勇者になりたかった男 2

 率直な話。男の体力は尋常ではないほどであった。彼のギフトによるものだ。彼がステータス画面を開いた際に盗み見ているので間違い無いだろう。


 ステータスは念じれば宙に浮くようにして見ることが出来る。しかし、他人は基本的には見ることが出来ない。見ることの出来るギフトもあるが、宙に浮かんでいる状態でしか見ることが出来ないのでハズレの類だ。


 それでも自分のステータス画面をずっと開いているのは避けた方が無難ではある。


 最初こそ、歩きでこの世界の雰囲気を楽しみたい感じではあったが、変わらない景色に飽きたらしく、走りへと移行した。


 無論、遅れることは無いが足の速さも尋常ではなく、改めて異世界人のギフトは特殊だと分からされる。


「ふふん、コイツはいい能力だ。でも、よく付いて来れるな……ところでなんて呼べばいい?」


「まぁ、私の仕事故に大抵のことは出来てしまいますので。それとお好きなようにお呼びくだされば」


「ふぅん。まぁ、いいや。んであとどれくらいで着く?」


「このペースですと、小一時間ほどで外壁が見えてくるかと」


「よし、じゃあペースを上げるか。もちろん付いて来れるんだろ?」


「問題ありません」


 さらに、ペースを上げる。ここまでのペースを維持して走ることが出来るのであれば、乗り物も要らないくらいだ。


「あー、これは何だ?」


 走りながら教えたステータス画面をよくも飽きもせず、何度も繰り返し見ている。何度かどこで見られているか分からないと、忠告はしたが、異世界だという実感を得られる手っ取り早い証拠なのだから、無理もないのだろう。


 彼が指差すそこにはこのようなギフト名が書かれていた。


【勇者の素質】


「あぁ、そのままの意味です。勇者の素質とは、勇者になれるかもしれないというだけです・・・あまり期待しない方がいいですよ?そのギフトを持つ人自体は多いですから」


 特に異世界人にはと。その言葉を告げることはやめておく。実際に、この世界の住人であっても持つものは多い。


 そして、これはギフトとは言い難い。どちらかといえば称号だ。自身の一定のバフがかかるが、その素質を持つものにとっては微々たる成果しか得られることは出来まい。


 一応はそう伝えるが、これまでの異世界人のように聞く耳を持つ様子もない。


「ふぅん。俺が勇者ね。まぁ、この世界に来た時点で選ばれた存在だというのはわかっていたけどね」


 その後も彼は自分のギフトについて質問し、私が答えるというのがしばらく続いた。

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