第15話 番外編・凮雅と濡羽・日常

 ※こちらのお話は濡羽目線となっております


 凮雅は7年前、師匠から紹介された死体処理の業者だった。修行として暗殺業もおこなっていた時代だったので、自然と接点は多く話す機会もあった。


 出会って数ヶ月たったある日。


「凮雅はなんでこの仕事してんの? 事務も向いてるんじゃない?」


「家の関係で、ちょっと」


「別に根掘り葉掘り聞くつもりはないけどさ。欄宮っていえば名のある家だからね」

 気になっちゃって、と笑う。


「別に深い理由じゃない」


 凮雅も微かに笑む。打ち解けた二人は行動を暫く共にしていた。


「終わった。こっち頼んでいい?」


「ん、回収済んだ」


 暗殺に明け暮れる毎日は少し彩りを増していた。そんな中、ロンペルやコシュマールとも関わる機会もあり、徐々にこの世界に馴染んでいくような気がしていた。


 そして、そのきっかけとなった凮雅との出会いを大切に思っていた。クールですん、とした雰囲気に比べ、性格は柔らかい。共に過ごすのも居心地がよかった。


「濡羽は人が助けを求めていたら、助ける?」

 唐突に問われた。


「助けるけど。どうしたよ? なんかあった?」


「この間、濡羽が殺した奴の踊り子? が他の男の手に渡って売り捌かれている」


「助けてやれば? ちなみにいくら?」


「1500万くらい?」


 たまに花街の隅では踊り子や、美しい女を売り捌く者がいる。大抵は娼館や妓楼に売るのだがそっちのほうが値段交渉が難しい。安定はするが。


「手持ち、ある?」


「あるにはあるけど」


 若干買うという行為に躊躇いがあるようだった。


「私も行くからさ」


 こうして出店へ向かうと、褐色の肌に整った顔立ちと黒髪を持つ美少女が踊っていた。


「お、買うのかい? いまなら1500万にしとくよ」


 店主が愛想よく笑う。汚いな、と思う。同時に少女は顔を歪めた。


「これで足りるね?」


 札束を叩きつけ、踊る美少女の手をとる。手枷をはずすと、彼女はぱちぱちと瞬きをする。濡羽宅についたところで口を開いた。


「あの、どうすればいいですか?」


「掃除、できる?」


「……? はい」


「凮雅、掃除係として養えば?」


「それは名案。これ、お金。回収した」


「あ、ごめん。これ以上見てられなくて。」


 殺しといたよ、他にはいないみたいだし、と少女は微笑む。


「君、名前は?」


「無いです」


「私がつけてもいい?」


「いいよ」

 代わりに凮雅が答える。


「じゃあラフィア。異国から来たみたいだし。年は15くらいだよね」


「多分、そのくらいです」


 彼女を買ったタイミングで、私は闇医者として生きることを決めた。凮雅はラフィアと2人で仕事を続けるらしい。時々LI○Eで連絡しつつ。


 少女は最も青い時間を親友と呼べる友と過ごしたのだった。



 これはとある日の、何気ない日常のエピソードである。


 その日はコシュマールの4人と茉仁荼やアルージエの2人、そして犁柘が集まっていた。なんとなく、皆でだらだらと過ごすうちに釉翡と瑠禾が言い合いを始めた。


「お前より俺の方がモテるだろ!」


「は? 調子乗ってんじゃねぇよ、自分の立場わかってんのか?」


「表出ろ!」


 にこにこと濡羽は笑みを湛えている。


「お前ら、ここ座れ」

 白く細い指を自身の前のスペースに向ける。


「「はい……」」


「人の家に上がって何してる? お前ら2人とも表出ろ」


 怒っている、というより叱るような調子で。


「久しぶりに潰してあげるから」


ねえさん、そこまでにしとけよ」


 達也になだめられる。


「そこまで怒ってないんだけど」


 若干、不満げに頬を膨らます。周りの人々が苦笑いで少女を見つめている。


「で、なに揉めてたの?」

 透螺が問う。


「どっちがモテるかで、ちょっと」


 視線を反らしながら瑠禾が答える。


「別にどうでもよくね? 告白された回数とか比べればいいじゃん」


「俺30。瑠禾は?」


「15」

 達也と連斗が笑い転げている。


「ちなみに私は22回~」

 呑気に少女が笑う。透螺と玲朱が腹を抱える。


「俺、20!」

 犁柘が言うと瑠禾が射殺さんばかりの視線で睨む。


「瑠禾ちゃん、どしたの?」


 濡羽の問いにくるんと振り向き、きゅるんとウィンクした。


「なんでもないよぉー!」

 

「お前ッ、それはずるいだろ」


 釉翡が大ウケしている。


 なんとなく可愛いなぁ、と思い2人の頭を撫でると連斗と玲朱が羨ましそうにしていたので撫でてあげる。


「あれ、凮雅だ」


「濡羽、久しぶり」


「お久しぶりです。お元気ですか?」


「見ての通りだよ。上がっていけば?」

 ラフィアが丁寧に挨拶する。


「人、たくさん居そうだけど」


「平気だよ、行こう」


「ん、わかった」

 凮雅を知らないものはいないらしい。


「姐さん、付き合ってる?」


「んー、親友」


 だよな、と肩を組む。若干顔をしかめつつ、うなずく凮雅。ちゅ、と頬にキスをする。


「サービス」


「やめろよ、めっちゃ見られてるって。こいつこういうとこあるぞ。気を付けろ」


 クールな凮雅の深刻な忠告にみな神妙な面持ちでうなずくのだった。


「ていうか、今日泊まっていってよ。なんか楽しいことしたい気分だし」


 全員が泊まることになったため、今から大忙しである。


 現在公開可能なキャラクター情報


 欄宮凮雅らんみや ふうが

 死体処理を務める濡羽の旧友。クールで言葉数が少ない。異国から売られてきたラフィア、という少女を連れている。噂によると名のある家の出らしい。海松色の短髪と淡藤うすふじの瞳、濡羽の瞳孔を持つ。


 ラフィア

 凮雅に変われた15の少女。褐色の肌と長い黒髪、紅紫こうしの瞳に京紫の瞳孔を持つ。殺人現場の掃除などを行う。


 あとがき

 最近本編がシリアス調なので番外編ではコミカルないつものキャラクターたちを楽しんでいただければと思っております。これからもどうぞよろしくお願いいたします!

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