ミア・ガルシアの冒険譚

カレハ

第一話 ミア・ガルシアは冒険者


 ここは剣と魔法の世界。

 現実世界とは遠く離れた、俗にいう異世界。どうやら私は転生したらしい。気が付いたらこの世界だった。

 転生なんて物語の話かと思っていたけど、本当にあるんだなあ。

 これから何が待ち構えているのかわからないけど、楽しいことが待っているような気がする。



 これは私、ミア・ガルシアの冒険譚だ。


 


 「うわっ! まぶしっ!」

 目が覚めるとそこには、鮮やかで雲一つない青空が広がっていた。


 「あ、そういえば転生させられたんだったっけ……」

 ここに来るまでに何があったのかを思い出し、辺りを見渡した。

 見た感じ、建物が立ち並んでいるので散策することにした。

 やはり、異世界というものは想像していた通りだった。

 踏み固められた土の道に、ほぼ木材で建てられた家。

 街ゆく人は剣や杖を持っていて、それを見守るかのように花壇に花が咲き誇っている。

 なかなか大規模な街っぽい。


「異世界っていいなあ。なんだか落ち着く~」

「私も武器とか買って、戦ってみたいな~」

「ん? まてよ?」

 のんきに浮かれていたが一番大事なことを忘れていた。

 お金がない。

 この世界のお金がどんな感じなのかわからないけれど、とりあえずすっからかんだ。


「私のスローライフ、終わった……」

 始まってもいないスローライフが終わり、私はその場にひざまずいた。すると突然、


「そこの白い髪のお嬢さん、お困りのようだね」

「え? あっはい、少しだけ……」

「どうやらお金がなくて困ってるようだけど……」

(もしかして、お金が稼げるチャンスでは⁉)


「はい! めちゃめちゃ困ってます!」

「おっ! 威勢がいいね! そんな君にイイ話があるんだけど――」

「ほほう……イイ話とな?」




「ガルシアちゃん、こっちもお願いできる?」

「はい!」

「いやぁ、ガルシアちゃん手際いいね」

「私、お料理好きなんですよね!」

 たしかにお金は稼げる。

 でも異世界にきて最初にやることが料理……

 いい匂いがするせいでお腹も空いてきてしまった。

 つまみ食いでもしようかな。



 働いて1時間ほど経った。やってみると案外楽しい。

 調理法は現実とはあまり変わらないし、これなら楽勝かも?

 この調子で頑張るぞ!


「君新人さん? なんか盛り付け下手じゃない?」

 前言撤回。頑張れない。

 というか、大きい飲食店なのにスタッフが少ないような気がする。

 もしかしてアイツ、人手が足りないから私をキャッチしてきたのでは……?

 ま、お金はもらえるしいっか。




「待ちに待ったお給料だぞ~」

「あ、ありがとうございます! 今日はお世話になりました!」

「はい、お疲れ様~!」

 ようやく終わった。

 私は飲食店を後にし、この街の大通り的な場所をテキトーに歩いた。


 


「はあ~、お腹空いたよ~」

 少し歩くと凄まじい建物がそびえたっていた。

 入り口には剣と盾の看板が大きく飾られている。


「これ、ギルドかも……⁉」

 中にいる人の騒ぎ具合的に酒場も併設されているっぽいので、そこで食べることにした。


「私、冒険者でもないのに入っても大丈夫かな……?」

 扉を開けるとより一層騒がしくなった。

 真ん中の席では図体の大きい荒くれ者が騒いでいる。関わらないでおこう。

 私は空いているカウンター席に座りメニューを開いた。

 都合のいいことにこの世の言語は理解できるようだ。


「すみませーん」

「はいよ~」

「この、リンドフのチーズハンバーグと、スライムジュースをお願いします」

「はいよ~」

 それから間もなくして注文が届いた。


「はいよ~」

「ありがとうございます」

 鉄板で出てきたため、肉が焼ける音と湯気がすごい。

 完全に牛肉であろうハンバーグを口いっぱいにほおばった。


「あつぅ!」


 「お腹もいっぱいになったことだし、今日はもう寝よっかな~」

 ギルドを出て少し歩いた裏路地に、小さめでこぢんまりとした宿屋を見つけたので受付を済ませた。

 私はベッドに飛び込み、今日あったことを思い出しながら感慨にふけた。

 今日はぐっすりと眠れそうだ。



 部屋に差し込んだ光で目が覚めた。

 私は颯爽と身支度を済ませ、昨日のギルドへダッシュで向かう。

 そう、冒険者になるのだ!

