勇者になりたかった男 1
新たな異世界人が出現した。
そんな気配を察知した私はいつもの現象に備える。幾ばくかの時間の後、目の前は真っ白になり、目を開くと見渡す限りの平原にいた。
「今回は迷い人ですかね」
ほんの数分そこで、状況を整理していると目の前で白い靄のようなものが現れる。その靄が晴れるとそこには一人の男性が現れた。
見た目上は20代前半ほどの男性。経験上の話で言えば、サラリーマンであろう。黒いスーツにビジネスかばんをぶら下げて、この場に対して困惑している。
「さて、混乱しているところでしょうが、説明をさせていただきますね。私は異世界案内人。あなたを時には導き、あなたに付き従い、最期を見届けるものです」
淡々とした説明。しかし、おおよそ異世界に迷い込む人間の傾向からも順応性が高い人は多い。
「…てことはここは異世界?」
「そうなります」
「魔法は使える?」
「素質があれば使えます」
「……」
いくつかの質問の後、男は大きなガッツポーズをした。
「よっしゃあーーー。あんのくそ上司め。俺の学歴が何だってんだ。この世界に来れば、お前なんざろくに生きてはいけないだろう。俺は違う。今までどれだけのラノベで予行練習も重ねてきたと思っている。俺が主人公だぁぁぁ」
ひとしきり騒いだのを見届け、落ち着いたのを確認すると、声をかけた。
「私はあくまで、案内人です。あなたがどのような選択をしようが、どんな生き方をしようが止める気も毛頭ございません。ところで、お名前をお聞きしても?」
「その辺は今まで読んできた展開では珍しいタイプだな。俺の名前は
「ございません」
「ん~、自由に過ごしてもいいタイプかぁ。何しよっかなぁ。一番手っ取り早い過ごし方は、やっぱり冒険者?」
「そうですね。そのような方が多いですね。異世界人は身分証明が出来ませんので、冒険者は身分証明にもなりますから。それに特殊な能力持ちが多いのも事実ですから」
私の回答に満足するように頷く。
「よし、とりあえず世界一の冒険者にでもなるかな。んで、冒険者ギルドはどこにあるんだ?というよりもここはどこだ?」
「冒険者ギルドは大抵の町の規模であればどこにでもあります。そして、ここはデリカ平原です。そちら側に真っ直ぐ行けば世界樹の森。こちら側に進めば、風都シルフィードに着きます。シルフィードが一番近い町ですね」
「よぅし、じゃあ町に行こう。案内してくれ」
「えぇ、それが仕事ですから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます