勇者になりたかった男 4

 木造の冒険者ギルドは酒場と併設されていることもあり、夜になると大分騒がしい。


 しかし、まだ昼過ぎ。この時間帯であれば、そこまで多くの人はいない。精々が飲んだくれや逸れ者。ろくでもない男たちが多い。


「何というかイメージ通りで助かるよ。ちょっかいをかけられるのは勘弁だけど」


 だが、残念ながらそうもいかない。如何にもな新入りと新人らしくはない私。今の私は、茶色の髪に水色の瞳の美人と言われる部類の見た目である。そんな私に対して何かしら言ってくるのがよくいるのだ。


「そんなヘニョっとした野郎よりも、俺たちと一緒に冒険しようぜぇ?」


 酒をふんだんに飲んだであろう口がそんな常套句を使うわけだが、経験上は無視をするのが一番楽である。


 そのまま引き下がれば良し。


「なぁ、兄ちゃんもそう思うだろ。俺にはとても勿体無いってなぁ」


 しつこいようであれば、腕の一本を捻り上げてやればいい。


 少ないとはいえ、ギルドの目がある中だ。そうそう此方のせいにはならない。


「強そうな感じはしてたが、ちゃんと強いんだな」


 彼も私の実力が気になってはいたんだろう。私がシルフィードまで来る間に彼のスピードについていけてる時点で、ある程度は予想していたのだろうが。


 私の場合はギフトの影響もあるが、単に肉体性能の違いもある。


 見た目では分からないだろうが、これで常人の何倍もの力を出せる程には力はある。


 そのまま彼を受付に並ぶように促す。彼が可愛い系の受付嬢のいる方に向かっていったのを見届け、依頼書が張り出されている掲示板へと足を運ぶ。


 流石にこの時間となると常設の依頼や誰もやりたがらない雑用系の依頼ばかりである。例えば、スライムやゴブリンの討伐。迷い猫の捜索。そして世界樹の探索。


 もっとも駆け出しの彼にはこの程度の依頼でなければ受けることは出来ない。建前上はどんな冒険者もFランクからスタートし、Sランクまで上り詰めることが出来れば、世界でも知られるレベルになることが出来る。


 例外的にSランクの上も存在するが、片手で数えられるほどしかいない。正直彼にその高みは無理だろう。数々の異世界人を見てきたから、何となくであればその辺を予想できる。


 彼が戻ってきた。案の定、Fランクのタグを首から下げている。そのタイミングによって使われる金属は違うが、今回は銅であったらしく、まだ錆びていない明るい茶色をしている。


 鉄や銀などその時に多く掘られている金属が使われるため、偽装も簡単だと思われるが、実際にはギルドで特殊な加工をしているので偽装は出来ない。


 しかし、特殊な機械に通さないと行けないので、関所越えはともかく、町に入るくらいであれば、偽装でも問題ない。


 閑話休題。


 依頼書をしばらく眺めていた彼は、一枚の紙を指差し、私に訊ねる。


「ゴブリンとスライムは最弱の魔物ってことでいいのか?」


「少なくとも駆け出しの冒険者でもよっぽどのことが無ければ、一対一では負けないでしょうね」


「そこまで言われると、逆に怖いな」


「まぁ、大丈夫でしょう。一応、駆け出しのレベルはとうに過ぎていますし」


 ここに来るまでの体力もそうだ。確かに戦闘訓練を行なっていない異世界人だが、問題ないはずだ。それこそ、大人ほどの筋力があれば、負けはない。


「よし、じゃあこのゴブリン退治にしよう」


「まぁ、いいんじゃないですか。初めからドラゴンに挑むバカよりは」

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