 この世界の冒険者はギルドからの依頼をこなし、報酬をもらう。そして生活をつなぐ。

 まさに私が求めていた生活だ。もう労働なんてしとうない。



 朝のギルドは昨日よりも静かで、妙に寂しかった。


「すみません、新しく冒険者になりたいんですけど……」

「はい、かしこまりました!」

愛想のいいお姉さんが担当してくれた。


「お名前お伺いしてもよろしいですか?」

「ミア・ガルシアです!」

「かしこまりました! 冒険者カードを作るためにガルシア様の基本情報が必要なので、そちらの水晶に手をかざしてください!」

「あ、わかりました~」

 お姉さんは受付の奥へと歩いて行った。


「本当にこういうのってあるんだな~」

 私はワクワクしながら水晶に手をかざした。

 すると、水色だった水晶は目が痛くなるほどに純粋な青色へと変化した。

 私から何かが吸い込まれていくのを感じる。

 数秒経つと光は消え、元の水晶へと戻っていった。



 それから少し時間が経ち、お姉さんが受付へ戻ってきた。


「はい! ありがとうございます!こちらがカードになります!」

「あ、ありがとうございます!」

 私は早速カードを見た。

 やはりカードには基本情報のほかにも、戦闘能力を表す数値が書かれていた。

 ほかの冒険者の数値がどのくらいなのかはわからないけど、低くはなさそうだ。安心。

 さっそく依頼を注文するために、掲示板へ駆け寄った。

 難易度は1から7まであるらしい。

 私は『スライム‼ 大量発生中‼』という依頼を受けた。

 スライムを5体倒せば完了だ。



 私は依頼の場所に行く前に武器屋へ寄り、一番安い銅製の剣を買った。本当は魔法が使いたかったけど。

 一番安い剣を買ったとはいえ1食分のごはん、宿代、装備代合わせたら結構な値段しそうなのに、お金がまだ余ってる。

 バイト、めっちゃ儲かる……?



 剣を構え、指定された郊外の平原へと向かうと、案の定スライムがいた。

 いや、ただのゲル状の物体に目が付いたやつ、がいた。

 想像の数倍、数十倍は気持ち悪い見た目をしている。

 呆気にとられていると、音を立てながらすごいスピードで飛びかかってきた。


「うわっ!」

 私は反射で目を瞑り、剣を適当に振った。


「おっ?」

 剣が一瞬重くなった。どうやら倒したっぽい。

 私は初めての魔物撃破が嬉しくて、ついガッツポーズをとった。

 目標撃破数まではあと4体。

 その4体は探さずとも向かってきた。

 私はスライムの方へ走り出し、一番左のスライムに斬りかかった。

 スライムの体が凹むと、なかなかグロめの音を立てながら溶けていった。


「よし、倒せた!」

 急いで次のスライムを倒すために、走り出した。

 しかし、異常なほどに足が重い。

 下を見てみると靴の側面が青かった。

 倒したスライムの死骸を踏んでいたのだ。


 足を上げた勢いで私は転んでしまった。


「いてて……」

 やばい、と思い顔を上げると、3体のスライムがもう目の前にいた。

 急なハプニングで、起きようにも腰が抜けて体が動かない。

 このままではまずい。誰かいないか、と這いつくばりながら辺りを見回す。


 ん? 右の方に何かが見えた。

 魔法使いの少女だろうか。スライムの方を見ている。

 その少女が杖を前へ突き出すと、目の前が光りだした。


「フリーズ!」


 その声とともに3体のスライムは一瞬にして固まり、ひんやりとした空気が顔にかかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る