発覚
「しかも、いじめていたグループが、自分では小学校から仲良いと思っていたグループの人達。いじめられた時は、何でいじめられていたのか、わからなかった」
「なんの予兆も無く始まったのか?」
「うん。後から、わかったけど、そのグループにいる一人の子に好きな男子ができたみたいで、告白したみたい。そしたら、その男子、私の事が好きだからって理由で断ったんだよ」
「まさか、それが理由?」
「うん。私、それを聞いた時ショックだった。いじめられた時、理由がわからなくて自分を責めていたのが意味なかった」
「知夜は、悪くないよ」
「蒼君、ありがとう。でもね、これは始まりだった。最終的にはクラスから、いじめの標的にされた。そして、私の事が好きだって理由で、グループの子を振った男子も、いじめに加わっていたんだ。もう意味、わからないよね」
「なんだよ、それ」
「そして、友達と思っていた人達からも距離をとられて、私は孤立した。そして、ある日から人を信用することが、できなくなった」
だから、最初付き合い始めた時、あんなメッセージ内容と、電話内容だったのか。全てが納得した様な気がする。俺も、知夜の立場だったら、何も信用できなくなっている。
「知夜は、絶対に悪くない。グループの子が、振られた腹いせに、いじめてきたのが悪い」
「蒼君が、そう言ってくれて嬉しい」
知夜は、優しく笑った。
「もし、いじめられそうになったら、俺が守る」
「うん、頼りにしている。蒼君は、そんな隠し事とかしない人だって、わかっているから」
その言葉を聞いて、俺は、『自信がない彼女をラブコメのメインヒロインにさせる作戦』が頭によぎった。俺が、知夜に黙っている事が、この計画だった。知夜の過去を聞いて、黙るのが辛くなってくる。ここは、計画の事も正直に話そう。知夜が、このことを知ったら傷つく。
「なぁ、知夜……」
しかし、話しかけようとしたが、知夜は菜の花畑の中にある小道を走り始めた。
「気まずい話をして、ごめーん! 一緒に走ろう!」
いや、でも俺は、話さないといけない事がある。知夜が笑顔で、叫んでいる姿を見てしまった。この笑顔を壊したくない。今、話したら、知夜が傷ついてしまうかもしれない。あの笑顔が、二度と見られなくなるかも。様々な思考が、頭をよぎって言葉に出せなかった。
「ねぇ、どうしたの?」
見かねたのか、知夜が俺のとこに戻って来た。
「いや、その」
言葉が出ない。言わなきゃ、いけないのに、喉から声が出なかった。
「さっき、走ってみたら凄い気持ち良かったよ。まるで、映画の中にでもいるみたいだった」
「そ、そうか」
「蒼も走ってみたら?」
「遠慮しとく」
走る気分に、なれなかった。俺の葛藤と裏腹に、知夜は不敵な笑みを浮かべた。何かを思いついたような表情だ。
「タッチ! 蒼が鬼ね! 私を捕まえて!」
知夜は、俺の肩に手を当てると、走り出す。鬼ごっこが、始まってしまった。この葛藤を引きずって入れば、知夜も不安になってしまうかもしれない。重い足を動かし、知夜を追いかけた。
「知夜、待てよ」
知夜に追いつこうとして走り出す。知夜は、それを見て笑顔になって、再び走り出した。やっぱり、早く鬼ごっこを終わらせて、知夜に全て話そう。全力で知夜を追いかけた。
「知夜、捕まえた」
よし、これで知夜に言えるタイミングが見つかった。しかし、いざ言おうとすると、嫌われるかもしれない恐怖心で、言葉が出ない。俺、何しているんだ、早く言わないと。
「蒼君の方が、速いって悔しい。私もう一回、鬼やるね!」
待ってくれ、知夜。今度は、知夜が追いかけて来た。知夜に言わなきゃいけない事がある。だけど、今楽しんでいる知夜の思い出を壊すような事をしたくない。
「くっ!」
俺は、知夜に捕まらないぐらいの速さで走る。知夜が傷つくかもしれない事をしているのに、嫌われるのが怖くて言えない。なんて、俺は駄目人間なんだ。
「なかなか追いつかない。なら!」
知夜は。そう言うと、俺に飛びついて来た。しかし、飛びついて抱き着いたのは、俺ではなく、俺のカバンだった。
「うお!?」
カバンに抱き着いて来た知夜の体重が、片方の肩に、一気に加わった。ダメだ、耐えきれない。俺と知夜は、体勢を崩してしまう。
「いたた、ごめんやりすぎた。うわ! 教科書とか出しちゃった、ごめん!」
知夜の声が聞こえ、後ろを振り向く、カバンから教科書やらノートが、飛び出して地面の上に散乱していた。
「知夜、怪我はない?」
「うん、大丈夫。ごめんね。今、集めるから」
俺と知夜は、カバンから飛び出して散乱した教科書やノートを集める。
「はしゃぎすぎたな」
「うん、そうだね。楽しかった」
よく、見てみると、筆箱からも、シャーペンやら消しゴムなども出ている。派手にやってしまった。一つ一つ筆箱に戻していく。明るい雰囲気から少し、落ち着いた。今なら、言えるかもしれない。
「なぁ、知夜?」
俺は、決心をして、知夜の方を振り向いた。しかし、知夜は俺の言葉を聞いても、振り向こうとしなかった。何か、怪我をしていたのか? 気になる、知夜の方に行こう。
「大丈夫か?」
知夜からの返事はない。やはり、どこか怪我をしたのか?
「なに、これ?」
しかし、知夜からの発せられた言葉は、いつも違った声色をしていた。どうした、知夜。
「なにかあった……」
途中で言葉が詰まってしまった。もっと早く言っとけば良かった。後悔の感情が襲って来る。なぜなら、知夜が見ていたのは、俺が言おうとしていた計画書『自信がない彼女をラブコメのメインヒロインにさせる作戦』だった。知夜は、両手にとって、固まっている。
「蒼君、これは何?」
声を震わせながら言う知夜に、かける言葉が見つからなかった。
「こ、これは」
「ねぇ、私をペットとか何かと思っているの?」
「ち、違う」
「じゃあ、これは何!?」
知夜は、振り向いて、俺の方をみて叫んだ。その顔は、赤くなり目には涙を浮かべていた。
「これは、その」
「何か、はっきり言ってよ!」
直接心臓を握られているかと思うぐらい胸が痛い。それは、俺が知夜に言おうとした事なんだ。
「『自信がない彼女をラブコメのメインヒロインにさせる作戦』? 私の性格、このままじゃ嫌だったの!?」
「違う」
「何が、違うのか言って!」
「それは」
「正直に言ってよ!」
知夜は、目の前で計画書を、びりびりに破り捨てる。破れた計画書は、風に流されて、どこかへ消えていく。
「好きだったのに、誰よりも負けないぐらい、愛していたのに!」
知夜の顔は、怒りと悲しさの感情で混ざり合っている。目からは、大粒の涙がいくつも流れる。
「違うんだ。俺は、知夜の事がー」
「何言っても信じられない!」
知夜は、そう言うと、その場から走っていく。
「ち、知夜。違うんだ」
確かに、最初は知夜の自信がない性格から来ている、行動に疲れていたのは事実だ。だけど、知夜とデートして、色んな知夜を知っていくにつれて、気づいた。知夜の性格は、変える必要はない。ありのままで良かった。
「俺は、知夜の全てが好きなんだ」
やっと、振り絞って出た言葉は、知夜に届かなかい。そして、その日から、知夜とは連絡がとれなくなった。
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