そうだ、彼女の性格を変えたらいいじゃん
「蒼、おはよう。え、どうした、その顔!?」
朝教室に入ると、俺の顔を見た遼が驚きの声をあげる。俺、そんなにひどい顔しているのか。
「いろいろあってね」
「いろいろありすぎだろ。徹夜明けでも、そんな顔しないぞ」
遼は、そう言って、俺の顔を写真撮って見せる。写真に映っていた自分の姿は、青白い顔に、目のくまが濃く強調され、殴られた後みたいな顔になっていた。自分で、自分の顔を言うのもあれだが、ひどい顔している。
「話せる内容なら、俺が、相談に乗るよ? 俺に言ってみな」
遼の言葉を聞いて、俺は今までの事を全部話した。
「お前、彼女いたのかよ。しかも相手は、美人と話題の黒井知夜。文春砲待ったなしだぞ」
「昨日のことより、そこかい」
「いいか、こういう大事なのは、第一の友である俺に言ってだな。まぁ、これは後で良い」
「なぁ、なんか助言ないか」
「結論を言うと、お前の彼女は極度に自信が無さ過ぎる」
「自信がない?」
俺が首を傾げると、遼は携帯で何かを打ち始める。
「自信がない女子の特徴は、いつもネガティブであり、感情の浮き沈みが激しい。さらに束縛気質とか、いろいろ特徴がある。これが悪化するとメンヘラ、ヤンデレと言った危ない行動をする女子になる」
遼が言う全部当てはまっていた。知夜は、自分に自信が持てない女子なのか。
「俺は、どうしたら良いと思う?」
「とりあえず、今日は学校終わったら休め。土日も挟むから、しっかり休んで、頭の中をスッキリさせて考えろ」
「わかった」
「アニメやら、ドラマ見て、ゆっくりしてな」
その日、俺は遼に言われた通り、家でゆっくり休むことにした。
その日の夜。今朝の電話があったせいか、知夜からの返信は落ち着いていた。そして、『疲れたから、早めに寝る』というメッセージが来て、今日のやり取りは終わる。
「何しよう」
いざ、休むと意識すると、なにしていいか、わからなくなった。動画配信アプリを使って、アニメでも見るか。中学校の頃、一時期アニメにはまっていたが、高校からは全くと言っていい程、見なくなったな。
「今、何流行っている?」
とりあえず、ランキング上位に入っているアニメを見る。タイトルは『許嫁で嫁が選べないなら、自分の理想の嫁に育てることにした』、変わったタイトルだな。とりあえず見てみるか。内容は、許嫁で結婚が決まっている主人公が、嫁を自分好みの女性に変えるって話だ。
「面白いな」
あっという間に一話を見終わってしまった。もう一話見よう。
「ははは! 嫁の手料理に文句言って、家出禁されている。面白いな、このアニメ」
物語が進んで行くと、最初は反抗的だった許嫁も、主人公の優しさを知る事で、主人公に褒められるように家事とか頑張るようになっていく。自分勝手な主人公も。許嫁に対して、無理にできないことを、やらせないように気を使うようになった。
「人って変わるんだな」
人って、変わるのか。人は変わる。変わる。
「そうだ!」
なんで、こんな初歩的な事を思いつかなかった。知夜が、自信持てないなら、それを治せば良い。自信が持てる女子にすればいいんだ。
「でも、治すって、どうすれば治る?」
とりあえず、携帯で『自信が持てる方法』と検索してみる。
「心配をかけないようにする。気持ちをしっかり言うのが大切か」
だけど、いきなり治せとも言っても、目標地点がないと知夜が迷走してしまうかも。ゴールがあれば、改善点とか見つかりやすい。そしたら、モデルになれる性格の人を見つけないと。
「モデルの性格か、誰にしよう」
どんな性格が良いのか全く思いつかない。思いつかないなら、探すしかない。土日の二日間を使って探してみせる。自分の理想である女性を見つけ出すために。
「もっと、いろんなアニメのヒロインを見てみよう」
その後、いろんなアニメを見続けた。そして、土日になっても、様々なアニメを見続ける生活を送った。全ては、知夜に自信を持ってもらうために。
「よぉ、蒼! 元気そうじゃん」
月曜日に入り、いつものように朝、教室に入ると遼に話しかけられる。
「気分転換したか?」
「おかげさまで、ばっちりだ」
遼の前で、通学カバンを机に下ろし、一枚の折られた紙を取り出す。まずは、この二日間で、俺が立てた計画書を遼に見せよう。
「なんだ、それ?」
「計画書だ」
「計画書?」
遼が見えるように、折られた紙を広げた。そして、その紙の一番上に書かれていた項目に指さす。
『自信がない彼女をラブコメのメインヒロインにさせる作戦』
