第4話 少女が友を愛すのは

「先輩、 あの女の子大丈夫?」


 物影で見ていたであろう美少女━━ならぬ男の娘おとこのこ五十嵐連斗いがらしれんと


「やあ、連斗」


 先輩、と呼ばれた少女がくるりと後ろを向いた。連斗がこてん、と愛らしく首を傾げた。


「最初から気づいてたんでしょう」

 

「お前、本当に美少女ね」


「俺は、男ですから」

 

 そこには少しの悲痛さとそれでいて好きでやっているのだという自己肯定があった。


「そうね、意外と辛そう」

 淡く笑む。


「まあ、そこそこに……」


「私はそういうとこ、好きだけどね」


 くすりと笑みを零している。 一切他意のない言葉になんとなく、惹きつけられた。


「容姿ですか」

 案外弱々しい声が出る。


「んー、 それもある。だけど私は貴方を人として大好きだよ」


 まるで誰かにされたことに伝えるように、自身の気持ちを疑わない芯を見せて。


 その台詞を吐いた少女は。


「で、何用かな」


 いつも通りに笑っていた、何事もなかったかのように。 彼女に、大切な友に、愛が注がれることを願って。だからこそ、今は別の話を。


「今日は髪飾りを見繕って欲しくて」


「この人がおすすめだよ」

 飾り紐とチェコガラスのかんざしを見せてくる。


「でもねぇ、ここのクリエイター、対応がめちゃくちゃに悪いんだ!」


 何故か楽しげに言う。普通に店としては最悪なのに。


「綺麗、ですね」


「そうでしょう? 今度これを参考に私が作ってあげるよ」


 嬉しそうに笑って連斗の手を取る。そのままそっと口づける。


「お姫様は深く考えすぎなくてもいいよ」


 彼女こそ、さらさらと流れる銀髪に濡羽と白藍の瞳、つやめく唇の。姫のように見えた。


「あれ、釉翡が戻ってきてる」


 少女の呟きは静寂に溶け、含みを持って響いた。


 それから3日後━━。


「君、可愛いねー。どこの?」


 慣れた調子で連斗は話しかけてきた明るい茶髪の男に言う。


「俺、男です」

 

「いや絶対女だろ、見た目的にも」


 するとコンビニから出てきた銀髪に扇情的な黒いタイトワンピースの少女が連斗の手を取った。


「この、私の彼氏だから」


「はぁ? んなわけねぇだろ」


 男が睨む。すっと抜いたメスをとん、と頸動脈に当てる。


「いいから、黙って」


 腰を抜かして座り込んでいる。彼女たちは、そんな男に目もくれずに去っていった。


「なんなんだよ、あの化物……」


 そしてそのことをつるんでいる仲間に話した男は知ることになる。どんなに自分が命知らずなことをしたのかを。


先刻さっきは彼女面してごめんねー、困ってたからさ」


「あ、ありがとうございます……」


 鼓動が早い。目の前の彼女が? 俺のモノになるなんて想像もしたことがなかった。


「あ、達也」


 濡羽が叫んだ。


ねえさん、お久しぶり」

 手を振ってこちらに来る。


「兄さん、先輩にナンパから助けてもらった」


 苦笑しつつ達也が礼を述べる。何を言っていいのかわからないらしい。


「弟のことありがとな。コイツも男だから姐さんに守らせんのもあれだが」


「気にしてねぇよ」


 あえてだろうか、言葉を崩した。そしてスマホに目をやり━━走り出した。


「ごめん、今から白雨しらめさんが来るから帰る!」


 ぽかーん、と二人は置いていかれる。状況にも、濡羽にも。


「白雨さん?」


 連斗は首をかしげ、兄を見つめていた。


「……四代目のコシュマールの首領ボス


「え、嘘だよね?」


 医院に戻るとすでに白雨が座っていた。鉄紺てつこんのミディアムヘア、うつし色の瞳、鮑玉の瞳孔。死人のように白い肌と落ち着いた声音。


「久しぶりだね、濡羽」


「お待たせしました。それでご用件は?」


 3日前、戻ってきた釉翡から言われていたこと。首領ボスが話したいらしいから連絡してやってくれ、と。


 今回は長くなるかもなぁ、と思いつつ出した紅茶とフィナンシェ。余計な考えを消すようにフィナンシェをんだ。


 現在公開可能な新キャラ情報


 白雨透螺しらめとうら

 四代目コシュマール首領ボス鉄紺てつこんのミディアムヘア、うつし色の瞳、鮑玉の瞳孔と死人のように白い肌、落ち着いた声音を持つ女性。今年で30になるはずだが歳を感じさせない美しさをもつ。



 五十嵐連斗いがらしれんと


 達也の弟でいわゆる男の娘おとこのこ。恋愛に奥手だが大体器用にこなす要領のよさをもっている。濡羽色の長髪に深紅の瞳と蘇芳すおうの瞳孔の美人。



 あとがき

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