抑えないから。
別に、王子と呼ばれることに不満はない。
そもそも、昔から形作られた性格や振る舞いだから、変えたくても、今更変えることが出来ないから、成り行きで人に囲まれているだけだ。
それに、王子だと呼ばれることは、つまり、そういった形で、僕を好いてくれる人がいる。そう、思うことが出来るから。
「でも、貴女には、そう思われたくなかったんだよな……。」
彼女は、僕を近くに認識してくれていない。別世界の人間だと、思われているのかもしれない。
そうじゃない。僕は、君が好きなんだ。隣にいてほしいのは、君なんだ。
「誰の寵愛も、手に入れる……?」
彼女の言う『誰の』とは、『不特定多数の』という意味だろう。分け隔てなく。そう言いたいんだろう。
そうじゃない。僕は、
一人を好んではいるけれど、誰かと会話することを嫌っている訳では無くて、実は世話焼きで、人を大切にできる人。
誰よりも素敵な人。そんな彼女に、『他人だ』と突き放されたような気がして、ならない。
「……天澤、君。」
着替えてきたらしく、教室のドアを一枚挟んだ向こう、恥じらいを含んだ彼女の声が、聞こえてきた。
……仮に、僕が『王子』だというのなら、僕は彼女を、『姫』にまで引き上げて見せよう。彼女の手をいつでも取るために、何があっても左手を空けておこう。
僕は、彼女の姿を見るために、ドアの取っ手に手を掛けた。
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