再会
次の日、朝学校に着いたら、俺と遼は、知夜がいるクラスを確認する。
「知夜いないな」
「あぁ、知夜と同じクラスの知り合いに聞いたら、昨日と今日、二日間学校を休んでいるみたいだ」
手に力が入る。傷つけてしまってごめん。感情任せに計画書を書いてしまった事に、後悔をしてしまう。
「蒼、リラックスしろよ。力み過ぎて、前のめりに、なりすぎちゃだめだ」
遼にアドバイスをされる。そうだ、また知夜を傷つけてしまうのは、良くない。一回落ち着こう。俺、どうすればいい。
「一回、自分たちの教室に戻ろう」
「そうだな」
どうすれば良いか、自分の教室に向かいながら考える。知夜が、学校に来るまで、そのまま待つ方が良いのか。いや、謝るなら時間の間隔をあけすぎるのは、良くない気がする。どうすればいい。気づいたら、自分の教室に入っていた。
「なあ、遼」
「どうした蒼?」
「知夜にメッセージを送ろうと思う」
考え抜いた最善の手がこれだった。本当は、直接謝りたいが、学校を休んでいるなら、まずはメッセージを送るのが妥当な気がする。そこから、何とか会えるようにして、直接謝る。
「蒼がやりたいようにやってみな」
遼は頷いてくれた。俺は、携帯の画面を開き文字を入力する。
『一昨日は、本当にごめん。あの計画書は、知夜に自信をつけてほしくて書いた物なんだ』
これで、一回送り、再び文字を入力する。
『最初は、計画書通りにするつもりだった。だけど、知夜といろんな所に行って、一緒に帰る度、いろんな知夜の事を知る事ができた。それで、気づいたら、今の知夜の事が良い事に気づいた』
メッセージを送り、最後に一文を付けたす。
『知夜の事が好きだ。一回、直接会って謝りたい』
送信ボタンを押した。本当に、これで良かったのだろうか。今の行動が正解なのか、わからない。前までなら、すぐに返信が来ていたが、返信が来ない。今できる事は、ここまでだ。俺は、しばらく待つことにした。
知夜から、返信が来たのは夜になってからであった。
『その、言葉本当?』
返信が、来た瞬間、ベッドから飛びあがって携帯を見た。『黒井知夜』、間違いない知夜からだ。視界がかすむ、涙が頬をつたっていくのが、わかった。返信が来ただけだ、終わりじゃない。やっと、スタートラインにたてたんだ。
『本当だよ』
心臓の鼓動が高まる。
『信じられない』
この感じ、付き合い始めの事を思い出す。知夜は、今自信がなくなっている。俺のせいで。
『本当に知夜の事が、好きなんだ』
『ただ、私を都合の良い女性にしたかったんでしょ?』
『そんな訳ない』
『本当に?』
『俺は、知夜と付き合えて嬉しかった。恋人と縁がない人生だと思っていたから、最初告白された時、景色が鮮やかに見えたんだ。俺の中に光を照らしてくれたのは、知夜が初めてなんだ』
思った事を全て打った。嘘、偽りのない本当の気持ちだ。
『私も、最初付き合えた時、嬉しかった。携帯ずっと見ていたし、手から手放す事ができなかった』
『一回会って直接謝りたい』
『考えさせて、また明日連絡する』
胸が苦しかった。返信している時、呼吸を忘れて、必死に考えて文を打っていた。未だに、心臓の鼓動が落ち着かない。
「やっと、掴んだチャンスだ。絶対に手放さない」
俺は、心に誓った。
次の日、学校に行く途中で、遼と会った。
「おはよう、蒼。この後、進展あったか?」
「うん、夜、返信が来た」
「そうか! どうなったんだ?」
「『考えさせて』ってメッセージがきた」
まだ、知夜からの返信は来てなかった。朝から携帯が手放すことができていない。
「うん、いい調子だね。知夜ちゃんのペースに任せよう」
「うん、そうする」
遼の言う通りだ、一回落ち着こう。今回、俺が全て悪いんだ。知夜のペースが優先だ。その日、学校にいる間、知夜からの返信は来なかった。
夕方まで連絡こなかった。カバンに荷物を詰めているが、うわのそらだ。知夜から、連絡が来なかった。
「考え過ぎちゃだめだ。余裕を持とう」
焦っちゃだめだ。いつも通りに帰ろう。学校を出て、帰り道を歩く。しばらく、歩いていると携帯の通知音が鳴り響いた。
『今から会える?』
全ての時間が止まった感覚だった。それぐらいの衝撃が襲って来た。
「会える!」
つい、大きな声を出してしまった。一日中、待っていた返信が来た。緊張感に包まれる。
『会える』
一文字、一文字、文字を打つのに手が震えた。
『最後に会った、菜の花畑にいるね。待っている』
そのメッセージを見た瞬間、俺は走っていた。今まで歩いて来た道を引き返す。菜の花畑の場所が、俺の帰り道と逆なのは、どうでもいい。知夜に会える、それだけの理由でも、俺は嬉しかった。
「会えるんだ、知夜に!」
気づけば、愛川高校の前を通り過ぎていた。途中で何度も転びそうになりながらも、足は止めなかった。息は、上がり、呼吸は乱れている。足もふらふらで、真っ直ぐ走れていない。通り過ぎる人からは、変な人だと思われているだろう。だが、気にしない。知夜のためだ。
「見えた、菜の花畑!」
菜の花畑が、見えて来た。最後に会った日の事を思い出していく。知夜が、菜の花を笑顔で走る姿。一緒に撮った写真。それに、知夜を傷つけた時の事も思い出す。
「ごめん、本当にごめん!」
涙が止まらなくなった。まだ、知夜に会えてないのに、何で泣いているんだ。久々に会うのに、顔は、涙と泣き顔でくしゃくしゃだ。体も、ずっと走り続けて、ふらふらになっている。
「ち、知夜?」
菜の花畑の中に、一人の女性が立っていた。綺麗な長い黒髪の後姿、それにあの制服は、通っている高校の制服だ。
「知夜!」
足が勝手に動き出した。間違いない。あの、後ろ姿は、知夜だ!
