3話 人生をかえる誕生日

やるぞ


私はやらなければならない


8月3日私の誕生日。24歳になったのだ。

私は宝くじを買う決意をした。



ちょっと待て、今になって少し恥ずかしいぞ。


誕生日

みんなが思い浮かべるエピソードはなんだろうか。


友達とパーティー

彼氏彼女と過ごす

家でゆったりなんかしたり


そんな人生、私にはない

私にはこの大事な大事な誕生日を宝くじを買う、といういつでもできるようなことに費やすのだ。


いや、私は考えた思ったことがある。

今書いたすべてのことは、誕生日だからやることなのか?


友だちと遊ぶ

ゆっくりと一日を過ごす

宝くじを買う


どれもいつでもできることじゃないか。


プレゼントを渡すなんて誕生日じゃなくていい。

人間というの特別な日に何かをするという口実があるから動くことができる。

そしてそれをあたかも特別なことでありその日にやらなければならないと考え行動しているのだ。

プレゼントなんて逆に何もない日に送った方が喜ばれるのではないか。


いや、何もない日に送ったら何かやらかしたから罪滅ぼしでやっていると思われるかもしれない。

それでも送ればきっと喜んでくれるだろう。

誕生日限定というわけではない。


つまり私が誕生日に宝くじを買う

誰かが誕生日に友達、彼氏彼女と過ごす

このことには何も大差がないのだ。


そう思うと少しだけ気持ちが晴れてくる。


行こう。


仕事が始まる前に私は宝くじ売り場に向かった。

この行動をして一つわかったことがある。

宝くじ売り場というものは人の目に付きやすい場所にある。

駅の前や大通りに面した場所

これは非常におかしいことではないだろうか。



だって恥ずかしいじゃないか。



宝くじを買う=人生を運に委ねる

当たらないことに必死になっている


そんなふうに他人から見られてしまうではないか。


そんな中で幾度と宝くじ売り場に行き宝くじを買う人は非常に肝が座っていると私は考えた。


彼らはプレイヤーなのだ


バラを買えばいいのか、連番を買えばいいのか。


何枚買うのか


宝くじ売り場で宝くじを買うその瞬間まで策略を練り、他人の目があるなかで枚数を告げる。


定員からは当たりますようにと応援されその場から退く


その場面を想像した時、私にもそのプレイヤーの血が騒ぎ出したのだ。


バラを14枚

連番を10枚

合計24枚。誕生日の枚数買おう。


買った瞬間にすぐにカバンに入れその場を何もなかったかのように駆け出す


そうすればその場にいた人間には

こいつ買いやがった、、

と思われるかもしれないが、その他の人間にはただの人として見られる。


私はプレイヤーだ

考えるな感じろ

そうして私は宝くじ売り場のネクストバッターサークルに立った。



恥ずかしい。やっぱり恥ずかしいぞ。


まだ宝くじ売り場の正面に立っていないにも関わらず、ただならない気をあの店から感じてしまう。

この場から立ち去れば全てから開放される

逃げたい逃げたい

そう考えている間に遂に私の購入する番になっていた。


宝くじ売り場の中から見える視線


それには少し優しさが見えた。


きっと私の緊張が伝わっていたのだろう。


宝くじ売り場のおばちゃんはプロである

私の緊張をほぐすかのように

何を買いますかと優しく声をかけてくれた。


はっと私は今やらなければならないことを思い出し、

れ、連番を10枚と

バラを14枚くださいと伝えた

連番10枚とばら10、、、14枚


やってしまった、、、

売り場のプロでさへこの変化球は少し難しかったようだ。

これがビギナーズラックというやつか。とくだらないことを考えながら

はい、14枚でお願いしますと答えた。

すぐさま計算し料金を告げられた。

私にはその料金が見えていた


だからこそ華麗にピッタシの料金を渡し、宝くじ購入のプロと思わせるように素早くそして凛々しく立って見せたのだ。


そして宝くじと応援のメッセージを貰いお礼を言って渡しは今までに出したことのない速さでカバンに宝くじをしまった。


一件落着。


私は買ったのだ。

私が今まで成し遂げることができなかったことを24歳の私はやり遂げることができたのだ





何をやっているんだ私は、、、


終わった瞬間、胸の真ん中にポッカリと穴が空いた気がした。

当たらなければ、まあ何も手に入らない

これがもし当たったらたしかにお金が手に入る。


お金が手に入ったところで、私の24歳の誕生日というものは返ってくることはない。



私は人に誕生日を教えるのが嫌いである

誕生日になるとプレゼントをくれる。

確かに嬉しい。


嬉しいのだが、そこには私の誕生日にはお返しを頂戴ねというメッセージが込められているのではないかと非常に考えてしまうのである。


このお返しの連鎖が私は縛られている感じがして非常に嫌なのである。

だから私は誕生日を聞かれても答えないようにしている。


お返しがしたいと言われても私はもらうのが苦手だからときっぱり断る。

そのため私の誕生日を知っている人間は家族か、今まで付き合ってきた彼女しか知らない。そして私は誕生日に友達とパーティーをしたことは一度もない。


それでいいと思っていた。前日でも次に日でも一週間後でも一ヶ月後でも誰かと合って楽しい思い出ができればそれでいいじゃないかと思っていた。


ただ今回は違った

この心の穴を誰かに埋めてもらいたいと感じてしまったのだ。

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