第10話 燻る火種
ロンペルに潜む、独りの
妓女として売られたあと、最初に叩き込んだ多くのことは相手の本能を掌握するにたるものだった。彼女━━楼花の整った容姿、男好きのする体型も相まって恐ろしいほどの敵地攻略を行っていた。
遂には最高幹部、四神獣に上り詰める。王手を掛けようとしたそのとき、一人の少女によって水が差される━━━━。
「いやぁ、楼花とやらは凄まじいね」
夜空を飾る、銀髪の少女が呟く。
「主様に対抗しうるとは思いませんが」
サイドを濃紺に染めた、ローポニーに樺の木の瞳を持つ女性。深如という名である。少女の刺客としてきたところを彼女に完膚なきまでに叩きのめされたうちの一人。
「今、あの女は」
声を密める。
「組織内抗争を起こす気らしいね?」
ふふ、と面白い玩具を見つけた幼子さながらに瞳を輝かせる。
「そんなこと、本当にできるんですかねー」
間の抜けた、男の声音。沓耙という名の、深如と同じく少女に付き従うモノ。
「できるんじゃない? だってあれほど強く本能を揺さぶるんだよ?」
まるで体験談を語り聞かせるように。少女は言った。
「おや、主様。体験済かな?」
茶化すのは庚。同じく少女が側に置くモノ。椥は寡黙だ。しかし少女は一目でわかる。人殺しを好まない、優しさと脆さを持つだけだと。
「安心しなよ、椥。椥に殺させる気は無い」
「!? ありがとうございます。主様」
「主様じゃなくて濡羽にしない?」
『濡羽様』
四人で声を揃えた。
「うん、気に入った」
それはともあれ茉仁荼に教えてやらなくては。電話をかける。プルルルル、プルルルルと呼び出し音が鳴る。
「姐さま、どうかしました?」
「楼花は組織内抗争を起こす気だね?」
「あー、その件ですか。んー、いっそ姐さまが四神獣にでもなればいいんじゃありません?」
「それはお断りする。だって私、友達は大切に思っているもの。自分の
「……わかりました。何かあれば連絡します」
「はいはーい。またね」
電話を切ると四人が問う。
「茉仁荼さまはなんと?」
「なんとかするってー。その間に私たちは人身売買続行派の政治家を捕まえないとね」
ふ、と花が綻ぶ。彼女の笑みは艶やかで、美しい。少女とは思えぬような。四人の従者は、目を奪われた。
「これからロンペルは根から腐るでしょうね」
「濡羽さまが言うならそうなんだろ」
庚はある意味真っ直ぐだ。
「ということは組織間の関係も大きく変わってきますね」
深如が紅茶をテーブルに並べつつ言う。
「まぁねー、魅空さまがいるかぎりそこまで揺らがんだろ」
濡羽は達観している。とんとん、とノックの音が響くと同時に少女が言った。
「入っていいよ、開いてる」
釉翡は開口一番に
「
「それにしても娘娘だなんて大層だね」
異国の身分の高い女性を指す呼び方だ。しかし彼女にはどうでもいいらしい。茶化そうと思っていた釉翡には面白がるような笑みが零れる。
「久しぶり、先輩」
連斗が見知らぬ男を連れていた。相も変わらぬ美少女(?)ぶりに苦笑する。連れ立っているとカップルのようだ。
「連斗。そちらはどなた?」
「俺の友達で先輩に会いたいって言うから連れてきた」
「はじめまして、
「はじめましてー、濡羽です」
適当な挨拶。友達の姉がするような。犁柘は枯葉色の短髪とつり目がちの目元を持つ。灰の瞳は冷ややか。 モテるだろうな、という容姿。
「一応俺からも、彼女は俺の姐さん」
「姐さんモテるの」
犁柘がぼんやり問うた。
「んー、人並み」
本人曰く、だ。
「俺のことどう思う?」
「は?」
この質問にもっとも動揺したのは濡羽……ではなく連斗。
「その年頃の女子にモテそう、とか」
貴女だってその年頃だよ、と思う連斗。
「ってことは脈あり?」
ニヤ、と犁柘が笑む。
「さぁ」
「絶対俺に惚れさせてやるからな」
恐ろしいまでの自信を見せて。
「私は、案外鉄壁だけどね。今は楼花が先でしょ」
『御意』
四人は声を揃える。
少女はそっと、瞳を
現在公開可能なキャラクター情報
連斗の友人。負けん気の強い性格だが枯葉色の短髪とつり目がちの目元。冷ややかな灰の瞳も相まってクールな印象を受ける少年。
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