第2話 知らない杏璃
泉香「なんで、、」
先生が扉を開けて入ってきたせいで会話が終わってしまった。1年生の頃学校にほとんど来てなかったような奴がなんで杏璃と私が友達なことを知ってるの?それに杏璃って呼んで、仲がいいの?結局答えは出ないまま、始業式だけだったため学校もすぐに終わってしまった。
結局今私は杏璃と楓と3人で帰っている。この状況が歪で少し嫌に感じるようになったのはいつからだったのか。私が楓を好きになってしまった時?楓が杏璃を好きだと気づいた時?違う。きっとあの杏璃を見てからだ。今日はあの男と話してからよくあの杏璃の姿が思い浮かんでしまう。
高校1年生の時、杏璃があまり素行の良くない先輩とつるんでいるという噂が流れていた時があった。私は見かけたことなんてなかったし、そんな噂なんて別に信じてもいなかった。ある日楓は部活があって、杏璃からも今日は友達と帰るからと言われて一人で帰ることになった日があった。その日、杏璃がその先輩と放課後に教室に入っていく所を見た。揉めている様子だったから心配になって二人が入って行った教室を覗いた。すると杏璃から先輩に寄って行ってキスをした。杏璃は先輩の頭と背中に手をまわして、長く深いキスをしていた。それから杏璃は先輩の体を離して少し火照った泣きそうな顔で先輩を見つめた。
杏璃「まだ私から離れたい?」
先輩「そんな言い方するなよ。元々付き合ってたわけじゃないんだ。そろそろ終わらせる時期だろ」
杏璃「でも私のこと1番好きって言ってくれたじゃん。今はもう他に1番がいるの?その子とももうこんなキスしてるの?もう私じゃなくてもいいの?」
先輩「今本命がいるのは確かだけど最初からお互い本気じゃなかっただろ。1番好きって言ったのも俺は覚えてないし、こういうことやめて杏璃も一人に絞った方がいいんじゃないか?とにかく、もう俺のことは手放してくれよ」
杏璃「聞くんじゃなかったそんなこと、好きな人がいてもいなくても一緒だもんね。悲しいな。私は1番って言われたことちゃーんと覚えてるのに。少し辛そうに汗を垂らしながら私の耳元で言ってくれたじゃん。
こんな風に」
杏璃が耳元で囁きながら先輩の下腹部を触っているのが見えた。先輩は赤面しながら杏璃を手で遠ざけたが杏璃は笑顔でそのまま続けた。
杏璃「手放すなんて有り得ないよ。それに私、寂しがり屋なんだよ。一人で私のこと幸せに出来る人なんてきっといない。私に孤独を感じさせないで」
先輩「そこまでだとは思ってなかったな。幸せにしてくれる奴見つかるといいな。俺には無理そうだよ。じゃあな」
先輩はもう杏璃に何も言わせないようにすぐに教室を出て行った。私は教室から出て来た先輩と目が合ってしまったが、すぐにその場を立ち去りたかったのか何も言わず帰って行った。教室の中で杏璃は笑っていた。でもそれはいつもの可愛らしい笑顔じゃない。歪でどこか魅力的な笑顔。これは愛に、欲に溺れている顔なのか、初めて杏璃の女の顔を見た気がした。
楓「おい、どうした?」
泉香「わっ、ごめん。考え事してた」
私の好きな人はとんでもないビッチに騙されてるんじゃないかって頭がいっぱいなんだ。
楓「最近なんか心ここにあらずって感じだよな。特に今日はひどいぞ。体調悪いか?」
杏璃「確かにね。大丈夫?」
大丈夫なわけない。楓と杏璃もそういう関係なの?これからだとしたら楓が杏璃の本命になれる可能性はあるの?なんてそんなこと言えるわけがなくて
泉香「うん、大丈夫。なんか最近調子悪くて、ごめんね あのさ、これから私一緒に登下校するのやめるね」
今日は本当におかしい。普段はこんなこと絶対に言わないのに。
杏璃「え?どうして?他の子と約束してる?」
泉香「うん。そうなんだよね」
咄嗟に嘘で返してしまった。そんな友達なんていないのに。
杏璃「そっか!新しい友達出来たみたいでよかった」
楓「泉香にそんな友達が出来るなんてな!寂しくなるなぁ」
本当は寂しくなんてないくせにきっと私がいなくても二人は仲良く帰るんだろう。いやきっと私がいない方が仲良く帰れるのかもしれない。この三人の関係が歪に感じてしまうのは私が邪魔をしてしまっているからなんだ。あんな杏璃を知ってしまっても二人の関係を応援しているのは私が楓よりも杏璃を大切に思っているっていうことなのか。楓に幸せになって欲しいなんて思ってないのか。これ以上考えたら私の中のクズが暴れだしちゃう気がして自分はただ二人の幸せを願う悲劇のヒロインだと思うようにして考えをまとめたつもりになった。
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