<第10ラウンド> アンサー
《バシュッツ》。相手の視線が俺にそれた瞬間を見逃さずにちっちが撃つ。
ー相手とちっちの狙撃が同時だった。いや、僅かな差だが相手のが早かったか?
やられた。裏太もものあたりに激しい衝撃が走る。意識が遠退いて、視界がぼやけ…
「そうサ、囮とはそうでなくちゃアならない。」
モニターに映る少年の顔。無表情だが、奥底から湧き出る狂暴な光が閉じ込められた眼球には相手の驚いた顔が映っている。
普段不愛想なゲームマスターからは珍しい、少し興奮しているような声だった。
「たしか彼はNo.3766、唯一のシューターの使い手でしたよね。」
ゲームマスターの隣で、背筋のピンと伸びた女性が資料を片手に話しかける。
「あァ、彼のみチャージャーが使えないと判断された。長月クン、某がこのことを彼に伝えるとき”良い意味でも悪い意味でも”と言ったのを覚えているかネ。悪い意味は分かり切っていると思うが、では”良い意味”とは何だと思う?」
「長月」と呼ばれた女性は考え込んでしまった。唐突な長文に驚いてしまったのも勿論あったが、それ以上にシューターの利点が思い浮かばなかった。
いままでチャージャーの使い手ばかりいたのは、シューターは全てにおいて劣っているからだと考えていたし、それが一般認識であった。言うなればスマートフォンが流通するこの時代に、糸電話を使う利点を答えるのと同じようなものだろう。全ての機能においてチャージャーが上手なのだ。
「一般認識が頭を蝕って、頭が少々固くなっているのではないかネ。この映像を見たまえ。」
シューターが真ん中にいるチャージャーの敵を倒して、他の敵に撃たれる。そんな単純な動作の合間に一瞬見えた彼の鋭い眼光を見逃すことはできなかった。
「囮というのはただ怯え、逃げ回るだけじゃアない。真の囮というのは相手の死角となり、相手を出し抜き果敢に戦うゲームプレイヤーなのだ。」
No.3766は、それに気づき勇気を出して立ち向かったというわけか。確かに称賛に値するが、ゲームマスターがそんなにも興奮する理由がわからない。
「フフフ、まだ気づけていないのかね。某が今までにない満面の笑みを浮かべていること、その理由に。」
ゲームマスターの顔を見る。不気味な笑みを浮かべているその顔をちらと見たが答えが思い浮かばなかった。また「頭が固い」と貶されるのではなかろうかと思い、思考をフル回転したが、上手くいかなかった。
不気味な笑い声がフフと聞こえてきた。
「某が創造してきた世界を、プレイヤーを、やっと…やっと実現できた!某ももうすぐ出番を終える齢になってきた。じゃが、これで某は悔いのない人生になる!面白くなってきた!!」
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