第7話 過去回想:半年前

 帆景はその辺のパイプ椅子を蹴とばしてからソファーに苛立たしげに座った。


「マジ死ねよ『消滅』の野郎……」


 それから隣に座る日笠に目を向けてくる。


「……怪我、大丈夫?」

「あぁ、治療してもらったし、もう大丈夫」

「嘘。まだ痛そうじゃん」


 日笠は左腕をさすった。

 今日の戦闘で負傷してしまったそこには包帯が巻かれている。治癒系の能力は一度で完璧に治せるわけではなく、また短期間のうちに治療を繰り返すと体に悪いらしい。だから続きの治療はまた時間を空けてしてもらうことになっている。まだじくじくと痛むが、怪我した時よりは大分マシだ。


「ったくレジストの奴らさぁ……自分じゃレジスタンスとか名乗っちゃって、傷つけるつもりはないから抵抗するなって……馬鹿じゃん!? めちゃくちゃこっちだって怪我してるし!」


 反抗組織、レジストとの対立関係は激化しつつあった。

 彼らの目的は、能力者の解放だそうだ。能力者の存在を秘匿して情報統制し、能力の使用を規制する。そんな国家の体制に反抗しているのだ。


「能力者の存在が公表されたら、自分に素質があるって気付くやつが爆発的に増える。そしたら犯罪だって増えるだろうし、わけわかってない能力者がもっとやべー組織に使われたりしちゃうかもしんないのに……」


 能力者のほとんどは、自分が能力者だと気付いていない。素質があっても自分から気づくことは難しく、日笠自身も適性があると教えられた後に訓練を経てようやく能力が使えるようになった。


 能力者の存在が一般に知られるようになれば、きっと訓練方法だってネットで拡散されることになるだろう。そうなれば、能力者はあっという間に増えていく。

 悪いことばかりではないが、確実に大きな事件は起きるだろうし混乱でどうなるかは予想がつかない。


「そりゃ一方的に言論弾圧する国も駄目だよ。でもさ、その間に研究進めて体制整えて各国で足並みそろえて公表するって……あたしは上の人が言ってくること信じたい。だから協力してるわけで……それなのにあいつらは……」


 帆景は手を震わせて頭を抱えた。


「……日笠も愚痴っていいんだよ」

「いや……言いたいことは大体帆景が言ってくれた」


 反抗組織に対抗するこの集団、対異能特殊部隊に所属する人は、大抵帆景のように理念に共感して活動を続けている。勿論報酬が目当ての人も能力を使いたいだけの人もいるが。


「日笠さぁ……やっぱ辞めなよ。前線とかマジ危ないし。あたしがクソ上司に言うからさ」

「……だから、俺が辞めたくないんだよ」


 途中で、こんなところで降りるわけにはいかない。


「大丈夫、今日は新しい能力にまだ慣れてなくてしくじっただけだし……もっと練習すればなんとかなるって」


 笑って見せようとしたがあんまり上手くいかなかったらしく、帆景は不機嫌そうに視線をそらした。


「……日笠がそういうなら、まぁ、いいけどさ」


 全然よくなさそうな顔で、彼女はそう呟いた。

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