あざとい王子VSクールガール

 ……あのあと、王子様はなんと一日で全快し、直ぐに私の家から出て行ったのだが、眠る前に、私の声を聞いていたらしく、よく花壇へ遊びに来るようになった。しかも、私が移動しようとすると、裾を掴んで止めてくる。

 かっわいいなぁ、コイツ……!

 潤んだ瞳と、白い肌。王子様の可愛さに悶える日々。

 そんなに近づくと危ないよ?貴方は分かっていないようですけど、私、いつでも貴方を押し倒して抱きしめること、可能ですよ?

 何なら、ワンピースとか、もこもこの部屋着とか着せて、私のスマホの写真フォルダを彼だらけにしたい。女装だってコスプレだって、大歓迎。欲望、煩悩、万歳だ。

 教室内では、私達が会話をしているということも気取られないようにしている。ボッチの私と、学校の王子様。そこに関係性があると分かったら、私も彼も、良くない意味の質問攻めにされるに違いない。王子様もそこは分かっているらしく、校舎内では私に話しかけてこない。

 モラルがあるというべきか、持たなければならなかったというべきか。まあ、とにかく、私は二人きりの時に、彼を愛でることが出来ればそれでいい。

 なんだか、お気に入りの縫いぐるみを見つけたように、ほくほくした気分だった。


「文化さーい、うちのクラスはお化け屋敷っス。マジできょー力してくんないと終わんないんで、頼んますよー。」

 やる気がない、というか、やる気という概念を知らないんじゃないかとさえ思わせる実行委員が、夏休み期間の手伝いの案内を始めた。

 ……正直、めっっっちゃ行きたくねぇ。私なんかがノコノコ手伝いに行ったって、棒立ちで終了しますよ?サボろっかな。

 でも、こういう時、陽キャは面倒なのだ。行ったら「どうして此処にコイツがいるんだ」と言うくせに、行かないと「なんで来てないんだ」になる。

 お前らは、一体どっちがお望みか?邪魔なら行かねぇし、来いと言うなら行くんですけど、はっきりしてくれませんかね。

 王子様は、どうせフル稼働なんだろうな。予定がなければ引っ張られる。そして、『協力的でいい人』な称号を得る。

 苦労人だねえ。だからこそ、ストレスも貯まるんだろうけど。

 窓の方へと目を向けると、はじめて、教室で、王子様と目があった。彼は、とても嬉しそうに笑うと、黒板を指差し、『や・る?』と口パクで聞いてきた。

 ……はい、かわいい。そんなことされて、断れるかい。

『い・き・ま・す・よ。』

 私も口を動かして返すと、王子様は、周りには悟られないようにしながらも、微かに頬を赤らめ、口元を手で覆い、ニッコリと笑った。

雅緋みやび、どしたー?」

「あっ、ううん、なんでもない。昨日のテレビ思い出しちゃって!」

 王子様は、実行委員に笑顔の理由を尋ねられ、その場で取り繕った。

 ……そろそろ、色々耐えられなくなるかもしれない。

 私は、彼の可愛らしさに目をそらしつつ、叫ばないように唇を噛んだ。

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