コスプレ大作戦#2
コスプレ当日。俺と遼は、集合場所である駅前で、知夜が来るのを待っていた。
「遼のお姉ちゃんに、お礼を言わないとだな」
「いいよ、姉貴なんて、頭の中コスプレしかない人だから、全く知らない人でも同じことしていただろうさ」
遼のお姉ちゃん、どんだけ、コスプレが好きなんだよ。
「蒼君、お待たせー!」
駅の方から、知夜の声が聞こえる。知夜は、黒いワンピースを着て現れた。普段学校の制服で見る知夜と、違う知夜を見ている気分だった。『実は、貴族の娘だった』って言われても納得してしまいそうだ。
「電車が遅れちゃって、ごめん、待った?」
「大丈夫だよ。そんなに待ってない」
「なら、良かった」
知夜は、笑顔で返事する。
「知夜ちゃん、初めまして、俺、青木遼って言うんだよろしく!」
遼が、知夜に話しかける。すると、知夜は岩のように、ぴくりとも動かなくなった。表情も固まっている。どうした?
「あれ? 知夜ちゃーん?」
遼が再び話しかけると、知夜は、携帯を取り出して何かを打ち始めた。心なしか、さっき俺と話している時と、雰囲気が違う気がする。なんだ、俺が持っている携帯の通知音が鳴った。知夜は、俺の方を見ている。携帯を見ればいいのか。携帯を開いて、内容を確認してみる。
『この気安く話しかける男誰? 蒼君と私の会話に割り込んできて、邪魔だから消して良い?』
衝撃で心臓の鼓動が、一瞬止まった気がする。メッセージを見て、慌てて顔を確認するが、表情は普通だ。だけど、内心の知夜は、めちゃくちゃ怒っている。
『それ、俺の友達だから、消さないでほしい』
直接言えば、いいのになぜか、そのメッセージに返信してしまった。慌てたからに、違いない。知夜は、携帯を見て頷いた。理解してくれたのか?
「は、初めまして、知夜です」
「初めまして! 蒼とは中学からの仲でー」
理解してくれたようだ。遼は、軽快に話している。遼、知夜に消されかけていたんだぞ。このメッセージを見たら、恐らく遼のテンションは、今日一日、下がると思うから、見せない事にしよう。
「そういえば、遼の姉貴は、どこにいるんだ?」
「近くにある古いスタジオ。少しボロボロだけど、その分レンタル料が安いから、そこの一部屋借りて、そこでコスプレするって」
「なるほど。遼のお姉ちゃん待たせる訳にもいかないから、行こう」
「了解。んじゃ、出発!」
遼が、そう言って歩き出す。遼の後を、ついていく前に知夜の方を見る。少し体が震えていた。コスプレする瞬間が近づいて来て、緊張しているんだろう。
「大丈夫。俺が、そばにいるから」
「う、うん。私、頑張る」
知夜は、そう言うと、歩き始める。その表情は、何かの決意を感じられた。
遼が案内されたスタジオ内に入ると、三人の女性が待っていた。その内の茶髪で短髪の女性が近寄ってくる。
「初めまして! 私、青木涼香! よろしく!」
この女性が、遼の姉ちゃんだ。どこか、遼と顔が似ている気がする。それに、性格の明るさは遼と一緒だ。
「初めまして、白崎蒼です。隣にいるのが、黒井知夜」
「へぇー、この子があなたの彼女さん?」
「はい」
「可愛い顔しているじゃない! 最高に、いじりがいがあるわ!」
涼香が、知夜に近づくと、全身を見るように観察する。
「ひっ」
いきなりの行動に知夜は、小さい悲鳴をあげた。知夜の目が、俺の方を見ている。助けてくれって訴えている目だ。大丈夫だと、俺はジェスチャーで知夜にハンドサインを送った。友達の姉ちゃんだ。安心してくれ。
「体型も細身でよし、顔もよし、これは、コスプレイヤ―の原石ね! 嫉妬を覚えるわ!」
涼香は、腰に手を当てて、大きめな声で言った。
「あのー、遼のお姉さん」
「涼香でいいわよ」
「涼香さん。あそこで、何か作業している二人はだれですか?」
どうしても、気になってしまった。あの二人誰なんだ。
「あれは、私のコスプレ仲間。今日は、アシスタントをしてくれるわ。光の調整とか、カメラを撮ったり、小道具を用意したりね」
「なるほど、アシスタント」
だから、作業しているのか。コスプレの撮影って言っても、ただ撮るだけじゃないみたいだ。手間と労力が、かかっている。
「よし、『善は急げ』って言うわ。遼と蒼君は、一回部屋から出てくれる? さすがに男子がいる前で、着替えさせられないわ」
「わ、わかりました」
「姉ちゃん、終わったら教えてくれよ」
涼香の言う通りに、俺と遼は部屋を出た。その後、どうなるか内心、楽しみであった。
三十分ぐらい経つが、着替え終わった気配がない。知夜のコスプレは、どうなったんだろうか。すぐ終わるかと思っていた、コスプレの準備だが、俺の予想より時間が、かかっていた。ここまで、待たせられると気になって仕方ない。
「姉貴、力入れているなぁー」
遼は、スタジオの廊下にある椅子に座りながら、天井を眺めている。
「普段は、どれくらいかかるんだ?」
「コスプレするキャラによる」
「そうか」
俺も遼の隣に座って天井を眺めた。一旦、俺も落ち着こう。しばらく、黙って遼と同じように天井を眺める。
「お待たせー!」
扉が開き、遼の姉ちゃんである涼香が、顔を出した。終わったのか?
「姉貴、終わったんか?」
「もちろん、ばっちりよ!」
涼香は、親指を立てて、笑顔で言った。
「蒼、行こうぜ」
遼の後について、スタジオに入る。知夜のコスプレが、どんな感じなのか、期待で胸がいっぱいだった。
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