何で、怒っているの?

 頭が真っ白になってしまった。俺が、今日遊んだのは、仲が良い友達だ。女性でもない。なのに、そのメッセージには、『私以外の人と遊びに行かないで』の文字。知夜は、なんで怒っている。原因が、思いつかない。


『今日遊んだのは、中学からの友達だよ』


『ダメ』


 まるで、別人と会話している感覚だった。違う人と連絡をしているのか、不安になり連絡先を見る。『黒井知夜』、確かに彼女の名前だ。


『何か、あったの?』


『何も』


 それは、嘘だ。明らかに、何かがあった。そして、その原因は、恐らく俺の事。記憶を振り返ってみる。様子がおかしくなったのは、『今日の放課後、友達とご飯食べに行って来る』って、メッセージを送ったあたりだ。知夜に相談すれば、良かったのか?


『知夜に聞いてから、行けば良かった?』


『ただ、遊びに行ってほしくなかっただけ』


 会話の内容が、綺麗に一周して戻って来た。ここまで、綺麗に戻ってくると、さっきまでの会話内容の意味ない。その後も、家に着くまでメッセージを送って、機嫌を直そうとしたが、直らなかった。気遣いなのか、慣れない会話をしたせいなのか、わからない。気づいたら夜になっており、知夜と連絡を取り合っている間に寝てしまっていた。



 次の日。


「ん、寝ていた。ここは?」


 体を起こして、辺りを見渡す。散らかっている勉強机に、床に放り投げられている漫画本、自分の部屋だ。部屋の壁にかけられている時計を見ると、朝の六時を指していた。普段は七時に起きる。いつもより、早起きだ。昨日何していた。


「あ! 知夜!」


 記憶が一気にフラッシュバックした。そうだ、昨日知夜と連絡を取り合っている最中に寝落ちしてしまった。慌てて携帯を取り出し、画面をつける。


「通知件数。百十三件!?」


 ありえない通知件数を、携帯が記録している。昨日一晩で、何が起きた。慌てて、メッセージアプリを開く。百十三件中、百十件は、知夜からだった。


『私と連絡するの、嫌になった?』


『私のこと嫌いになった?』


『話すのも嫌になったの?』


『こんな、私で、ごめんね』


 俺の机って、引き出しの中にタイムマシン備えているっけ?


「やってしまったー!」


 ベッドにある枕に顔をうずめて、叫ぶ。完璧にやらかした。一晩で、知夜のメンタルを壊してしまった。最後にやり取りした内容は、どんなのだっけ?


『俺は、どうすればいい?』


『自分で考えてよ。私のことを考えるの、嫌になったの?』


 これが、最後にした会話。とんでもないタイミングで寝てしまっている。もし、昨日に戻れるとしたら、寝ている自分のことを絶対に叩き起こしている。


「何しているんだ、俺―!」


 再び枕の中で叫んだ。目にするのが、恐ろしいけど、その後のメッセージも見ないと、知夜に謝れない。震える手で、メッセージをスクロールさせる。


『ねぇ、本当に嫌なの?』


『私、怒るよ!』


『本当に怒るよ!』


『ねぇ、ごめん。言い過ぎた。仲直りしよ?』


『仲直りも嫌なの?』


『蒼君ごめんね』


 俺が寝て十五分の間に、知夜による感情のジェットコースターが巻き起こっている。これって、どうするのが正解だ。思考回路を必死に巡らす。


「とりあえず、謝ろう」


 俺は、メッセージに文章を打ち始める。謝るのが先だ。


『ごめん、寝ていた』


 違う。


『寝落ちして、ごめん』


 これも、違う。


『ごめん気づいたら、寝ていた。でも、知夜の事が好きだよ』


 これは、気持ち悪すぎる。自分で文章を考えておいてなんだが、この文章は生理的に無理だ。


「ダメだー! 思いつかん!」


 仰向けになって、天井を見る。時間を見ると、六時半になっていた。


「電話でるかな」


 ここは、自分の言葉で話そう。文字を考えるより、言葉で話した方が気持ちも伝わる。重い指を動かして、通話ボタンを押す。


「頼む、出てくれ」


 コール音が、何回か鳴り響く。コール音が繰り返される度に、心臓の鼓動が大きくなり、喉に渇きが出始める。頼む、電話に出てくれ。


「もしもし」


 コール音がとまった。そして、次に鼻をすする音が聞こえて、かすれている声が聞こえた。泣いているのか? でも、この声は知夜の声だ。慌てて、ベッドから、飛び起きる。


「電話にでた! ごめん知夜、昨日途中で寝ちゃって!」


「嫌いじゃない?」


「え?」


「私のこと、嫌いになってない?」


「き、嫌いじゃない」


「面倒くさい女だと、思ってない?」


「思ってない」


「私のこと好き?」


「好きだよ」


「私も好き」


 電話が途切れた。携帯の画面を見ると、約一分の通話時間が記録されている。


「わ、わかんねー」


 再び、ベッドで、仰向けになって天井を見た。本音が出てしまった。なんだ、これは、悪夢なのか。それにしては、現実味がありすぎる。


「痛っ!」


 手の甲を、つまんでみるが、痛みを感じる。悪夢じゃない、現実だ。何も考えることが、できない。俺は、放心状態のまま高校に行く準備を始めた。


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