勇者になりたかった男 5

「そんな奴がいたのか」


数年前に請け負った冒険者がちょうどそんなバカをしでかした。Fランクでは受注できない依頼であったから、冒険者ギルドとしては受注を認めず、警告もした。一応、私も言った。


それでもドラゴンの住む山に訪れ、まんまと返り討ちにあったというわけだ。


そんな話をしながら、ゴブリンがたむろしていると依頼があった洞窟へと着く。


「こんなところを根城にしてんのか」


「魔物の中でも最弱とも言える生物ですからね。こういう場所でないと存在を許されていないんですよ」


もしくは森の中などの天敵の少ない場所。そこに奴らはいることが多い。


洞窟の前ではゴブリンが2匹ほど何やら揉めているようだった。何が原因で揉めているかは見当

も付かないが、都合はいい。


「それでは、隙だらけですし、やってみたらどうです?」


「それじゃあ行ってくる」


いつまでも終わらない喧嘩は徐々にヒートアップしていき、既に地面に倒し倒されの組み合いにまだ発展していた。


この調子であれば、まず間違いなく失敗はない。装備も安いものではあるが、シルフィードで一式買い揃えてある。


片手で持てるショートソードに丸い木の盾。全身鎧なんかは高いので胸当てとブーツ。占めて銀貨数枚で買い揃えた。


彼は刀に憧れを覚えていたようだが、その金額を見て諦めていた。まぁ、自分でお金を貯めて買う分には止める気はしないが。


背後から忍び寄るようにして2匹のゴブリンに近づいた彼は意外と思い切りが良かった。


上に跨り拳を振りかざしていたゴブリンと下のゴブリンを押さえつけるように背中に足で踏みつけ、身動きを取れないようにする。


その後、安物の剣を首元に突き刺す。刺しては抜き、頭に刺す。刺しては抜き、胸にも刺す。


その一連の流れを何回か繰り返すようであったので、流石に声をかける。


「流石に死んでいますよ。そのくらいでいいでしょう」


背後から声を掛けたのが不味かった。


瞬時に振り向いた彼は私に襲いかかってきた。


「興奮しすぎでしょう?」


目はかっぴらかれ、口からは涎も少し出ているようだ。まさに目の前が見えていない。バーサーカーとも言える。


しかし、それはそれ。異世界に転移してきたばかりの彼に私が負ける道理はない。


勢いつけて振られた剣の横振りを軽くいなし、足を引っ掛け、突っ込んだ勢いを利用して、転ばせる。転ばされることを一ミリも考えていないために受け身も取れずに派手に転んだ。


石やら何やら転がっている場所でなくて、よかったなと、口には出さない。


「目、覚めましたか?」


「あぁ、悪かったな。思ったより興奮してしまったようで」


「まぁ、大丈夫ですよ。気をつけた方がいいとは思いますけど」


一応その癖を治した方がいいことを伝えて、彼も分かったと返事をする。


ゴブリンの討伐した証はその特徴的に尖った耳である。どちらの耳でも構わないが、慣習的には右耳を取ることになっているので、右耳を切り取らせ、洞窟の中へと足を進めた。






















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