新たな計画書

 次の日、いつものように教室に入ると、遼が俺の姿を見て、すぐに駆け寄って来た。


「蒼、進展あったのか?」


「うん、仲直りしたよ」


 遼は、俺に肩を組んでくる。


「良かった、良かったなぁ!」


 まるで、自分の事かのように喜んでくる。遼が、励ましてくれなかったら、今も俺は落ち込んでいたと思う。感謝しかない。


「遼のおかげだよ」


「そんな事ない。蒼の行動力が、あったからこそ仲直りできたんだ」


 遼のサポートが、なければ仲直りなんてできなかった。


「んじゃ、次の事も考えておきますか!」


「次?」


「『自信がない彼女とさらに仲良くするぞ作戦』って計画を立てておこうぜ」


「しばらく、計画は、うんざりだよ」


「ははは!」


「ははは!」


 俺と遼は、お互いの顔を見て笑った。ありがとう。俺は、こんな、友達を持てて幸せだよ。



 放課後、いつものように知夜の事を学校の玄関前で待つ。


「お待たせ、蒼君」


 知夜は、俺の肩を叩いて話しかけて来た。珍しく、いつも下げている髪は、ポニーテールになっており、一つにまとめられている。普段とは違う美しさに、俺は固まってしまった。


「知夜、その髪型どうしたの?」


「もうすぐで、ゴールデンウィークでしょ。だんだん首元が、暑くなってきたから、髪をまとめてポニーテールにしたの」


「そうか、もうすぐでゴールデンウィークか」


 全然カレンダーを見ていなかった。前日まで、日付を確認する余裕がなかったから、すっかりゴールデンウィークの事を忘れていた。


「この髪型、似合わなかった?」


「ううん! そんなことない! いつもと違う可愛さがあって、いいよ」


「えへへ、そうかな」


 知夜は、それを聞いて嬉しそうに言った。


「蒼君、歩こう!」


 知夜と俺は、駅に向かって歩き出した。


「ねぇ、蒼君」


「ん?」


「また、こんな風に話せて嬉しいよ」


 知夜は、少し顔を赤くさせながら言った。


「俺も嬉しい」


 しばらく無言の時間が続く。


「私、決めたことがあるんだ」


「決めた事?」


「蒼君が計画を立てるほど、計算する男子なら、私も計算する女子になろうって思ったんだ」


「計算する女子?」


「じゃーん!」


 知夜が見せたのは、『蒼君と二年生の間にやりたい十の事』って題名が書かれた計画書だった。


「いいのか? 内容は違うけど俺達が傷ついた計画書だぞ」


「蒼君、深く考え過ぎだよ。確かに、蒼君が考えた内容は、傷ついたけど」


「ごめん」


「き、気にしないで、悪気があって言ったわけじゃないから。これは、私達で考えて幸せになる計画書なの」


「幸せになる計画書?」


「そう、世界中のカップルに負けないぐらい楽しい思い出を作るの」


 知夜は、そう言うと俺の手を引っ張り、通りがかった公園にある机に計画書を置いた。


「蒼君、この計画書を見て気づいた事ない?」


「気づいた事? あ、題名の『蒼君と二年生の間にやりたい十の事』の下から空白だ」


 何も書いてなかった。この紙は、題名だけ書かれた、ほぼ白紙に近い計画書だったのだ。


「ここの欄は、蒼君と相談して決めるのよ」


「俺と相談して決める?」


「そう、お互い話し合って、一緒にやりたい十の事を決めるの。これなら、最高の計画書にならないと思わない?」


「確かに」


 俺が書いていた計画書は、自分で考えた計画書だ。知夜に相談しないで、自分で考えて決めた計画書。それに対して、この計画書は、俺と知夜の二人で考えて書く計画書だ。


「じゃあ、早速埋めていこう!」


 知夜は、カバンから筆記用具を取り出す。


「私、海に行きたい」


「海か小学生以来、行ってないな。行こう」


 知夜は、一つ目の空白に『海に行く』と書きだす。


「蒼君は、何かやりたい事ある?」


「俺か、クリスマスに知夜とでかけたい」


「私も行きたい」


 二つ目の空白には『クリスマスデート』と書き出した。その後も、同じようにお互いやりたいことを言い合って紙に書いていく。


「で、できたー!」


 三十分ぐらいで、『蒼君と二年生の間にやりたい十の事』の計画が、完成した。知夜は、手を上にあげて喜んだ。


「できたな」


「うん!」


 待て、この題名も少しいじりたいな。


「知夜、一つ提案が、あるんだけどいいか?」


「うん、いいよ」


「『蒼君と二年生の間にやりたい十の事』じゃなくて、『二人で、二年生の間に幸せになる十の事』にしないか?」


「うん、それ凄く良い!」


 こうして、計画書のタイトルは『二人で、二年生の間に幸せになる十の事』に変わり、計画もまとめられた。


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