第6話 半ば密室で、二人きり①

「ここは?」

「えっと、ネットカフェですっ……」


 学校から歩いて徒歩数分。

 俺たちは『快適クラブ』と書かれた大きな看板の前に立っていた。


「ネットカフェにしては、大きいのな」


 だってネットカフェって、漫画とPCが主にあるだけの場所だろ?

 それにしては、隣の焼肉店と同じくらい、いや、それよりも大きく見えた。


「ここ、カラオケやダーツ、ビリヤードもできるんですよ。……まぁ、わたしには無縁なんですけどねぇ」


 えへへと頬を掻く彩乃。


「あっ、でも一人ですけどっ! ダーツやビリヤードはやったことあるんですよ!」

「えっ、そっち?」


 なんでそのチョイスなんだ!?

 一人でやるとして、せめて普通は『カラオケ』を選ぶだろ……。



 ○



「フラットの席、お取りしました〜」


 彩乃と店員の慣れたやり取りを見ていると、いつの間にかそれが終わっていた。

 そして手元には、いつの間にか作らされていた会員カードが。

 会費は無料だが、これを持っていないと店を利用できないらしい。


「先輩って、クールな割には可愛いもの飲むんですね」

「ほっとけ」


 言いながら、俺はドリンクバーでオレンジジュースを注いだ。

 グラスに入った氷は隣の機器で入れたのだが、しゃらしゃらと鳴る音は夏の暑さを忘れさせるような、涼しく心地良いものだった。


「ふんふんふ〜ん♪」


 対する彩乃のグラスには、コーラのようなエナジードリンクのような……、JKが手に取るには珍しいものが注がれていた。


「そっちはイカついもの飲むんだな」

「何言ってるんですか。選ばれし者にのみ許される知的飲料ですよっ!」


 なるほど。響きがバカっぽいな。


「てか、ソフトクリームも作れるのな」

「先輩って本当に可愛いもの食べるんですね」


 うるせぇ、というツッコミを飲み込み、俺は慣れた手つきでガラスの器にソフトクリームを巻く。

 イチゴのソースが目についたが、またも何か言われるとしゃくなので、何もかけずにスプーンを手に取った。


「えっ……」


 部屋に着いた瞬間、俺は思わず唖然とした。

 案内されたのは、柔らかなクッションマットが敷き詰められた、快適に寛げそうな空間で。

 しかし壁で仕切られているだけとはいえ、半ば密室のような場所だった。


「どうしたんですか?」

「あぁ、いや……。別に……」


 とはいえ、せっかく色々やってくれた彼女に文句を言うのは違う。

 俺は口をつぐんだが、彩乃も今ある状況に気付いたのか、「あっ」と小さく声を上げて赤面した。


「そっ、そのっ、違うんです! いっ、いつもと同じ場所を取ってしまったというか……。はぅぅぅ……」

「いや、すまん。俺も指摘が遅れたから……」


 とはいえ、知り合ってばかりの女の子と半ば密室で二人きりというのはまずい。


「……じゃあ、部屋、変えるか?」


 というわけで、俺は然るべき提案をした。


「……いえ。そのままで、大丈夫ですっ」


 彼女の返事は、『No』だった。



【あとがき】

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ネットカフェはいいぞ。

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