第六十八部

 魔女の宮殿から戻るなり、俺はソルシエルに見たものをこと細かく報告した。


 ソルシエルは少し驚いたような表情をしたが、やがて浅く息を吐いた。


「貴様にも見えたか、さすがは我が弟子だ。このような記憶の断片は、それなりに実力のある魔女にしか見えぬ。だが、まだ鮮明には見えておらぬようだな。精進することだ」


「はいはい、頑張りまーす。ってか、その口振りからしてお師匠様には魔女の姿がはっきり見えたってこと?」


「当然だ」


「知ってる魔女だった?」


「……まあな」


「え、誰? 正体は?」


「ふん、いつか言っただろう、我は傍観者だ。串刺しにされる運命から救ってやっただけありがたく思え。以降、この件に関して我は介入せぬ」


「ちぇー……ヒントもなし?」


「なしだ」


「……ケチ、頑固者」


「なんとでも言え。己の実力不足を呪うことだ」


 残念ながら、頼みの綱が切られるどころか下ろされることはなかった。


 なんとなく予想はしていたけど、振り出しに戻ってしまった。

 魔女の手がかりはゼロに等しい。

 今できることといったら、次の動きに備えることくらいか。


 恐らく魔女はスラム街の亡霊という傀儡を失い、新たな傀儡を生み出してこちらに差し向けるだろう。

 それも、以前より強力で厄介な刺客を。


 となれば、そいつを迎え撃つ気構えを改めなければならない。

 魔女相手に人間技でなんとかしようとするのは怠慢、出し惜しみをしていてはこちらがやられる。

 魔法には魔法をぶつけるしかない。


 魔法の修行に励むべく、俺は再び魔女の宮殿へと意識を没頭させた。

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