「ごめん、知夜!」
やっと会えた。永遠に会えないと思っていた。
「ううん、待ってないよ」
振り向いた知夜の顔は、目元が赤くなっていた。泣いていたのか?
「蒼君、大丈夫?」
知夜は、俺の姿を見て心配した。そんなに酷い状態になっているのか俺。
「だ、大丈夫だ」
「本当? ハンカチあげるから、涙拭いて」
知夜から、ハンカチを受け取り、涙を拭いた。
「あ、ありがとう」
「何で、泣いていたの?」
「知夜に会えて嬉しかったから」
「本当?」
「本当だ、嘘はつかない」
知夜は、冷静を装っている。話していて、そう感じた。目元が赤かった、それは会う直前まで、泣いていたと思う。今は、強がっていると感じた。
「蒼君、そんな私に気を使わなくていいよ」
「気を使う?」
「私は、利用されて良いと思って、ここに来たんだよ」
「そんな、つもりない」
「蒼君が、理想とする恋人は、私じゃないんだよね」
「違う」
「理想の女性が現れるまでは、私と一緒にいてくれるんだよね」
「知夜」
「私は、それでもいいと思って来たの」
「知夜、違うんだ!」
知夜の事を抱きしめた。なんで、抱きしめたか、わからない。知夜が言っている事が違うって事を証明したかったのかもしれない。
「あ、蒼君?」
知夜の顔がどうなっているか、わからない。声の感じを聞くと、動揺させてしまったと思う。ごめん。この方法しか、思いつかなかった。
「知夜は、このままで良いんだ」
「私の性格が、わかるでしょ」
「その性格で、良いんだ」
「嘘を言わなくて良いんだよ?」
「嘘じゃない。俺は、ありのままの知夜が好きなんだ」
「や、さしく、し、ないで」
「え?」
「私に、優しくしないでよ!」
知夜に突き飛ばされた。今、『優しくしないで』って言ったのか?
「知夜?」
知夜の顔を見ると、目から涙を流していた。なんで、泣いているんだ。
「好きになっちゃうよ。大好きになっちゃうよ!」
「知夜……」
「利用するつもりなら、もっと酷く扱ってよ!」
涙を流して訴える知夜の姿は、どこか悲しくて、胸が痛くなる気持になる。
「そんなつもりは、絶対にない」
「せっかく、この二日間で受け入れる心の準備をしてきた。なんで、そんなに優しくするの」
「確かに、最初は知夜の言動に困惑する時があった。知夜が見つけた計画書は、その時に書いたものだ」
「うっ、やっぱりそうだ」
「でも、わかったんだ。知夜の事を知っていく度に、知夜にしかないとこがある事」
「え」
「何かあっても、笑顔で支えてくれる。勇気を出して、頑張るとこ。数えきれない良いとこが、たくさんある!」
「蒼君……」
「だから、信じてほしい」
「こんな、私で良いの?」
「良い」
「本当に良いの?」
「今の知夜が好きなんだ」
「あ、蒼君……!」
知夜は、俺の胸に抱き着いて、泣き声をあげる。
「うわああん!」
知夜の事を優しく抱きしめる。知夜が落ち着くまで、このままでいた。
しばらくすると、知夜は俺の胸から離れた。
「ご、ごめん。面倒くさかったよね」
「ううん。面倒くさくない。知夜が、俺の事を信用してくれて、嬉しかった」
「蒼君」
「前回のデートの続きをしよう」
知夜と手を繋ぐ。暖かくて、柔らかい手だった。
「うん!」
俺と知夜、二人とも目元を赤く腫らしている。でも、気持ちは、高校生活で一番嬉しい気持ちだった。
「菜の花って、こんなに綺麗なんだな」
「そうだね」
「菜の花が、トラウマになるとこだったよ」
「ははは。私も、蒼君が、悪い人だったら二度と見たくない花だと思うとこだった」
お互い顔を見合わせて、笑いあった。
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