第2話 番外編・武器商人の憂鬱・蒼玉の休日

 ※五十嵐達也いがらしたつや目線のお話になっています


 朝はいつもため息とともにやってくる。寝付きは悪くないはずなのに嫌な夢を見るらしくいつも憂鬱だ。


武器商人というリスキーでありつつも簡単な仕事を選ぶ辺り自分はつまらない、平凡な人間だということを思い知っては心がすさむ。



弟の連斗れんとの朝は早く、起きると完璧な姿でリビングに佇んでいる。


「おはよう、兄さん」


「おぅ、おはよ」


 にこり、と微笑んでいるのは黒い長髪と深紅の瞳、蘇芳すおうの瞳孔の美人だ。


連斗はいわゆる男の娘おとこのこらしく、別に女になりたいというわけではないらしいが美しい方がいいと進んで女装している。


その奔放さが羨ましくもあるがそれを妬むことは無いし、そんなことがあってはならないと思っている。


 何か、揺らがないものが一つでもあれば。そう切望しても得られぬときというのがある。


もう追い詰められて諦めて平凡に生きようと思っていたとき。銀髪の少女━━濡羽ぬればに出会った。


彼女は、闇医者として人を救ってきた。同時に殺してもいるのだろう、闇を感じさせるような影を帯びていた。


そして、彼女は俺が口を開くのを遮った。


「人と自分を比べることよりも自分を見つめて、好きなように生きれば?」


柔らかに微笑んだ。


「なんで俺のこと……」


「見ればわかるよ。その表情。自分が嫌で変わりたいと願いつつも諦めた顔だ」


「俺そんな顔してるのかよ」


 情けない笑みをこぼす。


「まぁ、悩んだらおいでよ。なにせ私は━━医者なのだからね」


 彼女に恋をしたわけでも、頼りたいわけでもない。ただの、隣にいる存在。友達になろう、と思った。本編はこの日から2年後、2人が友人としての物語……。



 ※樺已瑠禾かんばしるか目線のお話です


 久々の休み。寝坊したらしく、時計は10時を指している。


「眠い…」


 あくびを噛み殺してキッチンに立ち、ブリオッシュをトースターに突っ込む。ベーコンエッグを作って、ブリオッシュを回収する。紅茶を淹れてテーブルに並べる。


「いただきまぁーす」


 食べ終わり、今日の予定を考える。ショッピングでもするか、と思い立つ。そういえば濡羽ぬればが髪飾りを新調したいって言っていたから買ってもいいかもしれない。


 紺のパーカーに黒のスキニーを合わせる。サファイアのピアスをいつも通りにつけ、銀のイヤーカフだけ右耳にもつける。


「いってきます」


 ぼんやりと呟き、近くのショッピングモールに向かう。新しい服を買うためにユニクロやZARAを見て回る。


冬用にタートルネックとヒートテックの衣服を購入した。そこで、ちょうど良さげなアクセサリー屋を見つけ、店内を見て回った。


濡羽の銀髪に似合いそうな水晶とブルーアゲートのかんざし。よく簪を身に付けているのでこれにしよう、とレジに向かった。


 何故自分は彼女に髪飾りを買っているのか疑問を持ったが世話になってるし、など考えて0.6秒ほどで放棄した。カフェでボロネーゼを昼食に食べる。


そろそろ行くか、と濡羽の家兼医院に足を向けた。


「濡羽ー、来たよぉ!」


 入ると銀髪をお団子にまとめた少女が出てくる。


「いらっしゃい。何用かな?」


 いつも通りの彼女に微笑みかける。


「前、欲しいって言ってたから髪飾り買ってみたんだ。あげる」


「そうなの? ありがと。欲しいと思ってたんだよね」


少女は小躍りで渡された小包を開ける。


「綺麗な簪だね。似合う?」


 髪に斜めに挿して、くるりと一回転。


「うん、似合ってるよ!」


 わいわい話していると奥から白髪に緩くパーマをかけた女性が出てくる。


瞳は水浅葱みずあさぎ。瞳孔が濡羽色であり、どことなく濡羽に似た雰囲気の女性。


紗羅さらさん、お久しぶりです!」


 紗羅は濡羽の師匠で、幼い彼女を拾った育ての親だ。


「おー、瑠禾ちゃん久しいね」


「元気そうでよかったです。コシュマールうち首領ボスも会いたがっていましたよ」


 ふふ、と意図の読めない笑みを浮かべている。


「そのうちね」


「俺そろそろ帰ります。濡羽、またねー!」


「うん。またね」


 そうして彼の休日は終わった。



 現在公開可能な新キャラクター情報



 五十嵐連斗いがらしれんと

 15歳。達也の弟。いわゆる男の娘おとこのこだが、彼いわく「俺は普通に男」。何でも器用にこなすが恋愛は苦手。


 

 紗羅さら

 28歳。濡羽が5歳のときに拾って育てた師匠。その医術と知識には目を見張るものがあるが過去に何をしていたかは一切不明。

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