<第8ラウンド> エイム

騒々しいマーケットを抜けると、木のトンネルのような場所になった。

「相手ギルドを見つけるにはどうすればいいんだ?」

「これは戦っていい場所を示している地図だ。このトンネルを抜けて少し歩いたところの森に行くとその区域に入るから、そこら辺に行ったらギルドの1つや2ついるだろう。」

例のごとくツキやんがガイドブックを指し示しながらトンネルを真っすぐと歩く。あれ、こいつこんなしっかりしてるやつだったっけ?と思ってしまうほどその背中は頼りがいがあり、がっしりとしていて大きかった。

「始まりの森から離れれば離れるほど強いギルドにあたるってわけか…。つまり、ゲームマスターに近づくってわけか。」

俺がボソッとつぶやいた言葉、「ゲームマスター」にツキやんとちっちの表情が一瞬強張った、

…気がした。


トンネルを抜けると、すぐそこに暗い森が広がってるもんだと思っていたが真逆だった。そこは、一言で言うなれば 天国 であろう。

薄緑の芝生の絨毯にところどころ咲く黄色の花が風になびく。重ね合わせる前世の記憶、休日に父親とキャッチボールをしたあの公園。近くで自分より少し下のようにみえる幼い女の子が、わたげをふぅーと吹いてきゃっきゃと笑う。

ああ、懐かしい。今まで、俺は俺のことしか考えてこなかった気がするよ。親父、今会ったらなんて言うだろうか。僕のぎこちない笑顔の遺影に向かって何を思っているだろうか。言える、今なら「ごめん」だって「ありがとう」だって。今なら素直になれる気がする。まぁそんなこと考えても仕方ない。

俺は死んじまったんだから…。

タンポポだろうかと思ったが、よく見ると見たことのないひし形の花だったことに、はっと現実に引き戻されてしまった。

「肉ゲットできたらさ、ここで3人で食べようぜ。」


森に入ると、一気に雰囲気が変わった。怯んだ者が負けるということが肌で感じる。

「進むぞ。」ちっちの声に背筋がのびる。本気なのが暗くて顔は見えなかったがよく伝わった。


「やい、兄ちゃん達よう。ここは俺たちの森だ。入ってくんなら食い物よこしな。まぁ、今慌てて逃げだすなら許してやってもいいけどよ。」

(うわあ危ない人たちだあ)とは思ったがギルド戦を挑むにはすぐ見つかる絶好の相手だった。

「お手合わせ願います。」ツキやんの堂々たる声にギルド長としての威厳が垣間見えた。

うっすら見えるだけだったが、相手ギルドが仲間同士で顔を合わせてぷっと笑うのが分かった。

「まあいい。俺らもちょうど暇つぶしがしたかったしな。初狩りといこうじゃあないか。」

初狩りとは、初心者狩りのことだ。あ?こっちは前世からこのゲームやってんだぞ!

…まあ、初心者って言われちゃあ言い返せないけど。

そんなこと思っている間に光がついた。光をつけられるなら最初からつければいいのに…。

目が明るみに慣れて相手の姿がぼぅっと見えてくる。


左から

チビ、チビ、チビ…。


そういうことか。

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