第11話 連続殺人 其の壱
「もしもし、
「やり手婆が殺されたの」
若干の震えが残る声音。妓楼を辞めてから初めて彼女からかかってきた電話。
「始まったか」
「
一言発したきり、少女は何も言わぬまま。
「とりあえず、そちらに知り合いを向かわせますね」
余裕を含んでいた彼女の声が、冷ややかさを帯びている。聡い彼女は何かを察している。ぷつ、と電話が切れる。
「もしもし、茉仁荼? 動きが出たから内部を私が見る。あんたは花街に」
「わかりました。ですが貴女に目星はついているんですか?」
「たぶん
「了解」
茉仁荼が答えると同時に電話を切り、黒いロングコートを羽織る。
流れるようにロンペルに忍び込む。茉仁荼直下の存在であることを示すカード。念のため持ち合わせた上で情報を盗む。そこであちゃあ、と独り呟く。ロンペルの者たちが青ざめている。
「青龍たる
死体は
「凛花……」
その殺し方は凛花を名乗る殺し屋に見られるもの。少女は眉を跳ね上げる。
この死体は私の、ロンペルの、意識を反らすため。なら何が目的?
「彼奴……やってくれたじゃないか!」
地団駄を踏み、悲鳴のように漏れる声。怒気を孕んだ、ふだんの彼女からは想像もできぬ剣幕で。わらわらと集まってくるロンペルの構成員たちには目もくれず、白雨に電話をかける。
「今の状況は把握していますか?」
「あ、あぁ」
「お師匠さまが……殺されたかもしれない」
「は? あの
一時期、闇に咲く一輪花とまで讃えられた彼女が死ぬかもしれないということに。
白雨透螺は絶句した。
紗羅のもとに向かう濡羽。その影でそっと微笑む女に、彼女はまだ気付かない。
同時刻、茉仁荼もまた、苦境にあった。議員のもとまでたどり着いたはいいものの、用心棒5人をひとりで倒すハメになったのだ。
「もしもし、茉仁荼? 師匠がヤバいから戻るけど、そっちに玲朱行かせたから。なんとかよろしく」
「わかりました」
ようやく2人倒したところで視界の隅に、金木犀の長髪が映る。
「姐さまのご指示で僕が来て差し上げました。感謝してくださいませ」
短刀を構え、走り出す。小柄な体躯を活かし、懐から思い切り首を裂く。
「うわ、カオス」
茉仁荼は呟きながら細い鎖で腕をねじ切る。そのまま鎖の先端についた鎌で首を2人同時に落とす。
「ちょっと、貴方! 僕にあたったらどうするつもりなのかしら!」
「俺はミスらないから大丈夫でしょ。ちびちゃん?」
「誰がちびですって?」
こうして奇妙な2人組は敵を打破する。
一方、濡羽は恐ろしいほどの笑みを称え、凛花━━━本名
「紗羅さまはどこかしら」
「えぇ? 今頃死に絶えているんじゃない?」
余裕で答えを言う。
「まぁ、その頃は手前も死んでるだろうけど!」
言うと同時にメスを投擲する。そのすべてを銃で弾かれる。
「師匠があの体たらくで弟子が凄いわけないもの。期待した方が馬鹿だった」
「それはどうだろうね。天才は困難に立ち向かう前に解決するものだから」
「はぁ? どこに目つけてるんだよっ!」
銃弾をすべて回避した少女は笑う。
「ここに誘い込んでるってまだわかってない?」
突如、針が降り注ぐ。
「このくらい、当たったとこでどうにもならないわよ」
数本刺さったままの凛はまだ、"わかっていない"。あと、2分。そのまま対等なふりを続ける。1分。動きが遅くなってきた。
「これ、毒…? 嘘。でもお前も当たる可能性があるんだから解毒剤はあるでしょ?」
「あるわけないだろ。馬鹿か、お前は。いや、これは失礼だね。馬鹿だ、お前は。これは防腐剤の"失敗作"。猛毒というのもおこがましい"何か"。防腐剤を5年続けて服用している私ですら、たぶん暫くどうにもならない」
「防腐剤は?」
「もちろん、ない」
2分経過。さよなら、と言い残して立ち去る。
「もしもし、
「わかった」
まずは、1人。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます