!」
「……え? な、何でも?」
俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
こ、これは……もしかして……そういう展開なのか!?
「あ、その目。エッチな事考えてるな~?」
「め、め、め、滅相もございません!!」
少女がニヒヒと悪戯っぽい笑みを浮かべたので、俺は慌てて否定した。
「そ、それよりこれ着てください! いつまでも裸じゃ風邪ひきますよ!!」
「え? やべー! 俺裸じゃん! 牛丼屋で裸って完全に痴女じゃねーか! いや~ん、エッチ~~♪ あははははっ!」
な、なんかやたらテンションが高いな……。まあ、可愛いからいいけど……。
俺は自分の上着を脱いで、少女に差し出した。
「お、サンキュー。次元収納は……ここで使うわけにもいかんしな、借りとくぞ」
少女は俺の上着を受け取ると、それを羽織った。
び、美少女が裸の上に俺の服を……。な、なんてエロゲ―的なシチュエーションなんだ!
「それよりさぁ、これ食ってもいい? なあ、頼むよ~」
少女が甘えるような声を出しながら、上目遣いで俺を見つめてくる。
「ど、どうぞどうぞ! いくらでも食べちゃってください!!」
俺が四色チーズ牛丼の特盛り温玉付きを差し出すと、少女はニッコリ笑って受け取った。そのまま牛丼を食べ始める少女の姿を眺める。
うわ……美味しそうに食べるな……。幸せそうだし……。
「うめぇ……。うめぇよおぉ……。涙が止まらねぇ……。ぐず……ずず……ひっく……」
え……な、泣いてる……?
四色チーズ牛丼の特盛り温玉付きを食べただけで……? よっぽど腹が減ってたんだな……。
少女は泣きながらも、あっという間に完食してしまった。そして、満足げに息をつくと、こちらを向いてペロッと舌を出す。
あ……あざとかわいい……! 最高かよ!
「ごちそうさまでしたー! いやー、マジ美味かった! ありがとな!」
「ど、ど、どういたしまして……」
身を乗り出すようにして、俺の顔を覗き込んでくる少女に、思わずドギマギしてしまう。
うおお……近くで見ると美少女っぷりが半端ねぇ……。いい匂いがするし、唇はぷるっぷるだし、瞳の色が宝石みたいで綺麗だし、それに谷間が……谷間がエロ過ぎる!! いや、さっきもっと凄いものをガン見したけども!! これはまた別の趣があるというかなんというか……。
「それよりさー、お兄さん大学生? もしかして一人暮らしだったりする?」
「ひ、一人暮らしですけど……」
突然の質問に戸惑いながらも俺が答えると、少女は満面の笑みを浮かべた。
「おお! ちょうどよかったー。実はさー、今日泊まるところなくてさぁ。良かったら泊めてくれない? 牛丼のお礼もしたいしさ~」
「と、泊めっ!? お礼っ!? あばばばばばば……!?」
驚き過ぎて、言語能力がおかしくなる。
だが、少女はそれを肯定と捉えたらしく、嬉しそうに手を叩いた。
「よっしゃ! じゃあ早速行こうぜー」
「あ、あばばばば……」
震える手で会計を済ませるなり、少女はガシッと俺の腕を掴んだ。そして、引きずるようにして歩きだす。
「……いいなぁ。俺が奢ればよかったよぉ……。グスン……」
店員の男が寂しげに呟く声が聞こえたが、俺は少女に腕を引っ張られるまま、店を後にするのであった。
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明日からは毎日19時に更新します。
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