褒めるのが好きだった
ぐらにゅー島
誰か僕を見て
「人を褒めるのが好きなんだ」
そう言って僕は笑った。それは、君が僕に「辛い」とSOSを出してくれたから。だから僕が好きな君の知らない君のことを、僕は君に伝えたのだ。電車の中、入口の前の端っこで壁にもたれ掛かろうとして、辞める。君は不思議そうな顔をした。夏休みは長くて孤独で辛かった。一人の戦いと言われる受験生は、誰よりも一人だった。
「うん、ありがと」
そして少し元気になったようで君も笑う。窓の外から太陽が顔を覗かせているのに、クーラーが効いた車内は少し肌寒くて鳥肌が立ちそうだった。
「これ、なんの時間?」
照れくさそうに君は顔を僕から背けた。
「えっと、君を褒めるための時間だよ。そんな日がたまにはあってもいいと思ってさ」
ガタンゴトンと揺られる中で、僕らは笑いあった。外の太陽の日差しが眩しくて、まるで違う世界に来てしまったようだった。
「優しいね」
君は笑う。僕の言葉で救われて、笑う。だから僕もほほえみ返すのだ。別に君の笑顔が見たいから褒めたのではないのかもしれない。きっと、僕は僕のことも褒めてほしかったのだ。
誰も僕のことなんて見てくれない。だから、見てほしくて必死になる。もがいてもがいて、それでもたどり着けずに回っていく。僕は純粋な優しさに見せかけて、自分勝手な理論しか建てられない。
「君が自分を認められなくてもさ、僕がその分君を認めるから」
僕の口は、また僕が欲しい言葉を吐く。偽りの優しさしか無いのに、きっと君はそれに縋り付く。
「ありがとう」
その言葉が、罪だった。
褒めるのが好きだった ぐらにゅー島 @guranyu-to-
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