第23話 大丈夫②
「それじゃあまた明日学校でな、大親友!」
がやがやが
俺は倫太郎を玄関で見送った。
「あと近日、帝徳祭の演劇チームのみんなで集まることになってるから。絶対に逃げんなよ?」
「……考えとく」
「ダメだ。絶対に来いよ!」
そう言い残し、倫太郎は俺の家を後にした。
さて、と。
「彩乃もそろそろ帰ろうか」
「えー!!」
「『えー!!』じゃない。何時だと思ってんだ」
「だってだって、まだ先輩とゲームしてないしっ!!」
「……そう、言われてもなぁ」
そういえばそうだった……。
とはいえもう彩乃を帰さなきゃいけない時間だ。
「そっ、それにまだ晩御飯がっ!!」
「うっ……」
そうか、彩乃をこの時間に帰すということは、実質晩飯抜きということに……!!
いやまぁ、今から適当に外食で済ませたらいいんだけど。でも彩乃のご飯が美味しすぎて、それじゃあ満足できないような……。
……って、何考えてんだ俺。
「ふふっ♪」
「彩乃?」
「あー、でもわたし今、晩御飯作る気になれないんですよね〜」
チラチラと俺を見ながら、ニヤニヤと彩乃が笑う。
「先輩が一緒にゲームしてくれないと〜、作る気になれないなぁ〜」
「ぐっ……」
コイツ、俺を
何か仕返ししてやりたいが、今は何も言い返せない。
「……じゃあ、一時間だけな」
「やったー!!」
根負けしたというか、逃げ場を失ったというか。
俺は諦めて、据え置きゲーム機のスイッチを入れた。
「おっ、先輩。いいもの持ってるじゃないですかぁ〜」
ニマニマしながら、とあるソフトを持ってきた彩乃。
世界中で有名なキャラクターたちがカートで爽快に疾走するレーシングゲームだ。
「やりたいのか?」
「やりたい、なんてもんじゃないですっ。『潰したい』んですよっ、先輩を
潰したい、とは。また物騒な言葉遣いを……。
公園で泣いていた時以来に聞いたが、今の彩乃は以前と違ってかなりご機嫌だ。
「ふっふっふっ……、驚かないでくださいよ? なんたってわたし、このゲームで日本一に──」
「そういうのは勝ってから言うんだな」
日本一だか何だか知らんが、気にせず俺はさっそくキャラとカートを選択した。
日本一を自称して弱い者イジメのつもりだか知らんが、
「……こっちこそ、潰してやる」
「ふんっ、望むところです!!」
3、2、1……、発進!
小さなカートと重厚なバギーが織り成す戦いは、すぐさま数多のレーサーを置いてきぼりにした。
そして──。
「まっ、参りました……」
俺は小さなカートで、全てのレースを終始先頭を走り続けて勝利した。
ちなみに彩乃は最高で二位だが、まさかの最下位で終わったレースもあった。
……日本一、とは。
「うぅっ……。こんなの運ゲーですよっ、運ゲー!」
「運も実力のうちだ。それに運ゲーなら俺はどうなる?」
「うぅっ……。先輩、強すぎる……」
「まぁ俺、世界一取ったことあるからな」
「んにゃっ!?」
「うそ」
「うぐぐぅ……。もう一回!!」
「……っはは、わかったよ」
それから俺たちは、いつの間にかご飯を食べるのを忘れるくらい熱中した。
○
「うぅっ……、ぐずっ……」
「おいおい、完膚なきまでに潰されて泣くなよ」
「たっ、玉ねぎで目が痛いんですっ!!」
熾烈な戦いに終止符が打たれ、今はトントンとまな板を叩く音が響いていた。
気付けば夜の11時。予定より2時間も多く遊んでしまった。
「そういえばこんな時間になったけど、親には怒られねぇの?」
彩乃は女の子だ。まだ女子高生一年目だ。
そう思うと、ふとそんなことを聞いていた。
「大丈夫ですっ。わたしも一人で暮らしてるんでっ」
「一人暮らし? 彩乃が?」
俺てっきり、ここが地元で、家族と実家で住んでると思ったんだが。