遼は、口を開けたまま固まっている。さては、俺の完璧な作戦に、驚いているのだろう。こんな、抜け目のない作戦を考え抜いた、俺を褒めたい。
「これ、本当にやる気か?」
「もちろん。完璧だろ?」
「う、うん。やってみな、前人未到すぎて、想像つかない。てっきり話し合って、これは辞めてねって感じになるかと。それでも、折り合いが、合わなかったら別れるかと思った。まさか、彼女の性格を改造させる方にいくとは」
「別れる? 何を言っている。知夜以外の人と付き合う未来なんてない」
これは、知夜と俺が幸せに付き合っていくための計画書だ。この計画が達成した時は、世界で一番幸せなカップルで、有名になっているはずだ。
「正義と悪は、紙一重ってこういう事か。真っ直ぐな心って、怖く感じる時があるな」
遼は、頭を抱えながら言った。だが、俺は友人に飽きられようが、止まるつもりはない。
「なぁ、一つ聞きたい事が、あるけど良いか?」
「ん?」
「付き合ってから、お前達会っているか?」
「あ」
大切なことを忘れていた。俺と知夜、付き合ってから会ってない。やばい、連絡が取れているだけで嬉しくて、満足していた。会うって行動をしていない。
「そんなことだと思った。それは、知夜ちゃん怒るよ」
「どうしよう」
「どうするも何も、一緒に帰ろうとか誘ったら、いいんじゃないか?」
「恥ずかしい」
「乙女か。そんな、漫才みたいなことしないでいい。まず、この場で、この瞬間に知夜ちゃんと会う約束をしろ」
遼の言われた通り、携帯を開いてメッセージを打つ。
『今度、帰りに、どこか出かけない?』
送信する前に遼に見せる。これで、いいのか不安だ。
「どこか、おかしい所あるか?」
「特にないな。てか、さっきまで自信あったのに、行動に動かすってなったら、自信なくなるなよ」
「考えるのと、行動するのでは違うんだぞ」
「胸張って言うなよ。ちょっと、携帯を貸せ。ほら、送るぞ」
遼は、俺が持っている携帯をとって、送信ボタンを押した。
「ちょ、えええ! 待ってよ! まだ、心の準備が!」
「知夜ちゃん、返信まめだね。ほら、もう返信きた」
まじか。慌てて、遼の手から自分の携帯を取り戻す。どんな返信が来たのか、確認しないと。
『うん! いつにしよう?』
ここ数日で、一番元気の良さが伝わる返信だった。
「ここ数日で一番反応が良い」
「ほらな。知夜ちゃんは、蒼が、誘ってくれるのを、ずっと待っていたんだよ」
「そうなんだ」
「この計画自体、良いか悪いかは置いとく。もし、計画を実現させたいなら、今以上に積極的にならないといけない。それに、知夜ちゃんの不安定な性格を考えると、失敗したら、この前みたいになるからな。彼女を傷つける事も、あるかもしれないって事だ。覚悟あるのか?」
確かに、傷つける可能性も、あるかもしれない。俺も傷ついて、知夜も傷つけてしまうかもしれない。
「それでも、俺は人生で初めて、できた彼女には自信を持って過ごしてもらいたい。特別な人なんだ。それに、この問題を今避けても、絶対にぶつかる時が来る。なら、今のうちに向かい合いたい」
本音を遼に言った。
「それだけ、本気って事か、わかった。俺も蒼の作戦に協力するよ」
「遼」
「ただし、条件がある。今回の作戦だけ、俺が指揮するからな。最初は、大事だ。客観的に見て、良いと思った作戦でいこう」
「うん。わかった」
遼は、俺の計画書を見始める。休みの日に勢いで書いたから、今になって恥ずかしくなってきた。何か、変な事は書いていないだろうか。
「いろいろ非現実的な事も書いてあるけど」
「あるけど?」
「この真ん中に、書いてあること、良いね」
遼は、計画書の真ん中に書いてある項目に指さした。
『自信の持たせ方、その二。地球上の誰よりも彼女に優しくして、不安を取り除こう』
確か、この項目はネットで見た記事を参考にしたやつだ。
「これが、良いのか?」
「あぁ、これなら、知夜ちゃんも傷つくことがない。いきなり、ハイリスク、ハイリターンを取るのではない。ローリスク、ローリターンだ」
「わかった。ローリスク、ローリターンだな」
その言葉を心に刻んだ。ローリスク、ローリターン。まずは、少しの変化で、知夜を変えていく。俺は、遼という、頼もしいサポートを仲間にした。これ以上、心強い味方はいない。こうして、『自信がない彼女をラブコメのメインヒロインにさせる作戦』が始動した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます