第16話 連続殺人の真相

「濡羽、ちょっといい?」


 紗羅師匠に呼ばれる。


「はーい。なに?」


「今回の黒幕は誰だと思う?」


 来た、と思った。昔から彼女は私に考えさせ、答えを導けるように育てている。


「一議員だけにできる犯行ではない。かといって大規模な動きが見えるわけではない。つまり、ある程度力を持ったこちら側の人間が複数名関わっている」


「うん、惜しいかな。関わっているのは……駛瑪はやめ家。有名でしょ?」


「その言い方は嫌味じゃない? 師匠」


「そ、濡羽の実家だよ」


「なんで今更?」


 うげぇ、とでも言いたげな表情で紗羅を見つめる。


「さぁ? 良くも悪くも有名だからねー」


「駛瑪家のルール。刺客を差し向けた人間からの呼び出しには必ず応えなければならない」


 つまり売られた喧嘩は買えということだ。仕方なく、手紙を出すことにした。


 手紙を出してから一週間後━━━━。とんとん、家のドアノックが鳴る。


「今出ますのでお待ちください」


「久しぶり~! 私の妹」


 ハグするのは金麹色の髪を巻き、男好きのするプロポーションの"女らしい"雰囲気の女性。瞳は金茶。しかしその手は短刀を突きつけている。少女とて丸腰ではない。握ったメスを背中に当てている。


「離れてください」


「冷たいなぁ。君のお姉ちゃんなのに」


「で、何用ですか?」


「刺客のこと?」


「はい。何のためですか?」


「実力を図るため。母さんと父さんは今オーストラリア住みでね。もし、君が有用な人材なら実家に戻ってほしくてね」


「勝手な。貴女好みの男でも漁ってさっさと帰ってください」


「えぇー? 折角来たのにー?」


「あ、犁柘。ちょうど良いところに」


ねえさん、この美人誰だよ?」


「姉(?)らしいよ」


「こんにちは。私は炬羽きょう。駛瑪炬羽だよー」


 犁柘は彼女に目を奪われている。確かにこの女らしい美しさというのは私と似ても似つかぬところだ。どうやら炬羽も犁柘を気に入ったらしい。


「連絡先交換しよ?」


「へ、はい」


「やったー。よろしくね、犁柘くん」


 筋肉あるねー、と腹を撫でられれば顔を赤くする。身体を寄せられてその豊満な胸があたれば鼻の下を伸ばして見つめている。


あー、被害者だ、と内心気の毒に思う。だってこの女、年下男子を好みだからと連れ帰る気だ。私を好きになるよりマシかもしれないが。


「犁柘、がんばれよ」


「え、うん」


「じゃあ帰ろうかなー。犁柘くんもくるー?」


「あ、はい!」


「ばいばーい」


 うわ、マジで7歳下の男(学生)を連れ帰った、とドン引きの少女。一応連斗にも教えてやるか、と思いLI○Eを打つ。


 とんとん、とドアノックが鳴る。


「入っていいよ、開いてる」


「濡羽さん、犁柘の話本当ですか?」


「残念ながら。簡単にオトされてたね、あれは」

 真顔でうけるー、と呟く。


「全くうけてないじゃないすか」


「まあねー、あのひと怖いから。どうしよっか、彼奴」


「適当に帰ってくるんじゃない?」


 まぁねー、と言いつつ濡羽はベッドに寝転ぶ。


「あ、達也からなんか渡されてない?」


「これでしょ」


 エジプトガラスの香水瓶のようなものを取り出す。紫を基調とした金の飾りがあしらわれた一品だ。しかし中に入っているのは血を遥かに凌駕する赤黒さとおどろおどろしい紫の混じり合う液体。


「前より色やばくない?」


「これいつ作られたの?」


「500年前。腐ったりとかはないみたい。猛毒だしね」


 これが灰塵か……と思って連斗が眺めていると少女がサンプルを取り始める。


「誰に盛るの?」


「それは内緒だよ」


 薄紅の唇に指先を当てる姿は、楽しげでありながらもほんの少し恐ろしさを帯びていた。


「しかし困ったなー。絶対犁柘死んでるー」


「助けてやれば?」


 達也が言う。濡羽はうんうん唸ったままだ。


「だってさ、炬羽のとこだよ? 行きたいわけないじゃん。マジで嫌だ。というかあいつの自業自得だろ」


「でもな、あれでも連斗の友達なんだぞ」


「仕方ないなー」


 一応見てくるよ、と残して立ち去る。


 ぴんぽーん。豪邸にチャイムの音が鳴り響く。銀髪を風に拐わせたままに。


「おい、来てやったから早く出てこい」


「いらっしゃーい♡実家に戻る気になった?」


「犁柘の回収のためだよ」


「犁柘くん、濡羽が迎えに来てるけどー」


「姐さん、久しぶり!」

 なんだかキラキラと輝き、幸せオーラ全開だ。


「あんた……本当に犁柘?」


「そうだけど」


「炬羽に何されたんだ?」


「色々していただいたんだ」


「連斗が心配してるよ」

 瞬時に少女が距離を詰め、犁柘を抱えて走る。


「私が逃がすと思ったー?」


 早、と思いつつも師匠と比べる。いや、あっちのほうがヤバいと内心笑う。しかし追い付かれる。


「犁柘を返す代わりに、私が実家に戻る……」


「いいよー」


「と言うとでも?」


 犁柘を放り投げ、炬羽と向かい合う。負けるだろう、と思いつつも"時間稼ぎ"に集中する。 攻撃を避ける、無駄な弾を打つ、延々と続くような戦い。実力差は大きい。だが技術面では互角かそれ以上であると先程までは感じていた。そう、少し前までは。


「そろそろ本気だそうかな~」

 速さが急激に上がる。


「ッ!?」


 目で追えているだけ凄いんじゃないかとすら思う速度。


「後は任せていいよ」

 少女の瞳に美しい白髪が映った。


「ありがと、師匠」


 犁柘を抱えて走り、医院に戻ると釉翡が待っていた。犁柘を隣のベッドに寝かせ、自身は釉翡のいるベッドに寝転ぶ。


「疲れたー」


「お疲れ。紗羅さんは?」


「まだ炬羽のとこぉ……」


 うとうとと座っている釉翡の膝に頭を乗せる。眠ってしまったらしく、足に抱きついている。釉翡は何かに耐えるようにぷるぷるしている。15分ほどたつと、


「んー、ふうがぁー」

 寝言で凮雅の名前を呟く少女。


ねえさん、凮雅さんのこと親友って想ってないだろ?」

 苦笑する釉翡。


「んなわけないでしょ」


「起きてた?」


「昔、一緒にいたときは凮雅に寄りかかってよく寝てたから」


「それ、付き合ってる奴らのやることじゃね?」


「私の"親友"に嫉妬?」

 ふふ、と笑っている。


 銀髪をシーツに游ばせて、釉翡の膝でごろごろしながら。


「釉翡の匂いがする」


「姐さんは大事なとこ抜けてるよ」


「あんたは髪が抜けてるけどね」


「酷ッ、抜けてねぇよ」


 明るい笑みを零す2人の横でぐったりしている、犁柘だった。



 現在公開可能なキャラクター情報


 駛瑪炬羽はやめきょう

 金麹色の髪を巻き、凹凸に富んだプロポーションの"女らしい"雰囲気の女性。瞳は金茶。駛瑪家長女であり、濡羽の姉。





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