「あっ、一応先輩と違って、実家には住んでるんですよ? ただママが世界中を飛び回ってて忙しい人だから……」
「……なるほど」
実家暮らしだけど、親がいないというわけか。
「昔はばぁちゃんの家に住んでたんですけど、高校進学する前に他界しちゃって……。それで今はこんな感じに」
ということは夜遅くに帰っても、母親がそれを知らないからお
……いや、だからといって甘やかすわけにはいかない。
まぁ彩乃のことだから、明日も学校があるし、飯食ったら帰るだろう。
「はいっ、できました♪」
「おぉ……」
ということで俺は目の前の食事を堪能することを選んだ。
今日も洋食だが、メニューが多い。
大きなお皿一面にはサラダが盛られていて、オシャレな角皿にはサンドウィッチがあって──。
「──この丸いヤツは、ピザ?」
でもみじん切りしていた玉ねぎをピザなんかに使っているのはあまり知らないな。
しかしピザっぽいものには、生地にみじん切りした玉ねぎが練り込まれていた。
「あー、これはロスティーといって。スイスのお料理なんですっ」
「おぉ……」
まさか何の
きっと去年の俺なら想像できなかっただろうし、そもそもスイス料理が食べられるなんて発想にたどり着かないだろう。
「それじゃあ、いただきますっ!」
「いっ、いただきます!!」
自然と、今日一番の元気な声が出た気がした。
そして切り分けられたロスティーをフォークで取り、ゆっくりと口に運んだ。
「……んまっ!」
カリッとした、じゃがいもの揚げ生地食感。
噛む度に伝わる、シャキシャキな玉ねぎの
そのユニゾンが口の中で美味なるハーモニーに魅了されたからか、またも口から驚きの声が漏れていた。
「ふふっ、本当に美味しそうに食べるんですねっ♪」
「そりゃそうなるよ! だって彩乃の料理、美味いし!!」
料理が美味しい。
それを作った本人の前で言ったのは、昨日を除けば小学校の頃以来か?
あぁ、懐かしい……。
遠い実家で、父さんや母さん、姉さんと一緒にぬくぬく暮らしていた日々が懐かしい。
そう思わせるほどに、今日の目新しい料理にはノスタルジックな味がしたのだ。
「じゃあわたしも……、ん〜、うまぁ♡」
昨日と変わらず、彩乃も美味しそうに食べている。
そりゃそうだ。こんなの、誰が食べても美味しいに決まってる。
なんだかそれが誇らしくて笑みが
──ごろごろ……。
遠くから、空が崩れるような音が聞こえてきた。
「あれ? 雨なんか降る予報でしたっけ?」
「さぁ?」
呑気に、俺は答えた。
まぁ夏だからな。雨が突然降るのは不思議じゃない。
それにウチには傘がある。彩乃がそれを使ってくれれば簡単に帰れるだろう。
「うぅっ……、なんか、雷鳴ってますけど??」
しかし彩乃が、さっきからゴロゴロ鳴っている雷に身を震わせている。
そして──。
「きゃあああああ!!!!!!」
ズガンと大きな雷鳴が響いた瞬間、彩乃は金切り声をあげたのだ。
「彩乃!?」
「うぅっ……」
まるでライオンに遭遇した小動物みたいな彼女を見て、俺は
「うぅっ……」
「大丈夫。大丈夫だから」
ぎゅっと俺の服を掴む彩乃。その背中を俺は優しく
不機嫌な夜空から降り注ぐ、雨音と
それらが時間を追うごとに、どんどん強くなっていく。
……こりゃあ当分、帰れないな。
「ねぇ、先輩……」
「なんだ?」
弱々しい声で、彩乃が
「……その、シャワー、借りてもいいですかっ?」
【あとがき】
続きが気になると思った方は☆評価、作品のフォローよろしくお願いしますっ!
大丈夫ではなさそう(色々と)。
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