第7話 半ば密室で、二人きり②
「…………」
「…………」
半ば密室で、少女と二人きり。
されど有るのは、二つ
「…………」
「…………」
半ば密室で、少女と二人きり。
されど響くのは、ぺらりとページをめくる音だけ。
ナニかが起こりそうなこの空間は、ただの図書館も同然だった。
(……足、伸ばしたいな)
ただ普通の図書館と違うのは、
柔らかいクッションマットが敷き詰められた、快適なフルフラットルーム。
しかしここは明らかに二人分のスペースがあるとは思えない場所で、俺は足を折り曲げざるを得なかった。
(でも俺が足を伸ばしたら、彩乃の足に当たるからな……)
何も言わずに足を伸ばす彩乃。
スカートの彼女に足を曲げられるよりはマシだが、おかげでスペースの大半が占領されている。
「あっ、先輩も足伸ばします?」
しかし次の瞬間、彩乃も足を曲げて体育座りをした。
案の定、短いスカートの中からは
「……いや、いい」
さすがに俺は目を逸らし、彼女の気遣いに『No』と答えた。
「そういえば彩乃って、少女漫画は読まないんだな」
見たことのある有名な少年漫画や、背にびっしりとタイトルの詰められた作品など、全部で十冊程度か。
積み上げられた漫画のラインナップを見て、俺はそう思った。
「別に今日は読んでないだけで、いつもはかなり読んでますよ?」
「そっか」
「もちろん、少女漫画みたいな恋もしたいな〜って思ってますよ?」
少し照れ笑いを浮かべる彩乃が、つらつらと少女漫画の魅力を語る。
「何かがきっかけで王子様と出会って〜。壁ドンされたり耳元で甘く
「分かった。とりあえずこれ飲んで落ち着け」
しかし後半からどす黒いオーラを放ち始めたので、俺は例の知的飲料を手渡した。
「先輩も読んでみます?」
「は? なんで?」
「だって先輩も、わたしみたいに恋愛経験乏しそうだし」
「うるさい」
彼女はそう言うが、そんなフィクションを読んで経験値が
……とはいえ、ちょっと興味あるかも。
「……オススメとかないの?」
俺がそう言うと、パッチリと目を輝かせた彩乃。
「おぉ、まさか本当に食いつくとは! ちょっと待ってくださいね!」
自分の好きなものに興味を持ってもらったことが嬉しいのか。
それとも友達と自分の好きなものを共有できるのが楽しみなのか。
跳ねるような声と足取りで部屋を出た彩乃は、早速大量の漫画を持ってきた。
しかも、さっき積んでいた本より多い。
「まずはこれとかどうですか!? 転校した初恋男子と高校で再会する作品で、アニメも実写映画もあるんですけど、どっちもめちゃくちゃ胸がキュンキュンするんですよ!! それに──」
早速、好きな作品の魅力を早口で語る彩乃。
「あっ、これとかどうですか? 失恋した主人公がゲームで男の子と出会うところから始まる作品なんですけど! その子が主人公より歳下なのに、先輩みたいに落ち着いててクールで……っていうか、色々と先輩と似てるような気がするというか──」
その表情は
その声は海ではしゃぐ子どもみたいに弾けていて。
昨日まで一ヶ月も泣いていたのが嘘みたいだ。
「そしてこれ! 恋愛漫画のギネス記録! この作品はとにかく主人公と男の子の関係とかやり取りが全部尊くて──」
ただ一つ問題があるとすれば──近すぎる。
少女漫画について語っている彩乃と、ずっと肩が触れ合っているのだ。
おまけに髪が揺れる度、爽やかなシャンプーの香りが鼻腔を
たぶんコイツ、我に返ったら恥ずかしさのあまりに絶叫しそうだな。
「……あっ、すみません」
そして我に返ったのか、やや赤面する彩乃。
「……そのっ、友達にしては、近すぎましたよね?」
だけどすぐに見せた表情は、申し訳なさの中に寂しさを孕んでいて、
「別に、いいぞ。気にしてないし……」
だから俺は、苦し紛れに嘘をついた。
ただ、久しぶりの異性との接触に戸惑っているだけ。
ただそれ以上に、胸に染みる温もりがちょっぴり
「……えへへ、ありがとうございますっ」
半ば密室で、少女と二人きり。
だけど傷心した友達を癒すためならばと思うと、そんなちっぽけなことは
【あとがき】
続きが気になると思った方は☆評価、作品のフォローよろしくお願いしますっ!
次回は完全な密室で二人きり? らしいです。
ちなみに健全です。
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