第29話 恋愛スペシャリスト(自称)

「やっほ、つくしくん」

「おはようございます、


 バイト先のコンビニに着いて早々、いつの日かみたく真由美さんが俺に手を振ってくれた。


「今日、一緒だったんですね」

「そうなの。なんか高校生の子が一人、今月から何故か来なくなっちゃってね〜」


 サボりか、あるいはやむを得ない事情があるのか。

 シフトを見ると、その人が入ってたらしい場所に穴がいくつかあった。


「まぁ? 私としてはありがたいけど?? どこかの誰かのお姉ちゃんが、バカみたいにお金を使わせてくるからね〜」

「……なんか、ウチの姉がすみません」

「いや? キミのお姉ちゃんとは一言も言ってないぞ??」


 だったらそのニヤニヤ顔やめてくれませんかね。

 それにウチの姉さんは昔からアクティブで、よく誰かをショッピングなどのお出かけに連れ回す人だからなぁ。

 真由美さん、心中お察しします。


「それでさ昨日、瞳美ひとみがね〜」


 仕事が始まってからも、真由美さんはずっと姉さんの話をしていた。

 まぁ無理もない。

 真由美さんと姉さんはシェアハウスをしているから、もはや家族みたいなものだろうし。


 ……まぁ、シェアハウスを始めてからは姉さんが俺に会いに来ることは減ったのだが。


 だってめちゃくちゃ遠いし。俺だってなかなか会いに行けない。


「そういえば、つくしくんの大好きな瞳美お姉ちゃんがキミのこと心配してたぞー?」

「別に大丈夫ですって伝えといてください」

「相変わらず冷めてるね〜。瞳美、毎日うるさいよ? 学校で上手くやれてるかな〜、お姉ちゃんがいなくて寂しくて、毎日泣いてるんじゃないかな〜って」

「……そんなわけないでしょ」


 最後に会ったのは、初めて彩乃に出会う前だったか。

 最近は多忙で、かつ遠くて会いに行けない姉さん。

 だけどかなり心配症なところがあって、『生存確認』と題してほぼ毎日ラインを送ってくるのだ。

 だから友達ができたこととか、一人暮らしも問題ない話はしてるんだけど。


「そういえば瞳美、つくしくんに友達ができた話を聞いて喜んでたけど。なんか男友達だと思ってるらしいよ?」

「まぁ、そうでしょうね」


 確かに友達ができた話は姉さんに伝えた。

 けれど文面には『友達』としか書いておらず、詳細は何も言ってない。言った覚えがない。

 だって姉さん、色々めんどくさいし。


「そういうことなんで真由美さん、くれぐれも彩乃のことは姉さんに話さないでくださいね」

「えっ? なんで?」

「知られたくないからですよ。姉さんのことだから、彩乃を見たら『絶対に彼女じゃん!!』って言いながら嘆くと思うんで」


 弟に彼女が出来たと分かった瞬間、号泣するからなぁ、あの人……。


「まぁ末期のブラコンだからねぇ〜。了解した!!」


 末期のブラコンとは……。

 姉さん、いつも真由美さんの前でどんな姿晒してるんだよ。


「あと瞳美、そろそろつくしくんと会わないと死ぬらしいから、帝徳祭見に行くらしいよ?」

「……わかりました。


 そう言って、俺は自分の仕事に取り掛かった。



 ○



「ところで真由美さん」


 仕事が落ち着いてすぐ、俺は真由美さんにある相談を持ちかけた。


「真由美さんって、彼氏いますか?」

「かっ、かかっ、……はぁぁ!!??」


 いや、聞き方間違えたか。


「えっ!? なに!? もしかしてつくしくん、アレなの!? 私のこと、アレなの!?」

「いや、なんかすみません……。そうじゃなくて……」


 赤面する真由美さんの気持ちが伝播でんぱしたのか、俺はやや恥ずかしげにコホンと咳払いした。


「……真由美さんみたいな美人さんだったら、異性と付き合ったり、デートっていうか、どこかへ一緒に出かけたこと、あるかなって……」


 一文字一文字に恥じらいを覚えながら、なんとかそれらを口に出したのも束の間。


「へぇー、あっ、ふーん。そういうことねー」


 なんだか真由美さんは、冷めた目でこちらを見ていた。


「ふーん、彩乃ちゃんとか──」

「ちっ、違います!!」

「へぇー、はぁー、ふーん??? デートなんだぁぁ??? てかどしたん? この前は『彼女じゃない』って真顔で否定してたくせに??」

「……だから、違いますって」


 くそっ、相談する相手を間違えた。

 ……まぁ、それはさておき。

 俺は改めて、話を本題に移した。


「彩乃への『恩返し』がしたいんですよ」

「それでデート?」

「デートっていうか。彩乃が喜ぶ場所に連れて行きたいなと思って」


 その言葉に「ふーん」と興味無さげに反応する真由美さん。

 彼女の興味は別の場所にあった。


「てか『恩返し』って何よ? 彩乃ちゃん、つくしくんに何したの?」

「なんか俺への『恩返し』って題して、一人暮らし不適合者の俺の世話というか。とにかく俺のために掃除してくれたり、料理してくれたり。今日なんかは俺の好きなケーキを買ってくれたりしたんですよ」

「何それ天使じゃん」


 まぁ天使と言えば聞こえは良いが、このまま彩乃に貰ってばかりで甘えるのは良くない。


「てか、彩乃ちゃんの言う『恩返し』って何よ?」

「まぁ、それはかくかくしかじか……。とにかく釣り合ってないんですよ。ギブアンドテイクの関係が!」


 思わず声が大きくなってしまった。

 そして俺の思いが嫌と言うほど伝わったのか、真由美は「分かった! 分かったから!!」と俺を制止した。


「それで、弟と違って? デートのプロである私にご教授願いたいと?」

「倫太郎と違ってデートのプロだってのは初耳ですが、詳しければ色々教えて頂きたいなと思いまして」


 俺がそう言うと、真由美さんはふんすと鼻息を鳴らした。


「それなら、弟と違って数多の異性と数多のデートを繰り返してきた恋愛スペシャリストの城田真由美お姉ちゃんに任せなさい!!」

「ありがとうございます」


 そう言う割には、さっきの反応は初心うぶに見えたような。

 しかも、あの倫太郎さえも見せないような反応だったような……。

 そんな思いを飲み込み、俺は新人さながらメモを取り出した。


「あっ、でもその前に。……あっ、あんまり異性に『彼氏がいるか』なんて、気軽に聞かないでよね……」


 いや、やっぱりこの恥じらいに塗れたこの仕草は初心のそれかもしれない。



【あとがき】

 真由美さん可愛いやったー! と思った方は☆評価、作品のフォローよろしくお願いしますっ!


 次回からは、デート(?)編ですっ。

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