第二話 ミア・ガルシアの仲間達

「君、大丈夫?」



 私は目の前で魔法というものを目にし、驚きのあまり声が出なかった。

 黒髪の少女は私に近づき、手を差し伸べた。


「あ、ありがとうございます!」

「ケガはない?」

「は、はい!」

「ならよかった。油断してたらスライムも危ないから、気を付けてね」

「あの!」

「ん? どうしたの?」

「私に……魔法を教えてください!」



 私たちは街に戻り、ベンチに腰掛けた。

 彼女はクロエ・クロウと名乗った。

 きれいな黒髪のショートで、少し小柄な女の子だ。

 彼女は自分含め4人のパーティに入っているらしい。ただ、いつもはメンバーが集まらないため個人で活動しているらしく、たまたま私がやられているところへ通りかかったとのこと。


「魔法が使いたい、かぁ。魔法って、生まれつきの個人差があるから、習得できない人はできないんだよね」

「そうなんですか?」

「うん、ちょっと冒険者カード見せてもらえる?」

「はい!」

 私は冒険者カードを取り出し、彼女に渡した。


「えっ⁉ めっちゃ高いじゃん!」

「そうなんですか⁉」

「ミアちゃんって、まだ魔法使ったことないんだよね? なのに魔力が60もあるよ!」

 彼女曰く、魔法未経験者のの平均は20程度らしい。もしかして無双しちゃうのでは⁉


「たぶん、魔法は使えるようになると思うから、これから杖買いにいこっか!」

「はい!」

「あ、あと敬語なんて使わなくていいよ! 堅苦しいだけだし。 私のこともクロエでいいからね!」

「う、うん!」



 彼女は街はずれの武器屋に行き、おすすめの杖を教えてくれた。


「なるべく安く済ませたいなら、ラピスラズリの杖がいいかな~。でもあまりにも安すぎると純度が低くて戦闘に支障がでるから注意してね」

「そしてこのスピネルっていう鉱石の杖! この鉱石、私の杖にも使われてるんだ~」

「そうなんだ~! じゃ、これにする!」

「杖も決まったことだし、とりあえずギルドいこっか」



 クロエはギルドに着き席に座ると、魔導書のようなものをバッグから取り出した。


「魔法を使うには、魔法の本質を知らないといけないからね。 とりあえず大事なとこだけ教えるよ」

 そういうと、クロエは『魔法とは何か』という哲学チックなページを開いた。



 魔法とは、空気中に含まれている『自然系マナ』と呼ばれるものと、『体内系マナ』というものが結合し、元素が生まれることである。

 魔法を扱うためには体内系マナの存在が不可欠であり、体内系マナが少ないと魔力は低い。

 そして、マナというものは大昔にいた『大精霊マナ』が人間と契約を交わし――



 長い。見開き丸々魔法について書かれている。

 決して面白くないわけではないが、中二病の人が書いたメモ書きのような文章なので、頭がボーっとしてきた。

 読むに堪えなくなってしまった私を見てクロエは、


「次のページいこっか! 私も読んでて面白くないし」

 クロエ……やさしい……



 次に開いたページには、いろんな魔法の使い方が載っていた。


「これは外に行って実践しよっか」

 私たちはギルドの横にある訓練所で練習することにした。


「まずは攻撃魔法からいこう。 えーと、杖から炎が生まれるのを強くイメージして……だって」

 私は目を瞑り、杖先に集中した。

 炎、炎、炎、炎!

 念じ続けると、経験したことのある感覚を覚えた。水晶に手をかざした時の感覚だ。

 そうこう感じているうちに、手の先が暖かくなっていった。

 目を開けると、そこには野球ボールほどの火の玉があった。


「すごいよ! ちゃんとできてる!」

 その調子で、その玉を押し出すように発射させた。

 火の玉はメラメラと音を立てながら消えていった。


「えへへー、そうかな~?」

「この調子でほかの魔法もいこ!」



 それから数時間経ち日が沈んだころ、私はヘトヘトになっていた。


「こんだけやったんだから疲れたでしょ~ そろそろご飯食べよっか!」

「お腹ペコペコ~」

 私たちはギルドの中へ戻り、夕飯をいただくことにした。


「私はラックスムニエルとスライムジュースにしよっかな~。ミアは?」

「私も同じの……」

 まてよ……もしかして、スライムジュースってあのスライムか……?

 やばい、食欲失せてきた。


「ラックスムニエルとコーラで」

「おっけー、じゃあ注文するねー」

 そのとき、奥から赤い髪の女性が現れた。


「おっ! クロエではないか!」

「あっ! リリー! こんなとこでどうしたの?」

「依頼を完了してな。そちらの女の子は?」

「この子、ミアっていうの! ミア・ガルシア!」

「魔法使いか、私はリリー・クレインだ。よろしく!」

「よろしくお願いします!」

 そういうと、リリーはクロエの横の席へ座った。

 リリーは意外と堅苦しい性格だと思っていたが、打ち解けてみると案外気さくで話しやすかった。

 3人で話していると、少しの間ができた。そこで私は、


「あの!」

 2人はこっちを見た。


「迷惑かもしれないんですけど、よかったらパーティに入れさせてくれませんか!」

 私は勇気を振り絞り言った。

 彼女らはすぐに答えてくれた。


「本当か! よろこんで歓迎するぞ! 実は、我々のパーティにいる一人が休みがちでな。人数に困っていたところだ」

 と、リリーは立ち上がりながら言ってくれた。


「ミアが来てくれたら助かるよ~!」

「本当⁉ よかった~。 断られたらどうしようかと思ったよ~」

 私は安堵した。


「そうと決まれば明日の朝、依頼を受けるとしよう。ミアは大丈夫か?」

「大丈夫です!」

 私たちは掲示板に行き依頼を探した。

 リリーは難易度4の依頼を見て指をさした。


「これはどうだ?」

 そこには『ガンギウスの討伐』と書かれていた。いかにも強そうだ。

 リリーがどのくらい強いのかわからないけど、まあ大丈夫だろう。


「いいんじゃない?報酬もおいしいし」

「私もいいと思います!」

 私たちはその依頼の受付を済ませ、解散した。



 次の日、私たちはギルドに集まり作戦会議をした。

 そこにはアリス・ベルという、クロエよりも小柄で幼い金髪の女の子がいた。この子もパーティメンバーだ。


「アリスちゃん、よろしくね!」

「よろしくお願いします!」


「よし、じゃあまず作戦を立てていくぞ」

「まずは私が先陣を切る。アリスは私に続いてこい。クロエとミアは後ろで待機してくれ」

「そのあとは私が注意を引く。私を攻撃しにガンギウスが降りてきたとき、アリスはガンギウスの翼を斬ってくれ」

「飛べなくなったガンギウスを私たちが魔法でやっつける、ってことだね!」

「その通り。 場所はここから少し離れた南の平原だ。おそらく2時間ほどはかかるだろう。昼過ぎに出発することにする」

「了解!」 


 リリーはあまり戦闘ができない私を気にかけて作戦を立ててくれたのだろう。あとでお礼を伝えよう。





 みんなとパーティが組めて、よかった。

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