第12話 クイズ人狼 ペンタグラム(後編)
ここまでまなつ先輩、服部先輩、エリカが1失点ずつ。私は無傷で切り抜けてきたことになるが、ここから反撃が始まった。まず日向さんが流行りのファッションに関する問題を選択し、私とまなつ先輩が不正解を見抜かれた。さらに服部先輩もペンタゴン宣言を受けるが、こちらは正解しており日向さんが失点した。
「お前ら知らないのか。仕事ばっかりか?俺は女性の素行調査もするから、その時に知らないと不便だからこの手のことは詳しいつもりだ」
次の出題者、まなつ先輩が今度は食べ物に関する問題を選択、不運にも都内の今流行のケーキ屋に関する新商品に関する出題で、地方在住の私は手も足も出なかった。
「ふふん、まだ私のバトルフェイズは終了してないぜ!」
とはいえこれは難問だったようで、エリカも不正解を的中させられた。これで私とまなつ先輩、エリカが2失点、服部先輩と日向さんが1失点という状況で服部先輩の出題を迎えた。
ここが正念場だ。この問題を切り抜ければ再び私に出題が回る。このクイズは出題者がある程度問題のジャンルと難易度をコントロール出来るため主導権を握りやすい。なんとか切り抜けなければ。
「どうも楠本は都会のトレンドに詳しくなさそうだが、どうもそっち系の問題はネタ切れのようだな」
そう呟きつつ服部先輩は画面をタップした。
「1クラス40人の教室において、同じ誕生日のペアが1組以上存在する確率はおよそ何%か。次のうちから選べ」
1. 10%
2. 30%
3. 50%
4. 70%
5. 90%
私は心の中で一息ついた。これは『5. 90%』が正解で間違いない。その確率が多くの人の抱く直感より高いことから『誕生日のパラドックス』と呼ばれる問題だ。問題は他の3人が解っているかどうか。解っていると読んだ場合、服部先輩の『SAVE』宣言を読んでわざと間違いを書く『SAVE崩し』も選択肢に入る。
まっとうに正解を書くか、わざと間違えるか……私は3秒だけ考え、意を決して番号を選択した。
――全員が回答したところで私はまなつ先輩に問いかける。
「IRIS所属ライバーの中に、同じ誕生日のペアは居たでしょうか?」
「居ないよ。ウチには現時点で79人のライバーが在籍してるけど誰も被ってない。あくまで設定上で人が決めた誕生日だから、敢えて被らないようにしてるかもしれないけど」
「設定とか言わないでくれますか?リスナーさんが聞くんですけど。編集でカットする運営の身にでもなったらどうですか。—―それにしても意外ですね。1組も居ないなんて」
さらっと全員の誕生日を把握しているまなつ先輩と、鋭いツッコミを入れるエリカ。私はまなつ先輩が正しい答えを知っていると確信しほくそ笑んだ。彼女の補足の仕方は、『本来なら誕生日が被るのが普通である』と彼女が認識していると考えるべきだ。エリカも知っていそうな反応だ。
服部先輩は私の表情を見た後、今度はまなつ先輩に向き直り宣言した。
「まなつ先輩にペンタグラム」
――「1」
「藤原まなつさんが不正解!ここで脱落です!」
「そんな……!」
まなつ先輩の沈んだ表情に私は虚を突かれた。本当に知らなかったのか?それとも「SAVE崩し」か?自分の中で答えを出す前に静寂は再び破られた。
「楠本にペンタグラム」
私は左隣を向いた。映るのは自信に満ちた服部先輩の顔。私は観念した表情で次の言葉を待った。
「要するに二人とも『SAVE崩し』を狙っていたってことだろう!さっきの会話は答えを知っていることをアピールして俺の『SAVE』を誘うためのもの。楠本は上手く行ったと思ってあの笑みが出てしまったということだ。油断したな!――さあ、お前のわざと間違えた哀れな回答を見守ろうじゃないか」
全員がスクリーンを固唾を飲んで見守る。
――「5」
「何だと……?」
服部先輩はそれだけ言って呆然としていた。私はふふっと笑い、自分の狙いを説明する。
「確かに私は答えを知っていることを先輩にアピールしました。ですが、あなたは先ほど真っ先に『SAVE崩し』をエリカに仕掛けた。そんなあなたならまず私の笑みを見れば『SAVE崩し』を読んでくるはずだと、そう確信して正解をそのまま書いたんですよ」
「まさか、あの表情は演技か……?」
「これでも役者だったもので。でも、まなつ先輩が『SAVE崩し』を狙っていたとは思っていませんでした。ですからまなつ先輩の答えに驚いたのは本当です」
これに関しては運も味方していた。結果的に彼女の動きには私は本当に驚くことになり、その直前の表情の信憑性が高まることになったのだから。
「これは……完敗だな……」
これで糸が切れたのか、続いて回ってきた私の出題において服部先輩は不正解となりあっさり退場、エリカも不正解となり私と日向さんが決勝進出となった。
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