第七十二部
テーブルの上の料理を綺麗に平らげ、ゲオルグが大きなホールケーキを運んできた。
ホールケーキには火の灯った蝋燭が十本ほど刺さっており、その中心には三姉妹の名前を記したチョコレートの板が鎮座している。
明かりを消し、蝋燭の火だけがゆらゆらと儚げに七人の顔を照らす。
初めての儀式に戸惑う三人の肩をぎゅっと寄せ、エリカは俺たちに目配せした。
多分、一緒に歌ってほしいのだろう。
「これから歌を歌って、蝋燭の火を吹き消してもらうんだけど、その時心の中でお願い事をして。あっ、口に出したら駄目だからね。お願い事が叶わなくなっちゃうから」
「お願い事かぁ。どんなことでもいいんですか?」
「うん。特別な日にお願いするんだから、神様もきっと叶えてくれるよ」
「じゃあ、アイカはお菓子の雨が降ってきますようにってお願いしよ」
「アイカ、言っちゃ駄目。お願い事、叶わなくなる」
「あっ、それなら違うのにしなきゃ!」
「はい、それじゃ歌うからね」
エリカが歌い出し、俺とゲオルグも続いて歌い始める。
肘で小突くと、ソルシエルも嫌々といった様子で小さく口を動かす。
歌が終わり、三人は同時にふーっと息を吹きかけて火を消した。
そして、部屋が真っ暗になり、ささやかな沈黙が訪れた。
三人が何を願ったのかはわからない。
将来の夢や幸せを願ったのかもしれないし、子供らしく純粋で無垢な欲望を願ったのかもしれない。
いずれにしても、だ。
俺は三人の願いが叶うことを密かに祈った。
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