第24話 八月二十三日
「あーあ、死にたくなーい」
対戦ゲームをしながら水海は画面に向かってつぶやく。
「いや自業自得ですけど? ……はーあ、もうちょい世界人口減らしたかったなぁ」
「……すごいぶっちゃけるじゃん」
正直引き気味である。
今も好きだが、嫌いな部分を前面に押し出されるとさすがに嫌悪感が勝つ。
「もうすぐ死ぬし、猫かぶっててもしょうがないと思って」
「あぁ、そうだね」
「猫かぶってた方が可愛かったでしょ?」
そう言って彼女は体育座りになり、にっこり笑いかけてくる。
「今もかわいいよ」
「あはは、どうでもいー」
「なんで聞いたんだ……」
対戦は水海の勝ちだった。
「やった、ほら写真撮って! 遺影!」
画面の前に移動してピースしてくるので写真を撮ってやる。そのくらいはいいだろう。
「てか日笠くんはなんで私のこと好きになったの? やっぱ私の儚い系もうすぐ難病で死ぬけど気丈な女の子の演技が気に入った?」
「難病じゃなくて呪いじゃん……そうだな、そうです。そういうことで」
「ちゃんと言ってよもうすぐ死ぬんだから!」
「この人すごいアピールしてくる……」
見殺しにする罪悪感を利用する気満々で怖い。
仕方なしに、正直に答える。
「えーっと、まぁ、そういうのは演技かなって途中からは思ってたよ。だって水海は俺のことすごい憎いはずじゃん」
「そうだねぇ、マジ日笠くんさえいなければなーってめっちゃ思ったよ」
「だから俺に普通に接するわけがない」
「……私の計画最初から破綻してたのか。マジ人間の心ってわかんねー」
水海は落ち込んだように床に伏せる。それからすぐに寝返りを打って仰向けになった。
「ならなんで私のこと好きとか言うの? あれ、もしかして嘘?」
「違う。……演技でも好きだったんだよ。あと、何をしてでも目的を達成しようとする、自由に生きようとするところだけは、俺にはなくてすごいと思ったから」
「あはは、虚構ー」
水海はへらへらと薄っぺらい笑顔をうかべる。
「自由とかマジで嘘だから! 私は人間じゃないのに人間として生きてるフリして、人間たちのご機嫌取りしてて全然自由じゃなかった。だから日笠くんも無理だよ、自由に生きるとか!」
なぜか悔しそうに見えたのは、日笠の空想かもしれない。
「……それでも自由に生きようとする水海を尊敬するよ」
「人殺しを尊敬とか言っちゃだめでしょ」
「そうだね。そこはしてない。だから」
その先はどうしても口に出せなかった。
「言ってよ、つづき」
水海は起き上がって顔を寄せてくる。
「やだ」
「言え。それが日笠くんの義務じゃあないの?」
彼女は責めた。
するどい眼光だった。顔は笑顔のままなのに目だけが歪に硬い。
「……死んでほしい」
言うだけで傷つくなんてエゴだ。これから彼女を殺すのは自分なのに。
「ですよねー、私も日笠くんに死んでほしい!」
それはとびきりの笑顔だった。
なんでもないみたいに過ごせていないのは、水海も同じだった。
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