コスプレ大作戦#3
スタジオの中に入ってみると、涼香以外の姿が見えなかった。アシスタント二人と、知夜はどこに行った?
「あれ? 誰もいない」
「知夜ちゃん、恥ずかしがって更衣室に隠れちゃったんだよ。今、私の友達が、連れてきている所よ」
涼香が、説明していると、更衣室の奥から声が聞こえる。
「え、本当に行くんですか?」
「大丈夫よ。自分に自信もって」
「恥ずかしいです」
「そんなことない。世界一、可愛いから」
更衣室の扉が動いた。奥から、姿を現したのは、黒をベースに、所々白い花がイラストされた、ドレスを着ている知夜の姿だった。普通に美しい姿だ。髪もポニーテールにまとめて、化粧もしているせいか、より一層可愛くなっていた。
「可愛い」
「あ、ありがとう」
俺の率直な感想に知夜は、頬を赤らめた。嘘、偽りも無く、本当に可愛かった。
「はい、そこ、まだ、いちゃつかないー」
「姉貴。コスプレって、言っていたけど、ドレスを着せたの? 普通に結婚式で見られる服装じゃん」
「まさか、そんな訳ないでしょ。あれ、持ってきて」
涼香が言うと、涼香の友達が、段ボールぐらいの大きさである木の箱を持ってくる。木の箱? 何をするつもりだ。
「よし、知夜ちゃんの前に置いて」
「任せて」
「よし、おっけー。ありがとう。知夜ちゃん、これから私が言う通りの行動をしてみてね」
「え、あ、はい。わかりました」
何を、させるつもりだ。座らせるつもりか? それなら、なんで木の箱の必要が?
「この木の箱の上に右足だけ、乗せてね」
「右足を上に? でも、それじゃ、ドレスに引っかかって、足があげられないかも」
「大丈夫よ。このドレスには、秘密が隠されているから」
「わ、わかりました」
知夜が、ゆっくりと足を上げ始める。俺と遼は、ドレスの秘密が気になって、一言も話せなかった。
「涼香さん。このドレス凄い、本当に足が上がる」
「でしょ、でしょ、そのまま勢いよく足を木の箱に乗せて、体重を前にかけて見て」
「えーと、こうですか? えい!」
この瞬間、ドレスに仕掛けられた秘密を知る。この行動によって、姿を現したものがある。
「あれ? 何か、足が、さっきよりも涼しい」
姿を現したのは知夜の足だった。ただ、足が見えるならよかった。見えたのは、くるぶしから足のつけね辺りまでだった。なんなら、ドレスが揺れると、お尻が少し見えている状態だった。
「なっ!」
「ぶっ、ちょ、姉貴!?」
俺は、息を詰まらせて、遼は飲んでいたお茶を吹きかけた。女性経験が少ない俺達には、刺激が強すぎる光景だった。
「ははは! 良い反応ね、あんた達、私が知夜ちゃんに着せたのは、チャイナドレスよ! しかも、より色っぽく見えるために、私が少し手を加えた」
「え? え?」
知夜は、俺達の反応を見て、困惑した顔で、自分の足を触っている。
「ここまで、手の感触ある。でも、ここって私のお尻。あ!」
知夜も、自分が今どんな状態に晒されているか、理解したみたいで、俺から見ても、わかりやすいぐらい顔を赤く染まっていった。
「知夜ちゃん、どう? 彼氏を悩殺させた気持ちは? 私の弟も、巻き込まれたけど」
「き、きゃあああ! 見ないでー!」
知夜は、そう言うと、叫びながら、足を乗せていた木の箱を俺達に向かって投げ飛ばしてきた。
「うわああ!」
俺と遼は、慌てて木の箱を避ける。遼の姉ちゃんが、仕掛けた事なのに、俺達が巻き込まれるなんて不幸すぎる。
「あら、すごい力ね」
そんな、騒ぎはなかったような顔で、涼香は知夜の力に感心している。感心している場合かー! 知夜が、次にパイプ椅子を持ち始める。
