第66話 番外編・波涅紗羅の独白・義姉とその弟子
私の髪色は、異質だ。幼い頃は焦げ茶の髪を持っていた。ある日を境に、雪より雲より白くなってしまっただけで。
波涅は硨畔の側仕えであり、刀だ。
殺しの才を持って生まれた私は、日夜訓練をした。正確にはさせられた、と言う方が良いかもしれない。
初めて人を殺したのは6歳の時。殺した人は底無しの善人だった。裏社会では生きていけないほどに。
当時は良くわかっていないながらに罪悪感に苛まれた。一夜にして頭髪の根元が全て白くなるほどに。
世にある
それを埋めるために、ひたすら勉強して医者になった。家族は何も言わない、言えない。私を越えられないから。
ふらり、悪人らしい悪人だけを殺した。殺しに変わりはない。でも、この死体の元にも死体がある。なら私は殺せる。
毎夜、独りで殺しをし続けた。医者の勉強を始めた時も、その前もずっと。
14の年。従姉妹に会った。魅空の名に恥じぬ、7つ上の彼女は私をこう焚き付けた。
「いつまで燻っているつもり? 気持ちがあるなら友人を紹介しようじゃないか」
既にコシュマールの首領だった彼女の言葉。すとんと胸に入り込む。
「紹介、頼んでも?」
「その顔は気に入ったよ。茉仁荼、出番」
16、7の優男。親しみやすさを持っているが、十分裏社会に浸かっていることがわかる。
「はじめまして」
「はじめまして」
この時、私の人生が特別を得た。2人同時に。彼らの側にいるために闇医者になった。
時折、よくわからない口説き文句を吐き続ける茉仁荼のことも、それを見て爆笑する魅空のことも。その、時間も。
全て大好きで大切なものだった。
それから暫くして2年後、魅空は瓈由比の分家の次男を。私は捨てられた駛瑪の次女を。互いに拾った。
2人が育ち、共に立つ時。私たちの影を見た。濡羽は私よりも強い娘だ。その強さは性格に由来すると私は知っている。
私を越えた、彼の少女に。
義姉さんは優しい人だ。
波涅から追放された男の、娘。彼は義姉を使って地位を取り戻そうとしているように見えた。
母に手を付け、その後放置されていた俺たちを助けてくれたのは本妻の姉である紗羅の母。姉妹揃って囲っただけでは飽き足らない。腐った根性が透けて見える。
義姉さんの母君の名は
今でも俺は彼女を表す言葉を知らない。
炉崋さんは波涅の分家の出。姉と兄が1人ずついる。義姉さんは荒れている時期もそれを隠して優しくしてくれていた。
俺が11の時、義姉さんはとても楽しそうに笑うようになった。多分、友達か何かが出来たんだと思う。
それから暫くして、何の因果か義姉の弟子と会った。詐欺紛いの占いに興味を持ったらしい。
銀髪の、昔の義姉によく似た少女。否、容姿はそんなに似ていない。性格も。恐らくこちらの方が
そう思いつつも惹かれる。うーん、やっぱり似ているのかもしれない。
義姉は良くも悪くも炉崋に似ていない。優しいひとたちではあるが、義姉の方が弱い。
炉崋が持つ、自分の清さを守る強さを彼女は持っていない。代わりに才に恵まれた。
物思いに耽っていると視界の隅に少女が映った。
「どうしたの? 昼、冷めるよ」
「食べましょう」
やはり、紗羅と濡羽は似ていないかもしれない。昼ご飯は創作料理にも関わらず、素晴らしい味だった。
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