王子と姫
「ところで、それを着てもらった理由なんだけどね。」
王子様は、私の頭から手を放すと、私の頬を包むように、両手で挟んだ。
「石灰さんは、おとぎ話のお姫様で、誰が一番好き?」
柔らかい微笑み。それを、かわいいと思えなくなった私は、理由なく目を逸らす。
「……し、シンデレラ。」
「ああ、確かに、ぽいよね!」
「それは、私が『石灰』だから?」
声のトーンを上げて笑う彼に、私は不満を滲ませるように聞いてみる。彼は想定外だとでもいうように、少々わざとらしく頬を膨らませた。
「違う。それは関係ないよ。……っていうか、”雫石”は『天澤』になるんだから、苗字なんて関係ないし。」
当然のように言い切った。愛おしい、彼。
「難しいこと考えないでよ。僕は、ただ、ただ、望むものは一つだけなんだから。」
王子様は、私の耳元に口を近づけると、私の頬に一つ、キスを落した。
「君がシンデレラになってくれるなら、僕はどんなところからでも、君を一人見つけ出すよ。その自信がある。」
にっこりと笑う彼。その顔に、また愛おしさが募る。この時の私は、彼の学校での立場を、完全に忘れていた。
「……ミヤビ?何してんの?」
もう夜に近い廊下の向こうから、声が聞こえた。クラスメイトの、女の子。私と王子様を、しっかりと両目に抑えていた。
「……ミヤビ?」
彼女は、私と王子を見つめて、悪夢に侵されたような顔をした。
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