第5話 大親友(自称)

「えぇー!? 大親友のれを差し置いて、他に友達を作っただとー!?」


 相談する相手を間違えた。

 そう思ったのは、教室に入ってすぐの朝。

 俺の前で愕然する巨漢メガネを見た瞬間だった。


「相手は!? どんな男なんだ!? えっ!?」

「……痛い。首、もげる……」

「くそっ! くそっ! 大親友の漏れじゃ不満だと言うのか!?」

「……別にっ、親友なんかじゃ……」


 俺の肩を乱暴に揺らすのは、隣の席の城田倫太郎しろたりんたろう

 100キロを超える体重と銀縁メガネがトレードマークの男で、『漏れ』という謎の一人称と『ぽまえ』という意味不明な二人称で話すなど、とにかくキャラの濃いクラスメイトだ。


「あーあ。漏れ、大親友と嫁のために部活頑張ろうと思ったのに。今年こそは本気出して、甲子園にぽまえと『りぃたそ☆』を連れて行こうと思ったのにぃ〜」

「知るか。そんなの」


 てかこの男、アレで本気じゃないというのか?

 一年から160キロのストレートを投げるプロ注目の右腕なのに? ホームランまで量産できる二刀流なのに?


「あっ、ちなみに『りぃたそ☆』は漏れの嫁ね? 明日、12歳の誕生日なんだ!」

「知るか。どうせ一生12歳だろ」


 だってそれ、二次元だし。


「ふっふっふっ……。まぁいいさ。ぽまえに友達ができるくらい。むしろ大親友の漏れにとっては大変喜ばし……って、あのっ、そのっ、漏れを赤ちゃんみたいに抱き上げるのやめてくんない?」

「いいから、質問に答えろ」

「……あっ、周りからの羞恥の視線に晒されながらの赤ちゃんプレイ。……いいっ♡」

「キモっ」

「あいだっ! おいっ、急に離すなよ!!」


 俺の大親友を自称するものだから、友達という存在に詳しいものかと思ったが……。

 友達とはどういうことをすべきか? という問いに一向に答えない彼を差し置き、俺は教室を後にした。



 ○



「どうも」

「……どうもっ」


 放課後に学校の最寄り駅で待ち合わせましょう。

 昨夜に約束した通りに動いた俺と彩乃は、その場で軽く挨拶した。


「なんで、駅なんだ?」

「えっと、その、……陰キャのわたしが先輩と一緒に居るのを見られると良くないっていうか」

「……はぁ」


 だから学校から少し離れた場所で待ち合わせ、か。

 フィクションで陰キャの主人公が異性と一緒に居ると周りから睨まれる話は、城田倫太郎からよく聞いたものだ。

 しかしそんなことが現実で起こりうるとは。


「女子ってそういうところあるから怖いんですよね〜」


 なるほど、女子って怖いな。


「……さて、今日はどうしましょうか」


 案の定、今日は無策な彩乃。

 しかしこれは想定内だ。


「何でもいいぞ。彩乃のやりたいことなら、何でも付き合う予定だ」


 大親友を自称する城田倫太郎から受け取ったそのアドバイスを、俺はいきなり実践しようと試みた。


「わたしのやりたいことに付き合う、ですか?」

「あぁ。そうするのが友達として効果的らしい」

「友達として効果的って……。先輩、冷めてますね」

「よく言われる」


 特に城田倫太郎や姉さんには『アンドロイドみたい』と、耳にタコができるくらい言われたものだ。


「でも『やりたいことに付き合う』って言われてもなぁ。どうしようかなぁ……」


 う〜んと、腕を組みながら悩む彩乃。

 よく見ると小動物みたいで可愛らしいが、寄せられた胸が小動物のそれじゃない。

 ……って、何を見てるんだ俺は。


「──ひゃっ」

「彩乃?」


 突然、彼女が隠れるように俺の背後にへ駆け出した。

 何事かと思い辺りを見渡すと、テレビで見るアイドルみたく顔立ちの整った男子生徒が目に見えた。

 彼は友人と談笑しながらも、周りからの黄色い声援に手を振っている。本当にアイドルみたいだ。


(……なるほど)


 後ろで俺の裾を掴む彼女の手が震えている。

 察するに、彼が例の幼馴染なのだろう。


「もう大丈夫だぞ」

「うぅっ……、すみません」

「気にすんな。いつでも頼ってくれ」

「……えへへ。そうします」


 そう言うと、彩乃は頬を赤くしてはにかんだ。


「なんか今の言葉、友達っぽくて嬉しかったですっ」


 なるほど、友達というのはそういうものなのか。


【あとがき】

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次回も、次々回も、甘々。

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