「出て行ってー!」
「出て行きまーす!」
それを見た俺と遼は、スタジオから慌てて飛び出す。遼のお姉ちゃん、とんでもない小悪魔だ。高校生をもてあそんでいる。それから、知夜が落ち着くまで、俺達は、また廊下で待つことになった。
「お前の姉ちゃん、小悪魔だな。男子高校生の心をもてあそんだぞ」
「俺の姉貴、昔からサプライズ大好きだったんだよ。その、サプライズが数年間、見ていない間に、ここまで、ある意味進化を遂げているとは思わなかった」
「今度お詫びにジュース奢りな」
「あぁ、約束する。姉貴から金、貰うわ」
「蒼君、木の箱とか投げてごめん。私、動揺しちゃって」
冷静になり、着替え直してきた知夜に言われたのは、謝罪だった。
「いいよ。あれは、取り乱しても、仕方なかった。俺もびっくりした」
俺も何も知らされてなかったし、遼も知らなかったみたいだ。恐らく、全て遼の姉さんである、涼香の独断決行だったのだろう。
「知夜ちゃん、ごめんね」
「涼香さん、あなたは年上ですけど、二度と信用しません」
「せっかく知り合えたんだから、嫌いにならないでよ。わかったわ。次は、あなた達の仲が深まってからに、しとくわ」
「仲が深まる?」
知夜が、聞き返すと、涼香は知夜の耳に手を当てた。そして、俺達に聞こえないささやき声で、知夜にささやき始める。最初は、固まっていたが、体を震わせて、だんだんと顔が赤くなっていった。何を言ったんだ?
「涼香、あなたって人は!」
「年上を呼び捨てするとはね、ますます知夜ちゃんの事、気に入った!」
涼香は、そう言うと知夜の事を抱き着いた。知夜は、あからさまに嫌がる態度を見せているのに、それに負けないぐらい、涼香は攻めている。遼の姉さん、心臓が強すぎる。
「姉貴、それぐらいにしてあげなよ」
「えー」
「知夜ちゃんから、本当に嫌われるぞ」
「確かに、嫌われたらいけないわね。まだ、着てもらいたい、男子を悩殺させるコスプレがある」
「涼香さんに勧められたコスプレは、絶対に着ません」
知夜は、冷めた目で反応した。そんなやり取りをしていたら、スタジオは貸出時間が終わろうとしていた。俺達は、急いで道具を片付けて掃除をする。そして、片づけを終えた俺達は、スタジオの前に出た。
「今日は、楽しかったわ」
涼香は、満足げに言う。
「蒼と知夜ちゃん、ごめんな。後で、姉貴にきつく言っとくから」
「知夜ちゃん、次はどんなコスプレをしよう!」
「ほら、姉貴帰るぞ」
「えー、知夜ちゃん達じゃあねー。遼、そういえば次は、私達が家でコスプレをするから」
「まだやるのかよ!?」
遼と引っ張られる涼香と一緒に、アシスタントで協力してくれた涼香の友達二人もついて行った。残されたのは、知夜と俺のみとなった。
「台風のような人だったな」
「あの人、いいな」
知夜は、羨ましそうに言う。
「いいの!?」
びっくりしてしまった。今日、散々な目にあったのに、羨ましいのか。
「うん。あんなに自信持てる人、羨ましいよ。私には、無い所を持っている。私も、あんなに自信持ちたいな」
さっきまで、向けていた嫌な目とは、違い。知夜は、憧れの目をしていた。
「大丈夫。自信、持てるようになるよ」
「蒼君、ありがとう」
「帰ろうか」
「うん」
俺と知夜は、帰路につく。『コスプレで、自分の魅力に気づいて、自信を付けよう作戦』は、知夜が予想以上に取り乱した事で、半分失敗に終わったが、知夜の可愛さに気づけた結果になった。
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