第9話 愚か者に罰を①

「ねぇ、星成せな


 とある男の部屋。そこのベッドで、男女が二人。

 そのうちの一人──西澤花蓮にしざわかれんが、妖艶な声でもう一方に身を寄せる。


「──もう一回、しよ♡」


 声の主は、身も心も彼にさらけ出している。

 ついに手に入った宝を前に、酔狂しているのだ。

 かっこよくて、勉強も運動もできて、自分と違って敵がいなくて。

 ちょっとナルシストなところがたまきずなのに、完璧な男の子。

 

 そんな彼を求めたのは、中学の頃。

 才色兼備の名をほしいままにしていた頃だった。


 ──すげぇ! 今回の期末、また西澤さんが一位だってよ!

 ──西澤さんって本当にすげぇよな。勉強も運動もできて、しかもめちゃくちゃ美人だし。

 ──いやいや、西澤さんと言えば女神のような優しさだろ!? あの人、陰キャ陽キャ関係なく誰にも優しくしてくれるし!!


 物心ついた時から花蓮は、とにかく多くの男子から羨望の眼差しを向けられていた。

 もちろん、多くの男子から告白されたことも。

 ただ、彼女に好印象を抱いていたのは、男子だけだった。


 ──ねぇ、聞いた? アイツ、また三年の先輩に告白されたんだって?

 ──知ってる。しかも相手って、サッカー部のエースでしょ? ホント、ムカつく。

 ──ホントそれ。調子乗りすぎ。


 女子から向けられるのは、冷ややかな言葉ばかり。視線もどこか冷たく、羨望の『せ』の文字もなかった。

 調子乗りすぎ? そんなこと知るか。

 自分はただ、理想と合わないからフッてるだけなのに。


 ──ねぇ、それよりテストの順位見た!? 一条くん、今回も同率の学年一位だったって!!

 ──うそっ!?

 ──一条いちじょう先輩ってホントすごいよね!? 

 ──勉強も運動もできて、おまけにカッコイイし♡


 それに比べて、彼は花蓮と違った。

 学校でいちばん有名な、イケメンな人気者。

 クラスの中心でいつも、一際輝く一等星。


 ──いやぁ、さすが一条。アイツには適わねぇよ。

 ──それな。嫉妬するのが烏滸おこがましいというか、もう尊敬しちゃうよな?


 そんな彼は、花蓮と違って同性からも羨望の眼差しを向けられていた。

 ……いや、諦念ていねんが近いだろうか。

 花蓮と違って、完璧すぎるからだろう。


 だから花蓮も願ってしまったのだ。

 ──完璧になりたい、と。


 ──だったら、私が一条星成と付き合うことができれば。


 完璧になれる。嫉妬するのも烏滸がましいほどの、高嶺の花になれる。

 しかももし、そんな自分たちが結婚して子どもが出来ようものなら、どうなることか?

 そう思うと、笑みが止まらなかった。


 だけど、彼の前にはいつも邪魔な奴がいた。

 彼と違って日陰者。認知されているのかも怪しい空気。

 それなのに、彼にやたらと付きまとう女だった。


 ──なんなのアイツ。すみっこでウジウジしてる陰キャのくせに。勉強も運動もできないくせに。


 どうして彼の前に現れるのだ。どうして彼に付きまとうのだ。

 邪悪な思いが、花蓮の心を黒に染め上げる。


 ──まぁ、邪魔な奴には罰を与えるのが一番よね。


 宝に触れる愚か者に、相応しい罰を。

 そう思った花蓮は、早速行動に出た。

 評判通りの優しさで、独りの彼女に接触。

 結果はもちろん良好だった。

 それはもう、順調すぎるくらいに。

 自分が初めてできた友達だと聞いた瞬間は、思わず吹き出してしまった。


 ──なぁ、僕たち付き合わないか?


 そして、神は花蓮に味方した。

 高校進学を前に突然呼び出した彼が、花蓮に告白してきたのだ。


 ──どういう風の吹き回し?

 ──当然の結果だ。成績優秀、運動神経抜群の才媛。そんなお前と僕が付き合う。最高だと思わないか?

 ──えぇ、その通りね。


 だけど、すんなり引き受けては面白くない。


 ──でもその代わり、私の頼みを聞いてくれない?


 だから花蓮は、彼を利用することにした。

 彼の幼馴染を自称する女に、相応の罰を与えるために。


 ──あぁ、いいぞ。僕もちょうど、アイツがだと思ってたんだ。


 彼の返事は、『Yes』だった。

 そして計画は上手くいき、愚か者は絶望の淵に落ちた。


 これで、一条星成は我がモノに。

 これで自分は、彼のモノに。


 だがしかし、神は彼らを祝福しなかった。

 まさか、に人生を狂わされるなんて。




【あとがき】

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……さて、今後はどうなるのやら。

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